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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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四女神とプラスひと柱



「それにしても面白い変化をもたらしたわ。原初の蜘蛛が料理に興味を持つなんて想像もしなかったわ」


 天界で炬燵に入りクロの作ったどぶろくに口を付けながらサバの味噌煮を口にする女神ベステル。その前の席ではきんぴらをツマミに梅酒を口にする叡智の女神ウィキール。厚揚げに薬味をたっぷりと乗せ生姜醤油で口に入れあまりの熱さに畳の上を転がる愛の女神フウリン。日本酒を肉じゃがとを交互に口に運ぶ武具の女神フランベルジュの姿があり、何とも日本的な空間が形成されている。


「原初の蜘蛛か……世界に五匹いるとされている蜘蛛の女王だったか……魔物の中でも古く知性があるが……料理を覚えたいと自身の娘たちをクロに預けるとは……」


「料理をする魔物というだけでも珍しいですのに、現にこうして蜘蛛たちが作った料理が奉納されているのですから驚きですわね」


「フェンリルとの交流の時にも思ったけど、クロは料理で人だろうが魔物だろうが味方に引き入れているのかもしれないわね。お粥を食べている時の原初の蜘蛛は私が見ても幸せそうな顔をしていたわ。蜘蛛たちの喜びの舞いも見ていて面白かったわね」


「ふぅ……厚揚げの温度を見誤りましたぁ~これは凶器ですぅ~」


 齧り付いた厚揚げで軽く火傷した愛の女神フウリンは冷えたカシスオレンジで口内を冷やす。


「ふふ、それにしても蜘蛛が和食を作ったのにも驚きましたが、あれほどの巨大なムカデが世界で生存している事実に驚愕ですわ。あれが一匹でも町に現れれば壊滅は必至。並みの冒険者など蹴散らされて終わりですわ」


「それは蜘蛛だって同じことよ。だから私が大きなムカデを誘導してエルフェリーンたちに駆除させたのよ。原初の蜘蛛でも手に余る存在だったわね~

 あむあむ……ぷはぁ~地脈に巣食って魔力を蓄えていたから大地の魔力循環にも影響が出ていたわ。北では古龍達が殴り合いをしているからね、あの辺りは今後も注意して観察しないとおかしな現象が起きかねないわ」


「イナゴ騒動のような現象は勘弁してほしいものだな……」


「あれはシーちゃんが原因でしたからねぇ~あむあむ……シャキシャキとした薬味とぉ厚揚げの香ばしい味にぃ生姜醤油のさっぱりとした風味が美味しいですぅ~熱々の時はクロを呪おうかと思いましたがぁ、これは絶品ですぅ~」


 頬に手を当て厚揚げの薬味添えを口にする愛の女神フウリンに興味を持ったのか、女神ベステルが箸を伸ばし強奪し口に運ぶ。


「うまっ!? これは美味しいわね! まわりが香ばしくてカリカリとした歯応えと薬味のミョウガとネギがシャキシャキで癖になるわ」


「食感ならこちらのレンコン入りのキンピラも中々酒に合うな。甘辛く炒めた味とゴボウの風味にレンコンの食感は官能的ですらある。梅酒をソーダで割ったものとこれ程合うとは驚きだ」


「あら、肉じゃがはどんなお酒にも合いましてよ。クロの作る肉じゃがはジャガイモが崩れていないのが素晴らしいですわね。それに牛肉も良いものを使いその味がジャガイモにも染みていますわ」


 叡智の女神ウィキールと武具の女神フランベルジュのキンピラと肉じゃがを皿に取り口に運ぶ女神ベステル。どちらも口に合ったのか自然と笑みが漏れどぶろくでそれらを流し、自身の目の前にあるサバの味噌煮の腹側の身と添えられている生姜を一緒に口にする。


「ぷはぁ~どれも美味しいわね。蜘蛛たちがこれからも前向きに料理を行うよう加護でも付けようかしら」


 その言葉に席を共にしていた三女神が驚愕の瞳を向ける。それもそのはずで、創造神である女神ベステルが加護を与えたものはこの世界に五人と居らず、ましてや魔物にその加護を与えるという言葉に天界で暮らすものが驚かない訳はない。


「そ、それはクロにでしょうか? それとも蜘蛛たちへでしょうか?」


 叡智の女神ウィキールからの言葉に笑みを浮かべ「七味たちに決まっているじゃない」と口にする。


「ほら、こんなにも美味しい料理を作り出す子蜘蛛たちを応援するのは創造主の務めじゃないかしら。私の加護は強力だけど、料理などの文化に限定すれば蜘蛛独自の料理が花開くかもしれないわよ」


「確かに……」


「限定的な加護ならぁそれも可能でしょうねぇ~」


「それならルビーにも鍛冶の加護を与えては如何でしょう。あの者は真摯に素材と向き合い槌を振るっておりますわ。本日もムカデの甲殻を使い魔鉄と混ぜ斧を打っておりますわ」


 武具の神だけあり地上で作られている武器を把握する事ができるフランベルジュは創造神へと進言する。


「あら、あの子は鍛冶の神から既に才能を与えられているわ。研ぎの技術は世界最高峰といっても良いし、エルフェリーンからエンチャントも教わっているからその技術も世界でも屈指の腕前よ。これ以上の加護を与えては新たな鍛冶の神が誕生してしまうわね。そのうち白薔薇の庭園よりも美しい武器を作るかもしれないわよ」


 ニヤニヤしながら武具の女神フランベルジュへ話す女神ベステル。その言葉を受け口角を上げ空間へと腕を入れひと振りの日本刀を取り出す武具の女神フランベルジュ。


「それは生きているうちには無理ですわね! これを見るといいですわ!」


 立ち上がり手にしていた白い日本刀を抜き放つ女神フランベルジュ。鞘から抜き放たれた日本刀は鞘以上の大きさで手元にはリボルバーがあり、黒鉄を使用しているのか黒光りする刀身には弾丸が空気を押しのけ進むような波紋が浮かび上がる。


「鞘に空間収納を付与しているのだな」


「日本刀と銃が一体化していますぅ」


「ガンブレードと呼ばれる武器よね?」


「その通りですわ! 黒龍の牙を使い刀身を作り、リボルバーには属性魔術を込めることであらゆるモノを斬り伏せる力を与える神剣黒薔薇の咆哮ですわ! 鞘に魔力を込めると刀身とリンクし黒いバラが舞い散るエフェクトが使用者の妖艶さを引き立てる仕様となっているのですわ!」


 力説する刀馬鹿が何度も黒薔薇を舞い散らせ、それを手で払う三名の女神たち。


「前よりも五月蠅いエフェクトだな……」


「黒薔薇が厚揚げに乗りましたよぉ!!!」


「見事な神剣かもしれないけど銃の文化のない世界でそれが生まれるのは数百年所じゃないと思うわよ。爆弾はあるけど攻撃魔術がありふれた世界で、態々火薬を使い鉄の玉を飛ばす技術が発展するかしらね~」


 女神ベステルの言葉に口をあんぐりと開けエフェクトが無駄に舞い落ちる武具の女神フランベルジュ。


「そもそもそんな剣を使わなくてもチームを組んで戦えばいいのよね。特技は人それぞれだし、ん? 誰か来たわね」


 女神ベステルの私室にノックの音が鳴りドアが開くと緑の髪をした女神が顔を出す。女神らしさのある後光を背に受け一礼する女性に叡智の女神ウィキールが口を開く。


「これは珍しいな。世界樹の女神がここを訪れるとは」


「はい、もうすぐ成樹祭が行われますのでその事前報告に参りました。成樹祭には自分がエルフの里に顕現致しますので、その許可を貰いに参りました」


 部屋に入る事はなくその場で膝を付き頭を下げる姿に、固まっていた武具の女神フランベルジュは静かに炬燵へと戻り日本酒を口にする。が、気分が晴れないのか一気に飲み干し自身で日本酒をカップに注ぎ入れるとそれを呷りエフェクトの消えた厚揚げを口に運ぶ。


「そういえばフランとクランがその為にクロの元で修行していたわね」


「あの二人はオーガの村でもぉ活躍していましたねぇ~大人数相手にから揚げと焼きそばを作りぃ生き生きとした表情をしてましたぁ」


「あれも美味しかったがこちらの酒と料理も美味いぞ。世界樹の女神もこちらへ入り席を共にするがいい」


 そう言いながら叡智の女神ウィキールが手招きをすると顔を上げ、炬燵に入る事はないが正座でウィキールの横に座り席を共にする。


「私のようなものが高位の方々と席を共にするのは忍びないのですが……」


「そんなこと気にする必要はないわ。現にそこのへっぽこ神が阿呆な神剣を作って凹んでいるし、どこかの司書神は邪神の魔導書の存在に気が付かなかったし、私もその邪神を生み出した張本人だからね~」


 自分たちの失敗を口にする女神ベステルは新たなグラスを創造すると世界樹の女神の前に置きどぶろくを注ぎ入れる。


「貴女も色々あるでしょうがまずは飲みなさい。話はそれからね~」


 気遣いなのかパワハラなのか微妙な対応をする女神ベステル。しかし、世界樹の女神は一礼すると緊張しながらもそのカップを口にして表情を溶かすのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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