七味たちの料理とメルフェルン
多少の手直しがあったもののキッチンが完成し歓喜の舞いをクロの前で披露する七味たち。腰には名前が書かれた七色のリボンを付け両手を上げてお尻を振る姿に思わず笑い出しそうになるクロ。手伝ったメリリは肩を揺らしロザリアは笑い声を上げる。
「ギギギギ」
「それなら何か作ってみましょう!」
「ギギギ~」
歓喜の舞いが終わると一斉にアイリーンへ鳴き声を上げる蜘蛛たち。どうやら実際にキッチンを使いたいのだろう。
「あっ!? その前に一味はクロ先輩にも分かりやすく念話を送ってからですね~」
アイリーンは何やら考えがあるのかニヤニヤとしながら言葉にし、七味たちのリーダーである一美は腕をシャカシャカと動かし落ち着かない様子でアイリーンとクロを交互に見つめる。
「最初は誰でも上手く行かないものですよ~気楽に念話を送ればいいのですよ~」
「ギギギギ……」『ク……ロ……あり……が……と……ん……』
ギギギという蜘蛛の声の後に脳内に響く自身の名とお礼の言葉にクロは一瞬呆気に取られ、頭を掻きクロのリアクションを恥ずかしそうに待つ一美。隣のアイリーンから肘をクイクイとされ一美を改めて見つめるクロは手を伸ばし一味の背を優しく撫でながら口を開く。
「ありがとうだな。ちゃんと念話が伝わったからな。よく頑張ったな」
「ギギギギギ~~~」
一美の念話がちゃんと伝わった事と口にするクロの瞳には薄っすらとだが潤み、連日夜遅くまでアイリーンや他の蜘蛛たちと念話の修行をしていた事を知っているのか胸に込み上げてくるものがあり、歓喜する七味たちの両手を上げてお尻を振る姿に流れ落ちる涙。
「うぇっ!? 何でクロ先輩が泣いているのですか!!」
「いや、ほら、頑張っていたろ。屋根裏で何度も練習している姿が目に入ってな……一味は頑張ったな……」
「いやいや、泣き過ぎですよ~一美は念話で伝わる声に可愛らしさがないのと緊張していただけで……まあいっか! それよりも七味たちで何か作って下さいよ~」
アイリーンの言葉に元気に手を上げギギギと叫ぶ七味たちは竈に薪と落ち葉を入れクロから火起し用に貰ったマッチを使い器用に火をつけると一斉に動き出す。一美をリーダーに二美と三美がアイテムバックから大きな鳥肉を取り出すと、四美と五美が糸を出し六美と七美の手にナイフを固定する。
「役割分担が確りとできておるのじゃな」
「うふふ、何だか可愛らしいですね~」
竈のまわりは段差がなく作業しやすいようで鳥肉はあっという間に一口サイズにカットされ二美と三美が塩コショウを振り五美がショウガを加えて和え、その間に六美と七美が大きな鍋に油を注ぎ入れ、一味が小麦粉を用意した大きなボウルに二美と三美が下味を付けた鳥肉を移し替える。
「上か格子状になっていると糸からぶら下がり作業ができて便利ですね」
「落下には注意だからな。七味たちの素揚げとか見たくないからな」
涙も治まり口を開くクロに片手を上げてギギギと応える七味たち。その後はクロが教えたようにテキパキと作業を行いあっという間に完成する鶏のから揚げ。
「見事なものなのじゃ……」
「うふふ、七味たちにはこちらのキッチンの方が作業しやすいのですねぇ」
「あっちの竈だとどうしても掴まる場所が限られますし、ちょっとした段差も体の小さな七味たちには障害になりますからね~」
皆で感心したように七味たちの動きを観察しているとクロが口を開く。
「折角だからシャロンや師匠たちに声を掛けてきますね」
その言葉に七味たちはギギギと声を上げ更に何か作るのか、七味たちに与えられたアイテムバックを漁り始める一美。熱々を食べさせたいクロは急いで家へと戻り窓際で様子を見ていたシャロンとメルフェルンに声を掛ける。
「七味たちが料理を振舞ってくれるから外に来ないか? 俺はこれから師匠たちにも声を掛けてくるからさ先に行っててくれ」
返事も聞かずにエルフェリーンとルビーがいるであろう鍛冶場へと続く廊下を走るクロ。二人は顔を見合わせシャロンが頷き動き出し、メルフェルンはシャロンの頷きに一瞬躊躇うもシャロンの後に続き玄関へと向かう。
外に出た二人は七味たちが料理をする姿を視界に入れるが上から現れたキャロットと白亜の叫びに笑みを浮かべる。
「いい匂いがするのだ!」
「キュウキュウ~」
空から降り立ったキャロットの第一声に肩を震わせるシャロンとメルフェルン。恐らく白亜も同じような言葉を叫んだのだろう。
「わふん!」
お昼寝をしていた小雪も自信の食事用の皿を持って現れアイリーンの足元でお座りの姿勢を取り尻尾を揺らす。
「みんなさん七味たちが作る料理に興味があるようですね」
家の壁際でその様子を見つめるシャロン。メルフェルンはまだ蜘蛛である七味たちが苦手なのかシャロンの傍から離れることはないが、シャロンが女性恐怖症ということもあり何かに掴まりたいという衝動を何とか堪え自身のフリルの多いエプロンを握り締める。
「ギギギッ!?」
作業台の上で指示を出しながら大根を摩り下ろしていた一美が声を上げ素早く動きシャロンたちがいる方へと飛び出し糸を放出し、悲鳴を上げるメルフェルンとそれを守ろうと両手を広げるシャロン。
「キャァァァァァァッ」
絹を切り裂くような悲鳴が響き渡り一同の視線を集め、玄関からは急いで出てくるクロとエルフェリーンに酒瓶を持って現れるルビーとコック姿のフランとクラン。
「ギギ……」『怖がらせ……て……ごめ……ん……』
頭の中に流れ込んできた念話に悲鳴を上げていたが顔を上げるメルフェルン。目の前には頭を下げる赤いリボンを巻く一美がおり更に悲鳴を追加しそうになるが、シャロンが震える手でメルフェルンの背中を摩りながら口を開く。
「メル、落ち着いて、一美はメルを助けてくれたからね。ほら、驚かないでこっちを見て」
女性恐怖症という事もあり震える手で優しく背中を撫でながら声を掛けるシャロン。その指差す先には二十センチほどのムカデが糸で壁に固定されている。背中を壁に預けていたメルフェルンがいた場所のすぐ近くを張っており一美が糸を放出していなければ今以上の恐怖を味わった事だろう。
「ひっ!?」
小さく悲鳴を上げるが状況が飲み込めた事も冷静さを取り戻し、ゆっくりと視線を一美に戻したメルフェルンは頭を下げて口を開く。
「あ、ありがとうございます」
まだ恐怖心があるのか声が籠り震え、お礼を言われた一美は嬉しいのか両手を上げてお尻を振り喜びのダンスを行い他の七味たちも同じようにダンスを披露する。そんな姿を視界に入れたメルフェルンは怖がっていた自分が小さく馬鹿らしく思え微笑みを浮かべ手を差し出したシャロンの震える手を取り立ち上がる。
「ありがとうございます。もう大丈夫です……シャロンさま?」
「そ、それは良かった……良かったね……」
真っ青な顔をするシャロンに気が付いたクロは素早く駆けつけ肩に手を回し近くにある椅子に座らせ、申し訳なさそうにするメルフェルンだったが七味が水を入れた木製のカップを掲げ現れシャロンはそれを受け取り口に運ぶ姿に、それは私の業務では? と七味たちに対して小さな嫉妬心が芽生え、腐っているアイリーンは鼻息を荒くしながらその光景を見つめ親指をクロに向けて立てていた。
「美味しいのだ!」
「キュウキュウ~」
そんな光景とはお構いなしにから揚げを味見するキャロットと白亜。七味たちは素早く木製の皿に盛ったから揚げ大根おろし添えを配り始めメルフェルンもそれを受け取り口に入れ表情を溶かすのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。