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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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ゴリゴリ係と玉子料理



 温かな日差しを浴びながらすり鉢でゴリゴリと薬草を潰すクロ。その横では七味たちが同じように薬草を潰している。二匹ですり鉢を押さえ、もう一匹がすり鉢の足を掛け両手を動かし糸で固体したすりこ木棒を動かし潰している。それがもうワンセットあり、残った一匹が薬草をクロと蜘蛛たちのすり鉢に薬草を追加している。何ともチームプレーに溢れたゴリゴリ係である。


「うむ、薬草作りとはこんないも青臭い香りなのじゃな」


「慣れるまではきつい仕事かもしれませんね」


「うむ、何気なく買い使っておったが、ポーション作りとは大変な作業なのじゃな」


 クロの前に陣取りポーション作りの大変さを考えるロザリア。他の者たちは薬草採取や洗濯に戦車作りなど忙しく動き回っており、クロとビスチェはポーション作りに精を出している。

 クロと七味たちが薬草をゴリゴリと潰し、ビスチェがその後の工程を引き受けているのだ。本来であれば師であるエルフェリーンが最終工程を行っているのだが、それもビスチェに任せ戦車作りに没頭しているのである。


「大変ですが、このポーションで助かる命も多いですから……」


「うむ、確かにそれはあるのじゃ。戦場やダンジョンで何度もそういった光景を見てきたのじゃ……それに我も何度か死のそうになって助かった事があるのじゃ……クロに感謝じゃな」


「いえいえ、師匠のかもしれませんし、錬金工房は他にもありますから」


「いや、感謝なのじゃ……錬金術の開祖であるエルフェリーンさまのお陰でポーション作りが広まったのも事実。それを受け継ぐクロに感謝するのはどうぜんなのじゃ」


 すり鉢からクロへ視線を向けたロザリア。クロも手を止め見つめてくるロザリアのしせんを受け止める。すると、ロザリアの顔にほんのり赤みが差し、クロも目の前のフランス人形のように美しいロザリアの表情に心音が高鳴るのを感じつつ視線をすり鉢に戻しゴリゴリと薬草潰しを再開する。先ほどよりも速度が上がっているのは仕方のない事だろう。


「ギギギギ~」


 隣で作業をしていた七味たちから声が上がりクロが手を止め確認する。


「おお、作業が早いな。ああ、だけどほら、まだまだ潰れていない所があるだろ。しっかりと潰さないとポーションの質が落ちるし、何よりも薬草がもったいないからな。できるだけ潰して薬草の効果を最大限に引き出すのが錬金術士としての仕事だからな」


「ギギギギ~」『わかった。潰す』


 七味たちから声が上がり一味からは念話で了解され再開されるゴリゴリ作業。


「我には確りと潰されているように見えたのじゃが、あの程度の小さな潰し残しもダメなのじゃな」


「葉よりも茎や根に薬効成分が詰まっていますから。薬草が乾燥させても使える理由はそこにあって、茎や根に残る成分は乾燥に強く、乾燥した薬草の葉がボロボロになって落ちても買い取ってもらえますね。ただ、買取り金額が相当下がりますが……」


「それは仕方のない事じゃの。我も何度か迷宮の宝を売りに出した事があるが商人は小さな事に難癖をつけ価格を抑えようとするのじゃ。ここに亀裂が~こっちに破損が~手入れがされていない~と口を揃えいいおるのじゃ」


「商人の逞しさは見習わないとですね」


「うむ、それはそうなのじゃが……クロよ。そのなんじゃ……」


 両手を合わせて指をクルクルと回し言い辛そうにするロザリアに、クロは何か重大な頼みでもあるのかと思案するが思い当たる事はなく口を開く。


「何ですか?」


「うむ、その、あれじゃ。昨日食べたすき焼きなのじゃが……」


「口に合いませんでしたか?」


「違うのじゃ! 逆じゃ! 逆なのじゃ! あまりの美味しくて、できたらまた食べたいのじゃ! アナグマの肉が美味で驚き、甘くしょっぱい醤油の味に肉の旨味が重なり味を吸った野菜や、ライスの上に乗せるとライスまであの味が移り止まらなくなるのじゃ。生卵は前に玉子かけご飯を食べ知っておったが、卵とじにするとあんなにも美味いものになるとは思わなかったのじゃ。プルプルトロトロであれほど美味いものは食べた事がないのじゃ。機会があればまた食べたいのじゃ! ダメかのう?」


 熱弁後に両手を合わせてお願いするロザリア。七味たちもその話を聞きながらすき焼きがまた食べられるかもしれないという期待に手を止めてお尻を振りクロの言葉を待つ。


「まだアナグマも残っていますし構いませんよ」


 その言葉にロザリアは目を輝かせ七味たちは踊り始める。


「本当じゃな!」


「はい、今晩だとあれですから数日後に作りますね。今度はアナグマの肉以外にも牛肉や鳥肉にしても美味しいですよ。すき焼きに似た玉子料理なら親子丼とかもいいですね。鶏肉と玉ねぎを同じような味付けで煮て卵でとじご飯の上に乗せた料理です」


「うむ、それも食べてみたいのじゃ」


 瞳をキラキラとさせ親子丼を所望するヴァンパイア。七味たちも踊りを継続しており両手を上げてお尻を振り続けている。


「こらっ! 何をさぼっているのかしら~」


 薬草の追加を持って現れたビスチェの声に七味たちは踊るのをピタリとやめゴリゴリ係を再開し、クロも同じようにゴリゴリと音を立てて薬草をすり潰す。


「ビスチェよ。我が悪いのじゃ。我が昨日のすき焼きに感動して、また作ってくれとお願いしたのが悪かったのじゃ……」


「そうだとしても手は動かせるはずよ。七味たちもちゃんとやらないと夕食抜きだからね」


「ギギギギ!?」


 ビスチェの脅迫にゴリゴリのスピードがアップする七味たち。


「ちなみにビスチェが好きな玉子料理とかはあるか? 俺は茶わん蒸しかな」


「茶わん蒸しは甘くないプリンよね?」


「その考え方で間違ってはいないが、出汁を含んだプルンとした食感と仄かに苦い銀杏やエビの食感とかも楽しいよな」


「私はプリンね。甘い玉子焼きも好きだけどプリンのプルンとした食感と黒いソースの甘く苦い感じが好きよ。あとはオムライスも美味しかったわね。トロトロの玉子が掛かったオレンジのライスも美味しいわね。ケチャップで名前を書くもの面白いわ」


「オムライスは前に食べたのじゃ。あれも美味しかったのじゃ……」


「玉子のサンドイッチとかも美味しいですよね~目玉焼きとかはご飯の上に乗せてお醤油かけて食べると最高です!」


 アイリーンが空から現れ玉子トークに参加し話が盛り上がって行く。


「ご飯には生卵だろ」


「敢えての目玉焼きがいいのですよ~千切りのキャベツと軽く焼いたウインナーをご飯の上に乗せて、マヨと甘めなタレをかけた丼とかも最高に美味しいですね~」


「それは美味そうだな……」


「あら、前に作った味が染みたゆで卵も美味しかったわよ。醤油の味を吸って齧り付くと中からトロトロな黄身があふれ出てくるの。あれは絶品だったわね!」


「煮卵だな。前に作った時は半熟で美味しいものができたよな。酒のツマミにもよく合うと師匠とルビーが喜んだっけ」


 腕を組み思い出しながら口にするクロ。


「師匠とルビーさんで思い出しましたが、鍛冶場近くに真っ黒な軽トラが見えたのですけど……あれは?」


「異世界人が軽トラを勘違いして再現したものだな。結局は馬で引くタイプの軽トラです」


 クロの説明に肩を揺らすアイリーン。他の者たちには伝わらず首を傾げるがクロの言葉が間違いなく正解だろう。


「少し見てきますね~」


「我も興味があるのじゃ」


「わ、私も……見てくるわね!」


 ポーション作りという仕事を放り出すことと先ほど七味たちに夕食抜きといった手前、見に行くことに罪悪感を覚えるが興味が勝ったようでロザリアたちを追い走り出すビスチェ。


「気を付けてな~」


 クロの声を背中に受けながら異世界初の軽トラを見学しに行くビスチェたちであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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