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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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アナグマを使ったすき焼きとロザリア



 戦車に目を輝かせるエルフェリーンに女神ベステルから銃の使用は禁止されている事を話すとあからさまにテンションを落とすが、それでもキャタピラという仕様を説明すると目の光を取り戻し「キャタピラを使った車を絶対に作る!」と宣言し、ルビーもそれなら上に大きな梯子を付けようと案を出し、安堵したクロは夕食の支度へとキッチンへと移動する。


「クロ先輩~解体終わりましたよ~」


 家に入るとアイリーンが巨大な肉の塊を糸で持ち上げ七味たちも手を上げ、ロザリアはすき焼きに興味があるのかカウンター席に座りクロを出迎える。


「すき焼きの準備なのじゃ!」


 期待を裏切る訳にはいかないなと思いながらキッチンへ入り手を洗うと、アイリーンが肉の部位を説明しながらキッチンテーブルに肉の塊を置いて行く。


≪あばら肉≫≪胸≫≪腕≫≪もも肉≫≪背中≫≪おしり≫≪舌≫≪首まわり≫≪両手≫


 わかりやすく肉の部位に文字を浮かべるアイリーンに感謝しながら、脂身の多いあばら肉と煮ても柔らかいだろう背中の肩ロース部分を切り分け、味見に薄くスライスして竈に魔剣で火を入れてフライパンを使い焼き口にする。


「どうです? どうです?」


 味見をするクロにグイグイ来るアイリーン。七味たちやロザリアも興味があるのかワクワクしながらクロの言葉を待つ。


「思っていたよりも癖がなくて脂が甘いな。肩ロースの方は柔らかさもあるし噛み応えもあって牛肉よりも美味いかも……」


「それならすき焼きとやらに使えるのじゃな?」


「そうですね……肉のサシの入り方は牛肉よりも荒い感じですが肉自体の旨味と脂の甘味が強いですね。これならすき焼きにも使えますね」


 その言葉にアイリーンを加えた七味たちが両手を上げてお尻を振り、ロザリアも満足げに頷き、その横ではメリリやメルフェルンにシャロンもキッチンカウンターに腰を下ろすとクロの作業を見守る。


「七味たちはこの二つの肉を薄切りにしてくれ。アイリーンは白菜を切ってくれるか」


「ギギギギ」と声に出し鳴き声を上げ作業に取り掛かる七味たち。アイリーンのように強く強靭な糸を出すと肉をスライスし、アイリーンも踊りをやめクロが魔力創造で作り出した白菜を白薔薇の庭園を使い切り分ける。


「あれは以前にも見たのじゃ。スープに多く使う野菜じゃな」


「うふふ、白菜と呼ばれる野菜ですね。寒い時期によく食べられるそうですよ」


「スープの味を吸うと美味しですね」


「僕は鳥の水炊きに入れる白菜が好きかな。ポン酢の味も好みだし、白菜が鳥の出汁を吸って本当に美味しいからね」


 キッチンカウンターではロザリアを中心に白菜の話で盛り上がっていると、菜園で作業を終えたビスチェや遊び疲れたキャロットと白亜に小雪が戻りキッチンカウンターで話すロザリアたちと合流する。


「今夜はすき焼きなのじゃ」


「すき焼きは美味いのだ! あれは婆さまも驚いていたのだ!」


「キュウキュウ~」


「あら、それなら早くお風呂に入って夕食まで時間を潰しましょうか」


「入るのだ~」


「キュウキュウ~」


「わふっ!」


 ビスチェたちがお風呂へと向かい、それを見送ったロザリアはまだ見ぬすき焼きという料理に胸を膨らませる。


 キャロットはいつもの事じゃがビスチェまでが楽しみにするとはどんな料理なのじゃ? 肉と白菜を使うと言うことは鍋料理なのじゃろうが、鍋料理ならすき焼きと言わずにすき焼き鍋とクロは言うはずじゃが……うむ、わからん……ん? あれは前にスープに入れてあった豆腐じゃな。豆腐を初めて食べた時は驚いたのじゃ。あんなにも脆い食品は売り出すことなど不可能に近いと思うのじゃが……

 おお、七味たちが肉を切り終えたのじゃ。切り終えたが薄すぎなのじゃ。あれでは肉本来の味が抜け落ちてしまうのじゃ。しかも鍋にするという事は肉を煮込むはず……


 ひとり考え込んでいたロザリアはその後も長ネギや白滝にキノコなどをカットするアイリーンと七味たちの料理の手伝いを見つめ考察を続け、クロは空いている竈で米を炊き始める。


「米も炊くのじゃな」


「うふふ、炊き立てのお米は美味しいですよね。前にアイリーンさまからバターと醤油をかけて食べる方法を教わり、その味の虜になりました」


「あれは絶対に太る食事とクロさまに注意を受けていましたよね」


「はい……深く反省を致しました……が、アイリーンさまからは別の誘惑を教わり……」


「マヨと醤油をかけたご飯ですね。あれは僕も好きですよ」


「それもクロさまに注意されていましたよね……」


 メリリに呆れた視線を送るメルフェルン。シャロンは元々小食な事もあり太る事はなかったが、メリリは元冒険者で食べられるときに食べるという習慣があってか、秋から冬にかけその体重を増やし続けたのである。今はアイリーン特性のダウンコートと魔改造したルームランナーで元の体系を取り戻したが、油断をすればすぐにその体系を大きく膨らませる事だろう。


「よし、ご飯も炊けたし後は蒸らして」


「こちらも終わりましたよ~七味たちが大活躍でしたね~」


「ギギッギギ~」


 褒められた七味たちは七匹で両手を上げてお尻を振り、ザルには多くの野菜が積み上がっている。


「ビスチェたちがお風呂から出たら夕食にしますので、誰か師匠とルビーを呼んできて下さい」


「それなら私が行きますね~」


 そう言葉を残した次の瞬間には糸を飛ばし吹き抜けを飛び上がるアイリーン。七味たちは手を振り見送り次の指示はないかとクロへ視線を向ける。


「あとは待つだけだからな。気持ちは嬉しいが待っていてくれ」


「ギギギギ~」


 七味たちが片手を上げ了解するとクロは底が薄く大きな鉄鍋を用意すると竈に設置し煙が上がるまで火を入れて下ろし、アナグマの脂を取ると鍋に入れ立ち込める煙。


「この香りは牛肉以上に食欲を誘うな……」


 煙の匂いに反応したクロに遅れてキッチンカウンターで様子を見ていた者たちも鼻をヒクヒクとさせ香ばしい匂いに表情を緩める。


「何やら焼き始めたのじゃ」


「普段なら後ろ呼ばれる動物の脂を焼く所から始めますので、恐らくはアナグマの脂を焼いたのでしょう」


「うふふ、すき焼きは最初に脂を入れて焼きコクを出すそうです。それから肉とザラメと呼ばれる結晶化した砂糖と醤油に酒を入れ肉を食べされてくれるのですが、それがこの世で一番に美味く、私はこの一枚を食べる為に生まれてきたとさえ感じました。」


「最初の一枚は美味しいですよね。生の玉子に付けても美味しいですし、前は大根おろしで頂きましたが絶品でした」


「それを米で巻いて食べるのも美味しいのだ!」


「キュウ~」


 お風呂から戻ってきたキャロットが叫び、鳴き声と共にお腹を鳴らす白亜。ロザリアは皆の話を聞き小さく鳴るお腹を両手で押さえキッチンで作業するクロの後ろ姿を見つめる。


「すき焼きだって!?」


「お酒も持ってきましたよ~」


「この香りは堪りませんね~ご飯が何倍でも行けちゃいそうですね~」


 エルフェリーンとウイスキーの瓶を両手で持つルビーにアイリーンがリビングに加わりクロは最初の肉を入れ片面を焼き裏返すとザラメを掛け醤油を垂らして酒を振る。一気に香りが広がり皆で鼻をヒクヒクとさせた所で遅れてお風呂から上がったビスチェが深く深呼吸をしてその香りを楽しみ、キッチンカウンターで待つ皆の元に最初の一枚が配られる。


「これがすき焼き……」


 ロザリアの目の前には一口よりもやや大きなアナグマの肉が置かれ、醤油とザラメに香ばしく焼かれたそれを口にする。


「ふぇっ!? 溶けたのじゃ! 口の中で溶けてなくなったのじゃ!?」


 あまりの出来事に驚いているとまわりからは絶賛する声が響き、急ぎ目を閉じて口内に残る味と香りを確かめるロザリア。


「くっ!? あまりの衝撃に味がよくわからんかったのじゃ……」


 皆が表情を溶かすなか一人眉間に皺を寄せるロザリア。それを見たクロは口に合わなかったのかと心配するが「もう一枚食べるひとは挙手!」と声を掛けると皆が手を上げ、ロザリアも天高く手を上げる姿に胸を撫で下ろすのであった。






 ちょいと高熱が出てダウン中……更新が遅れらた申し訳ないんです……

 

 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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