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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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ペプチの森では



「こりゃ美味い! この料理を成樹祭にお出しすれば世界樹さまもお喜びになるじゃろうて……」


「うむうむ、このムニムニとした食感の麺という料理の発想は面白いのじゃ。これは具材や味を変えても楽しめそうじゃわい」


「唐揚げもサクサクとしながらも中から溢れる肉汁が堪らん……」


「二人とも、よくぞ試練を達成したな」


 ペプチの森ではフランとクランが塩焼きそば風焼うどんと鶏のから揚げを長老たちに振舞い成樹祭で提供される料理を試食し太鼓判を押され、二人はハイタッチをして喜びフランとクランの両親も涙しながら娘たちの成長を喜んでいる。


「これで成樹祭の成功は間違いないわね!」


 ドヤ顔を浮かべる提案者のキュロットはビスチェの母でありペプチの森の長である。


 そもそも成樹祭は世界樹を中心とした五つの氏族が集まり持ち回りで料理や酒を提供し世界樹へ感謝を捧げている。その際には世界樹の精霊であり神の人柱でもある世界樹の女神が降臨し、常日頃から世界樹を守るエルフたちに労いの言葉をかけ、生まれてきたエルフの子供を抱き上げ命の尊さを教えるのが目的である。日本でいう所の赤ちゃんを力士が抱っこすると健康に育つ的な意味合いである。


「伝統的な料理を出さずに新しい料理をと言われた時は驚いたが、こちらの方が喜ばれるだろう」


「それにあの白ワインが百本も送られたと聞くが……」


「うむ、あの白ワインの豊潤な香りと味は世界樹さまもお喜びになろう」


「キュロットよ。本日は料理の味見だと聞いたが白ワインはでないのかの?」


「この料理は美味しいのだが白ワインと合うか味見しなければなるまい」


 長老たちの言葉にフランとクランが呆れたような表情を浮かべ、キュロットは大きくため息を吐く。


「それで飲み始めたら成樹祭でお出しする白ワインが確実になくなるわ。そうでなくとも前は殴り合いでどれだけのエルフが血の池に沈んだか……私は長として認められないし、長老連中だろうがこの拳で沈めるわよ」


 拳を握り締めるキュロットの言葉に顔を青くする長老たち。エルフという事もあり年齢よりも数段若く見え、目に小皺が目立ってはいるがそれでもアラフィフ止まりの容姿の長老たちは互いに瞳を合わせて誰か説得しろと視線で会話する。


「そうは言うが、我らは老い先短い身……あの白ワインを飲むことができれば心置きなく成仏できるというものじゃ……」


 長老たちの中でも一番高齢な老人が立ち上がり拳に力を入れる。すると、枯れ枝のような四肢に筋肉が湧き上がり、女性のウエストほどはあるムキムキの腕やカモシカのような足に無理やり筋肉を付けたようなしなやかさを兼ね備えた脹脛、着ていたローブが張り裂け姿を現す腹筋に至っては重厚なタイヤを思わせるほどのマッチョぶりである。


「老い先短いジジイの止めを刺すのも長の務めかしら」


 そう言って立ち上がると二人は対峙する。


「キュロットには何度か地を這わされたが、ワシも最近鍛え直してな……」


「あら、無理をなさってはそれこそ老い先が目の前ね」


 両手を広げて体を大きく見せる構えの長老。対してキュロットは拳を握って入るが構えは取らずに棒立ちに近い姿で地面に立っている。


「いいぞ~やれやれ~」


「長老が勝てば白ワインが飲めるぞ~」


「俺、生まれて初めて長老を応援するかも」


 白ワインが懸っていることもありキュロットには完全にアウェイな応援が飛び交い、それを力にしているのか背中の筋肉が更に盛り上がる長老。


「さて、一発ぐらいは耐えてくれよ」


 右腕を引いて力を溜める長老。キュロットは依然として棒立ちである。が、次の瞬間、事態は動き出す。


 放たれた大きな拳の右ストレートはどんなものでも粉砕するかのような迫力があり、事の成り行きを見守っていたフランとクランはその光景に思わす目を閉じる。が、閉じた瞬間に歓声が響き渡りゆっくりと目を開ける二人。


「嘘っ!? あの拳を受け止めてる!!」


「ん……しかも片手……」


 二人が言うように長老の大きな拳を真正面から左手で受け止め、更にはその拳を人差し指と親指を拳で握り力を込めるキュロット。


「痛っ!?」


「あら、まだまだ鍛え方が足りないわね。最近知り合ったドラゴニュートの子は私を吹き飛ばすぐらいの力はあったのに……これは残念だわ」


 そうキャロットを褒めながら握った拳に右手を添えると「ふんっ!」と気合を入れ高く持ち上げる。この光景には見ていたエルフたちも言葉を失い、持ち上げられた長老も驚きのあまりに痛みを忘れ目をぱちくりとさせ、次の瞬間には地面へと頭から突き刺さり鍛えられた腹筋の半分ほどが隠れるまで地面に沈み込み歓声が上がる。


「我らの長は最強だっ!」


「あれだけ鍛えた長老が瞬殺だぁ~」


「やっぱり長に付いて行くぞ!」


 手の平返しの言葉を受けながら他の長老たちに視線を向けるキュロット。長老たちは合わせたように首を横に振り誰もが白ワインを諦めるのであった。


「白ワインは成樹祭で楽しむといいわ」


 そう口にすると長老たちは頭を上下に動かし、エルフの若い者たちは地面に突き刺さっている長老を引き抜くべく動き出し、力を合わせてて両足を持つと掛け声を合わせて引っ張り、それを見ながらアイテムボックスのスキルを使い取り出した飲みかけの白ワインをラッパ飲みするキュロット。


 最早、極悪人にしか見えないが強い長というだけでもエルフたちにとっては頼もしいようで咎めるものはおらず、夫であるランクスはその光景を前に眉間に手を当て痛む頭を少しでも落ち着けようと揉み解すのであった。






 少し短いです。ご容赦を……熱が下がらん……

 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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