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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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異世界の軽トラ



「クロ~見て欲しいものがあるんだ! さあさあ、こっちに来てくれよ~」


 七味たちの料理を食べ終えたエルフェリーンはクロの袖を引っ張り、後ろからはルビーがニヤニヤとした表情で先ほど呼びに行った離れの鍛冶小屋へと向かう。


「巨大ムカデの素材を使ってちょっとしたものを作っていたのですが、それなりの形になりましたからね~クロ先輩に見てもらいたいのです」


 後ろからの声に巨大ムカデの姿を思い出して足を止めそうになるが、袖とドワーフ特有の怪力で腰を押されている事もあり足が止まる事はなく離れの鍛冶場の裏まで辿り着く。


「ふっふっふっふ、見るがいい! 僕とルビーが作った最高傑作を!」


 鍛冶場の裏には大きな布が掛けられた物があり驚かせようとしている事が理解できるが、その形はあからさまで何が登場するかすぐに理解するクロ。


「車ですか?」


 クロの袖から手を放し大きな布に手を掛けたエルフェリーンは向き直り口を尖らせる。どうやらクロが先に正解を口にした事は不正解だったのだろう。


「クロのそういう所はダメだぜ~クロが喜ぶと思って作ったのに~」


「先ほどは急いで布をかけて誤魔化しましたがこうして見ると形がまるわかりですね……」


 ルビーも今更ながら隠してもその形でバレバレだと悟り腰から手を放して口を尖らせるエルフェリーンの横に並ぶ。


「いえ、驚きましたよ。それは本当です。こっちの世界は馬車だけだったし、乗り心地も悪いものが多くて……」


 クロのフォローにエルフェリーンは尖った唇を戻して布を引っ張り、ルビーもそれを手伝い姿を現す漆黒のボディーを持つ軽トラック。見た目は軽トラックそのものに見えるがフロントガラスはなく、そこから伸びる二本の革製の紐に頭を傾げるクロ。他にも細かく見て行くと違う所が多く、タイヤはゴムが使われている事はなく代わりに強度の高いムカデの足を輪切りにした車輪が付けられ、荷台には座席が備え付けられそこに座るのだろうか?


「あれ? 思っていたリアクションとは違うぜ~」


「クロ先輩なら喜ぶと思ったのですが……」


 クロが首を傾げている事に二人は不安になりながら、参考にした日本の雑誌をアイテムボックスから取り出すエルフェリーン。


「これとそっくりに作ったけど違うのかな?」


「やっぱり荷台には座席が必要ないのですかね?」


「いえ、そうではなくて………………これって車の形をした馬車ですよね?」


「そりゃ馬が引くのが一般的だろ?」


「そうですよ~クロ先輩だって馬車には乗った事があるじゃないですか。馬や走り鳥が引くのが一般的です」


 車という物の根本を知らない二人からしたらクロが魔力創造で作りたした雑誌に載っていた車の絵を見て、動力がエンジンだということに気が付かなかったのは仕方のない事だろう。


「えっと、車は馬や走り鳥が引かなくてもエンジンという動力で自走することができますね。ゴーレムに似ていると言った方が理解しやすいかな?」


「なるほど! ゴーレムに引かせるのですね!」


 平手に拳を打ち付けるルビー。


「いや、引かせるのではなく、車のタイヤ、車輪が回って動くと言った方が正しいです。その雑誌には車が走る姿がないから誤解したのかも、ちょっと待って下さいね」


 そう言って魔力創造を使い車系の雑誌を創造するクロ。コンビニ店員だった事もありそれらの雑誌はよく記憶しており数冊作り終えるとページを捲り、エンジンや走っている車のページを開いて説明する。


「な、なるほど……エンジンとは可燃性の液体を爆発させて回転力を生むのか……これは凄い発想だね……」


「可燃性の液体を積んでいるだけでも危険なのに、それを定期的に爆発させ推進力に使うとは驚きです……」


 鍛冶以外でも活躍する二人の理解力は高くクロが驚くが、それ以上に驚いたのはエルフェリーンの口にした言葉であった。


「可燃性の燃料よりもクロが言うようにゴーレムを使ったエンジンにすれば爆発する危険もなくて安全なのに……よし、作ろう!」


「人を乗せて走るのならゴーレムのような人型よりも車の形をした方が効率的かもしれませんね」


「いえ、エンジンをゴーレムで再現するのですか!?」


 驚くクロにエルフェリーンは深く頷き、ルビーはページをペラペラと捲りエンジン部分と接しているギアを入念に見つめる。


「その方が面白いぜ~この世界発のゴーレム車を作って………………何をする?」


 テンション高く言葉にするエルフェリーンだったが、車を使い移動したり荷物を運んだりという発想が浮かばないのには理由がある。エルフェリーンはアイテムボックスという便利な収納や転移魔法や空を飛ぶ魔術が使え楽に移動する事ができるのである。


「やっぱり移動したり荷物を運んだりでしょうか? 最初は馬車として作りましたから運用も馬車と同じでいいのでは?」


 二人の言葉にドライブやキャンピングカーやキッチンカーなどを思い浮かべたクロはそれを口にするか迷いながらも車雑誌をペラペラと捲る。


「基本的な車を作ってみてから応用編にするのがセオリーだぜ~最終的にはこっちの黄色いドラゴンのような車も作ろうぜ~」


 エルフェリーンが指差し先には黄色いショベルカーが写っておりルビーが目を輝かせる。


「この人と大きさを比べると相当大きさですね!」


 雑誌に写っている人と比べショベルカーの大きさを理解するルビー。


「ゴーレムで作れば温暖化とかもないのかな? いや、でも、オーバーテクノロジーとかでは?」


 顎に手を当て考え込むクロであったが、問題があるなら女神ベステルが止めに入るだろうと思い乗用車以外も載っているだろう建設重機を取り扱っている雑誌も魔力創造すると目を輝かせる二人。


「こ、これはどれだけ大きいんだ! 下手したら白夜よりも大きいかもしれないよ!」


「こっちは魔化したキャロットさんの身長よりも高い所へ人を運べますよ!」


 世界最大のショベルカーが特集されているページを見てテンションを上げるエルフェリーンと、クレーン車を保健室にある身長計として考えるルビー。


 クロは雑誌に夢中な二人を放置し軽トラへと近づき内装などに視線を向ける。


「外装は鉄よりも堅そうだし、内部も黒の革のソファーでドリンクフォルダーもあるのか凄いな……メーターに似たものは何を計っているのか……解らんな……」


 車内を覗き込んだクロは内装の再現度合いに驚いていた。クラッチやブレーキにアクセルなどはないが、サイドブレーキやメーター各種にワイパーなども設置されている。設置されているがワイパーが動くことはないだろう。そもそもフロントガラスがない時点で動いたとしても意味がないのである。


「俺の為に作ってくれたと思うと嬉しいな……」


 鼻の下を軽くこすりながら言葉を漏らしたクロは振り返り雑誌に夢中な二人へ視線を送る。


「この車は変わった車輪だぜ~前に筒があって、ここから鉄の玉を打ち出す使用だぜ~」


「こっちの車は上にプロペラがあって空を飛んでますよ!? このプロペラは天井に付いているものと同じですよね!!! この家も頑張れば飛べるかもしれません!!!」


 エルフェリーンは戦車に目を輝かせ、ルビーは家の天井に取り付けられているシーリングファンを思い出したのか家ごと空へと飛び上がる発想に、クロは慌てて止めに入るのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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