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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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蜘蛛たちからお礼と七味



「うひゃ~改めて見ると凄い大きさだね~」


「うむ、これを組み合わせるだけで家ができそうなのじゃ……」


「フルプレートが軍隊単位で作れますよ! ムカデの甲殻は魔力が通りやすいので盾にしても良いものができますし、爪を使ったランスなどにしても騎士から喜ばれそうです!」


 蜘蛛たちが解体した巨大ムカデの甲殻を前に口をあんぐりと開け放心状態で見つめるクロたち。エルフェリーンとルビーは創作意欲が湧いたのか作りたいものを口にし、シャロンとメルフェルンは顔を青くしながらクロの後ろに隠れるように移動し口を開く。


「こんなにも巨大なムカデがいるのですね……恐ろしい世界です……」


「クロさんはこれほど大きなムカデと対峙し戦っていたのですね……凄過ぎます……」


「俺は見ていただけだよ……怪獣クラスと戦うとか無理だな……アンデットなら勝てるかもしれないが小さくても一メートル以上もあるムカデとかトラウマが甦る……」


 オーガの村で子供たちを必死に守った事を思い出して身を震わせるクロ。


「わ~おっきいね~これで大きな斧を作ったら黒くてカッコイイのができそう!」


≪装甲車とかも作れそうですね~ああ、こっちの世界ではチャリオットかな?≫


 ラライは自身が使う斧の新調を希望し、武装した馬車を作りたいアイリーン。


『我らはムカデの甲殻は捨てるだけだからな。持てるだけ持って行くといい。鉱石と魔石もこちらに用意した。これも持てるだけ持って行くといい』


 朝食を終えたクロたちは谷の上でムカデとの戦闘を説明して時間を過ごし、仮眠を取っていたエルフェリーンとロザリアが起きたのを確認するとアイリーンが谷へ向かい黒く巨大な蜘蛛の元へと向かった。

 程なくして現れた黒く巨大な蜘蛛から報酬を受け取る算段を念話で伝えられ、また子蜘蛛を背に谷を降りる一同。戦闘する予定もなく今度は全員でおり蜘蛛の女王の間へと降り立つ。


『我々は金貨を使う文化がなく心苦しいのですが……』


「いやいや、こんなにも多くの珍しい鉱石は金貨よりも価値があるぜ~ミスリルやアマダンタイトに魔晶石。夜光石にサファイヤやエメラルドに孔雀石まであるぜ~」


「この大きさの魔石を見るのも久しぶりね。土属性の魔石は加工して田畑に撒けば野菜や薬草の栄養になるわね。アルーが喜ぶわよ」


「ふへへへ、漆黒のショルダーガードに漆黒の大楯に漆黒の馬車を作ってもいいですね。毒腺もありますから漆黒のバスターソードに毒を付与すれば恐ろしい武器が完成します。ふへへへ……」


 エルフェリーンは素直に喜び、ビスチェは一メートルは優にある琥珀色の魔石を抱き抱え、ルビーは若干変なテンションになり作りたいものを口走る。


『喜んで頂けたのなら嬉しい限りです。あれほど巨大なムカデはここ百年でも出現例がなく、あなたたちがいなければどれほどの犠牲が出たことか……深く感謝致します』


 蜘蛛の女王が頭を下げまわりにいる多くの蜘蛛たちも同じように頭を下げる。と同時にメルフェルンがビクリと肩を震わせクロの背中にくっ付き、抱かれていた白亜も同じように驚きクロの胸の中で震え、小雪はアイリーンに抱かれて「くぅ~ん」と弱々しい鳴き声を上げる。


「蜘蛛さんたちは良い人、じゃなかった、良い蜘蛛たちだから襲って来ないだろ。最後ぐらい怖がらない様にできたら良かったな」


 胸にしがみ付き丸くなる白亜に声を掛けるとクロを見上げ瞳を見つめ、首を回して頭を下げる蜘蛛の女王へと振り返る。蜘蛛の女王が顔を上げ八つの瞳と視線を合わせた白亜は「キュウ」とひと鳴きし、またクロの胸に額を付けた。


「すみません。白亜が怖がりで……」


『いえ、それは正しい判断です。魔物とは恐れられるものであり、況してや蜘蛛種は死の象徴。恐れられることで生存競争を生き抜いてきたのですから……寧ろ、あなたたちの方が異常といえ、失礼しました。好意的に接して頂けたことが嬉しく……本当に感謝いたします』


 再度頭を下げる蜘蛛の女王と蜘蛛たち。それを見ながらアイリーンに視線を向けると若干潤んでいる瞳が見え、里帰りは成功したのかなと思うクロ。


『クロよ。この蜘蛛たちをクロに預けたいのだが構わないだろうか?』


 頭を上げた黒く巨大な蜘蛛からの念話に視線を向けると足元には三十センチほどの子蜘蛛が七匹おり片手を上げている。


「えっと、師匠もそれで構いませんか?」


「ん? 料理の修行をしたい蜘蛛だっけ? 料理の事はクロに任せるからね~僕は美味しい料理と美味しいお酒が飲めればそれだけで十分だからさ~」


 そう返しながらも手には鉱石が握られ品定めに夢中であるエルフェリーン。


≪ほうほう、この子たちが料理修行をするのですね~これからはアイリーンの姐さんと呼ぶように! そうだ! 名前も付けないとですね~≫


 片手を上げる黒い子蜘蛛たちを見つめ顎に手を当て考え込むアイリーン。クロはアイリーン以外に名前が付けられ呼ばれている蜘蛛の個体を見た事はなく勝手に名前を付けていいものかと思案するが、アイリーンが顎から手を放し閃いた感を顔で表現する。


「決めました! あなた達は七味! 一味いちみ、ニふたみ三美みみ四味よみ五美ごび六美むみ七美ななみに決定です!」


 声に出して一匹ずつ指差すアイリーン。呼ばれた子蜘蛛たちは片手を上げてお尻を振り喜んでおり、他の蜘蛛たちはそれを見つめ体を上下させている。そんな初めて見る行動にクロとシャロンは首を傾げる。


『名を貰い羨ましいのはわかりますが落ち着きなさい。人種の世界では固有の名を持つのは普通のことなのです』


 蜘蛛の女王からの念話に嫉妬しての行動だと知り、蜘蛛も表現豊かなのだと知る一行。


「うふふ、何だか面白いですね。死の象徴と呼ばれていますが可愛らしい所もありますねぇ」


「うむ、撫で心地も良かったのじゃ。小雪とも違う撫で心地で癖になるのじゃ」


 そう口にするとロザリアは前に出て両手を差し出し、それに一味が飛びつき抱き上げ優しく撫でる。他の七味たちは羨ましいのか体を上下させ、小雪をシャロンに預けたアイリーンやビスチェにメリリが手を出し七味たちが我先に飛び付く。


「本当ね。少し毛があるから撫でてて気持ちがいいわね」


「これからはクロ先輩の言うことを確りと聞いて一流の寿司職人になるのですよ~」


「ちょっ!? なんで私にだけ四匹もっ! ふぁっ!? 胸にしがみ付かないでっ!」


 大きな胸に一匹ずつ子蜘蛛が掴まり右往左往するメリリ。


「メリリの体は柔らかいから蜘蛛たちも心地がいいのね」


「あれだけ大きな胸ですからね~少しは減るべきです!」


「私も蜘蛛が欲しいのだ! 背中に付けて谷を降りるのをまたしたいのだ!」


 メリリの胸に掴まっていた二匹の子蜘蛛をキャロットが受け取り、頬ずりをしながらお願いすると二匹は嬉しそうにお尻を振る。そんな姿にクロがぽつりと言葉を漏らす。


「頬ずりって……キャロットは怖いものなしだな……」


「怖いものならあるのだ! 婆さまが怒ると怖いのだ! 婆さまだけは怒らせちゃダメなのだ!」


 クロの呟きに反応するキャロットの言葉に祖母であるキャロライナを知るものたちから笑い声が上がり、蜘蛛たちと交流を深めるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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