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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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フランとクランの帰郷と薬草取り



「師匠! お世話になりました!」


「ん……感謝……」


「ああ、成樹祭も頑張ってな」


 リビングではフランとクランがクロに向かい頭を下げ、それを見つめる七味たち。


「妹弟子たちも師匠から色々と学ぶように!」


 頭を上げたフランの言葉に右手を上げて了解ですと言わんばかりに敬礼をする七味たち。


「ん……七味たちの方が切るスピードがもう速い……フランは既に抜かれている……」


 クランの言葉にお尻をフリフリしながら喜ぶ七味たち。フランはジト目をクランに向けるが、事実七味たちの包丁捌きは師であるクロ以上に早くクロは何も言わずに頷くだけである。


「まあまあ、お互い切磋琢磨するのは良い事だからな。フランとクランは成樹祭での料理を頑張ってくれ。多くのエルフに焼うどんとから揚げを提供して美味いと言わせてくれればいいからな」


「はい! 必ず!」


「ん……殴ってでも言わせてみせる!」


 元気な返事をするフランと拳を握り締めるクランに若干の不安を感じながらも二週間ほどの料理修行を終え、本日ペプチの森にあるエルフの里に帰る予定で、更に二週間後には成樹祭と呼ばれる世界樹を祭った祭りが行われその場でフランとクランが料理を仕切る予定である。


「殴らなくてもビスチェも師匠も美味いと言っていたから問題はないはず。それにキュロットさんに頼まれていた白ワインや他の酒類も用意したから忘れずに持って帰ってくれよ」


 そう口にしながらキュロットから預かっているマジックバックを渡すクロ。フランが受け取り大事そうに抱き締める。


「それを持って逃げれば白ワイン飲み放題……」


 クランの助言にビクリと体を震わせるクラン。冗談だろうが身を震わせるリアクションに、今度はクロからジト目を向けられるのであった。







「ギギギギギ~」


「気を付けてな~」


「みんなに宜しく言ってね~」


 七味が手を振りクロやビスチェたちに見送られユニコーンに乗った二人が舞い上がりあっという間に空へと消える。魔術が使えるユニコーンは風の魔術で空を羽ばたき走り、三時間ほどで馬だと五日掛かる距離を移動することができる。そうランクスが自慢げに語っていたのだ。


「何だかあっという間だったな」


「あら、弟子がいなくなって寂しいのかしら?」


「寂しいと言われたら少しだけ寂しいが、塩焼きそば地獄から解放されたと思うとな……」


 フランとクランの料理修行は連日行われ手打ちうどんを使った塩焼きそばを飽きるまで食べさせられたクロたち。キャロット以外は塩焼きそばの香りを嗅ぐだけで逃げ出すほどである。


「確かにあの料理は美味しいけどしばらくは食べたくないわね……」


「どんな料理も毎日食べるのは苦痛だよな……」


「ほら、それよりも遅れているポーション作りを再開するわよ! 七味たちも薬草採取を手伝いなさい! もしかしたら貴女たちの中に錬金の才能がある子がいるかもしれないわ! クロは追いつかれないよう必死に学ぶことね~」


「ギギギギ~」


 見送りを終えたビスチェたちは菜園近くへとそのまま足を延ばし、籠を片手に薬草採取へと向かう。その後ろを七味たちが続きシャロンやメリリにキャロットと白亜も手伝い薬草採取が行われた。

別行動をするアイリーンとロザリアに七味の六美と七美は狩りへと出掛け、アイリーンが仕掛けた罠を見回っている。


「こっちが止血に使える薬草で、これが解熱剤に使われる薬草。鎮痛効果がある薬草はこれで、腹痛にはこの薬草を使うのが一般的だな」


 一味から五味に教えながら採取するクロ。一味たちはそれぞれ薬草を覚え動き出し背中に固定した籠に入れては場所を移動して採取する。


「うふふ、思っていたよりも優秀ですねぇ」


「七味たちの知能は高いく薬草も一発で覚えましたし、料理の方も一度教えると完璧にこなしますね。フランとクランと比べる訳ではないですが優秀ですよ」


「僕はこの前、破れた靴下を縫ってもらいました。凄く器用で驚きました」


「私は一緒にお風呂に入ったのだ!」


「キュウキュウ~」


「一緒に体を洗い合ったのだ!」


「キュウキュ~」


 キャロットと白亜も七味たちとの付き合いに問題はなく『草原の若葉』の一員として活動し、この場にいないメルフェルンともそれなりに近い距離で話せるまでには虫嫌いが改善している。


「アルーさんとも仲が良いよな」


「アルーに集る小さな虫を退治しているわね。感謝されて喜んでいたわよ」


「蜂とも仲良しなのだ!」


「前は妖精を背中に乗せて走り回っている所も見ましたね。あれは楽しそうでした」


 七味たちの目撃談を話しながら薬草を採取していると、いつの間にやら妖精たちも薬草採取を手伝い籠には多くの薬草が集まりお礼を言って立ち上がるクロ。


「おお、もうこんなに集まったか、みんなありがとな」


「えへへ~」


「いっぱい採れた~」


「これは蜂蜜が貰えるはず~」


「蜂蜜ほしい~お酒作る~」


 妖精たちもそれなりに下心があったのかクロから魔力創造で創造した蜂蜜の瓶を受け取るとみんなで持ち上げ去って行く。


「クロの蜂蜜で妖精たちにお願いするのはアリかもしれないわね! 薬草取りは腰にくるわ」


 立ち上がり体を逸らせ背中を伸ばすビスチェ。キャロットや白亜も同じように背中を伸ばし、それを真似した三美が背中の籠の存在を忘れ重さに耐えられずにひっくり返りギギギと笑いお尻を揺らす七味たち。シャロンやキャロットもそれを見て笑いながらも手を貸し起き上がらせ、照れたように頭を掻く仕草をする三美の姿に蜘蛛の姿の頃のアイリーンを思い出すクロ。


「アラクネになる前のアイリーンを思い出すな」


「あの頃は七味たちと同じ蜘蛛の姿だったものね。ジョロウグモだったかしら」


「その後にはメタリックな蜘蛛になったな。プリンセススパイダーだったかな」


「その後にルビーが加わったわね! 王都のダンジョンで大怪我をしているルビーを見つけた時は驚いたわね」


「次はキャロットが魔化した姿で家の結界に阻まれて転んだよな。ドランさんと一緒にここにきて白亜と仲良くなって」


「そうなのだ! 白亜さまとは仲良しなのだ!」


「キュウキュウ~」


 白亜を抱き上げるキャロットと尻尾を振りながら嬉しそうになく白亜。


「次に来たのはシャロンとメルフェルンね!」


「グリフォンに乗って現れた時は驚いたが、カリフェルさんからの依頼でイナゴ退治に向かったっけ……あれは大変だったな……」


 昔を懐かしむようにシャロンへと視線を送るクロ。シャロンは微笑み口を開く。


「イナゴの時は大変でしたがいい思い出です。それにその事がなければ今の自分はなかったと思います」


 シャロンの言葉と微笑む姿にドキッとするクロだが、空から降りてきたアイリーンと糸で縛られている大きな爪の長い熊に驚く一同。六美と七味が片手を上げギギギと鳴き、ロザリアもドヤ顔で口を開く。


「大物ですよ~」


「わふっ!」


「アナグマなのじゃ。六美と七美が誘い出して我が仕留めたのじゃ」


 ロザリアが腰に手を当て仁王立ちでドヤ顔を披露し、六美と七美も同じように立ち上がり仁王立ちするさまを見て肩を揺らす一同。


「解体しますので美味しい料理をお願いしますね~」


「アナグマはあっちでも幻のジビエとか言われていたから美味いかもな。生姜焼きかステーキか、すき焼きとかも……」


「すき焼きとはどんな料理なのじゃ?」


「ロザリアさんはすき焼き食べたことなかったでしたっけ。それならすき焼きにしましょうか」


 その言葉にアイリーンは目を輝かせ、味を知るビスチェやシャロンも同じように目を輝かせメリリが微笑みを浮かべる。


「今日は御馳走ですね! では、解体へ行ってきます~」


 アイリーンがアナグマと共に飛び去り慌てて後を追う六美と七美。


 夕食はすき焼きに決まるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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