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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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決闘の考察と迎え




 街に鐘の音が響き正午を知らせるとクロは椅子から立ち上がる。


「では、この勝負は引き分けだ! これでいいか?」


 サライの言葉にクロは無言で頷き、レーベスは口を開く。


「いや、私の負けでいい……次は勝つからな!」


 その言葉に苦笑いを浮かべながらも拘束していたシールドを解除し四散させるクロ。


「次は無しでいいので……では、失礼します」


 一礼して逃げる様に走り出すクロとそれを追う白亜にアイリーン。エルフェリーンとビスチェは聖女たちに手を振りながら歩きだす。


「お前が負けを認めるとか、殊勝な心がけじゃないか」


「いや……負けでしょ……」


「その通りですね。シールドを使い相手を拘束した時点で殺生与奪の権利はクロさまにありました。それに自由にシールドを操ることができる魔剣だけをシールド外へ出したことや、口元だけシールドに穴を開けることの出来た時点で気が付いていますね。それができるという事は相手を拘束しシールドで首を絞めることや、完璧に相手を密封し窒息させる事もできるという事です」


 聖女の説明を耳に入れ頷くレーベス。


「そもそも貴女が魔力を上手く扱えれば、あのシールドも破壊できました」


「え!? できるのか!」


 萎れていたやる気が湧きあがるレーベスに、頬笑みを向ける聖女。横でサライは大きなため息を吐く。


「シールド魔法の破壊は力を持ってするか、同じく魔力を持ってするかだ。シールド魔法を遠隔操作で飛ばした事には驚いたが弱点がある。シールド魔法を使う者なら誰でも気が付く事だが、距離が開けば開くほどシールドの強度が劣るのだ。最初に破壊した時はシールドの固さはたいした事がないと思っただろう」


「ああ、こんなもんかって……」


「それだけ簡単に砕けるから油断した。そして、もうひとつのシールド破壊はシールドに魔力を流し干渉させて破壊する方法。魔力操作でシールドに干渉すれば簡単に壊れただろうな」


「それに気付かれないように魔剣の刃部分をシールドから出したのでしょう。もし刃の部分がシールドに触れ続けていれば、そこからヒビが入りシールドは破壊できたでしょうしね。もっといえばシールドを瞬時に狭めたのも上手い手ですね。指一本まともに動かせなくなれば焦りますし、考えが鈍ります。結果として貴女が負け……真面目に剣だけではなく魔法も努力していれば勝てたと私は思いますよ」


「そうすりゃ魔剣に魔力を流すスピードも早くなっていただろうしな」


 その言葉を聞きながら手を握っては開くを繰り返していたレーベスは拳を力いっぱいに握る。


「そっか、勝てたのか……魔力の訓練も必要なのか……」


 力いっぱい握った拳を見ながら笑うレーベス。


「恐らくだがな、クロ殿はお前がシールドを破壊するだろうと思って、いや、魔力を効率的に使う事を教えようとしたのかもしれないぞ。考えても見ろよ、本当に魔力干渉させたくなかったら魔剣を手放させ、魔力を集めやすいイメージのある両手はシールドへ干渉できなくするだろ」


「手でシールドに触れられない様に腕の半分ほどまでにする……なるほど、そうすれば魔力操作が得意なものでも干渉するのは難しくなりますね……」


 聖女は顎に手を当て考えている事を口にするとレーベスは顔を上げる。


「剣聖の娘ってのに拘り過ぎていたのかも……親父はいつも剣を振るいそれを見て憧れていたから……そうだよな……魔力を使ったって卑怯じゃないよな……」


 自身に言い聞かせるように呟くレーベスに、聖女は頷きサライは呆れた表情をする。


「剣聖は魔力操作の達人だからな。そもそも剣聖の太刀には魔力が宿りすべてを切り伏せてきた。魔力を効率的に使えなければ剣聖と呼ばれないし、魔剣士のお前には絶対的に必要になる技術だろ」


「うっ!? そ、そうだな……魔力の訓練もするよ……」


「では、私たちも戻りましょうか! お昼の用意を手伝いましょう!」


 両手を合わせる聖女にレーベスが頷きサライは笑い出す。


「遺恨を残すとは真逆だったな……クロ殿……次に会うレーベスは手強くなっているからな」


「ああ、必ず一太刀入れて見せるよ」


 レーベスたちはいい顔をして教会に戻るのだった。






 一方、クロたちは教会を出た所で明るい声を掛けられ馬車から手を振る少女と会釈をして来る青年の姿が目に入り、デジャブを感じながらも近衛兵だと思われる凛々しい騎士二名が頭を下げ待ち構えていたのだ。


「エルフェリーンさま方、この度の件で大変申し訳ないのですが、お礼がしたいと国王陛下から――――」


 近衛兵の言葉を耳に入れながら手を振る王女と王子の姿に微笑むクロ。


「ええ~僕らはダンジョンに用があるのに~」


「毎年夏になると流行る席を伴う熱風邪の特効薬を作る為にダンジョンに潜るのよ。王家が主導してくれたら私たちがもっと楽になるのだけれど」


「ダンジョンの未突破である場所もクロがいれば突破できるかもって……」


「それは聞いてませんけど! ヒカリゴケの採取が目的だって言うから付いて来たのに未突破って何ですか! ダンジョンとか、今でも嫌な夢を見るトラウマ場所なんですから勘弁して下さいよ!」


「トラウマね……それって頑張らないと一生困る事じゃない! 克服すべきは今ね!」


 クロを指差しポーズを決めるビスチェとそれを見て笑うエルフェリーン。


≪それよりも兵士の人の相手をしてあげて≫


 アイリーンも魔力で生成した糸が宙に浮き、リュックの白亜もキュウキュウ声を上げる。


「まずは城へ向かいましょう。お礼を言われるだけなら問題ないでしょうから……ですよね?」


「はい! そうして頂かなくては我々が処罰を受け、王子さまと王女さまも叱責されてしまいます」


 申し訳なさそうに頭を下げる近衛兵にエルフェリーンは「なら仕方ないね」と口にし、顔を出して待つ二人の元へと向かい馬車へと乗り込む。


「この度は王都を救って頂き、ありがとうございます」


「報告を聞いた時は驚きましたが、エルフェリーンさまやビスチェさまにクロさまの活躍が見られなくて残念でした……あら? アイリーンさまは? それにそちらの女性は……」


≪私がアイリーン。この世界で初めてのアラクネ種。えっへん≫


 馬車内に糸文字を器用に浮かべるアイリーンに王女の目はキラキラと輝かせ、王子は「世界で初めて」と呟きアイリーンを見つめる。


≪まだまだショタな王子に見つめられると照れますなぁ~≫


 アイリーンは敢えて日本語で文字を浮かべクロへと視線を向け頬笑み、ダリル王子は鼻が高くイケメンだがショタと呼ばれる年齢ではないだろうと思いながらも、その文字を手で振りかき消す。


「あれは何て書いてあったのかな?」


「教えなさいよ!」


 エルフェリーンとビスチェが興味あるのか内容を説明しろと迫り、クロは魔力創造で適当な駄菓子を作り上げると瞳が輝くハミル王女。エルフェリーンとビスチェに白亜も目を光らせ、アイリーンは新たな文字を宙に浮かせる。


≪隠れた名作はじゃが塩バター味。チキン味は普通に最強≫


 またも日本後で浮かせた文字にカルビ味がベストだと思うクロは「お前にはやらん!」と声に出す。


≪ごめんなさい≫

≪もうしません≫

≪クロさまの忠実な僕に寛大な処置を≫

≪そっちがその気なら引くぐらい土下座しますよ!≫

≪あの、本当に、ごめんなさい≫

≪うわぁ~ん≫


 などの文字が日本語で宙に現れるが、アイリーンの目はドライアイであり涙のひとつも流れていない現状に、アラクネは涙を流さないのか、それとも揶揄われているのか悩むクロであった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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