ムカデ戦の考察
「ムカデなんてワンパンなのだ!」
「ヤモリとは相性がいいですね~軟らかい体はよく斬れますね~」
「光の矢なら蜘蛛たちにも迷惑にならないぜ~どんどん行くぜ~」
≪蛾みたいな魔物もいるとは、鱗粉にやっぱり毒とかありそうですね≫
巨大なムカデを倒した一行はぞろぞろと現れる虫の魔物と戦い続けていた。キャロットとメリリは打撃と斬撃を生かした近接技でムカデやヤモリを倒し、ロザリアは影魔法を使い中距離から相手を触手のような影で縛りフォローにまわり、エルフェリーンは遠距離から光の矢を放ち狙撃する。時折ヴァルが上空を舞う蛾から降り注ぐ鱗粉の毒を浄化し、アイリーンが糸と白薔薇の庭園を使い魔物を葬るという連携で危なげなく勝利を積み重ねて行く。
『見事なものだな……巨大なムカデが出た時は肝を冷やしたが圧倒的なハイエルフの力には恐れ入る。アイリーンの活躍は頼もしく、変わった天使のお湯を使った魔術も見事なものであるな』
黒く巨大な蜘蛛からの念話を受けクロは頷きビスチェは腰に手を当てドヤ顔である。
「師匠の無限に放つ光の矢は確かに凄いというよりも完全なるチートだからな……ヴァルはムカデの弱点を完璧に把握した魔術だったし、ロザリアさんは影魔法で巨大なムカデの動きを抑えていましたね。師匠やヴァルも凄かったですがロザリアさんが行動を制限させたのは戦術として効果が高かったです」
「集団戦闘という意味ならそうね。アイリーンは単騎で宙を駆けまわり数を落としていたけど、キャロットやメリリも倒した数なら負けないわよ。特にキャロットはほら」
ビスチェが指差す先には両腕を魔化させムカデを殴るキャロットの姿があり、谷底はキャロットの殴った跡で多くのクレーターが出来上がっている。
「月の裏側はきっとあんな感じなんだろうな……って、ビスチェは戦わなくてもいいのか?」
横で待機しながら戦闘を見つめるビスチェにクロが問うと、ビスチェは口を尖らせながら口を開く。
「私も戦闘には参加しようと思ったわよ。でも、クロが最初に心配で怖いって言ってたじゃない……だから私だけでもこの場に残ってクロが襲われないように……」
ビスチェなりに気を使ってこの場に残っている事を知ったクロは「ありがとな」と口にする。
「ふんっ、わかればいいのよ。それよりも魔物の数が減って来たわね……ん? あれって……」
ビスチェが言うように暗闇から出現する魔物の数は減り多くの魔物の死骸には蜘蛛が集まり解体され糸を使い上へと運ばれて行く。なかでも巨大なムカデの死骸を何等分にも分けられ糸を使い吊り上げられ運ばれて行く姿は重機を思わせるダイナミックさがあり口を開けて見守るクロ。ビスチェもその光景に驚き、上部へと到達すると糸の一部が剥がされ蜘蛛の女王がいる階層へと運ばれて行き、入れ違いに多くの蜘蛛たちが応援に現れ回収作業が行われる事となる。
「戦いよりもこういった連携が凄いよな。ムカデを切り出す蜘蛛に、それを糸で固定する蜘蛛、上に吊り上げる蜘蛛、羊の蜘蛛が天井の一部を開けて引き上げる蜘蛛もいるな」
「ふふ、子蜘蛛たちもいっぱい下りてきたわね。子蜘蛛たちは魔石を回収しているわ」
ムカデの体から魔石を取り出した子蜘蛛は両手で持ち上げお尻を振り、それを見た他の蜘蛛たちも同じように両手を上げてお尻を振る。可愛らしい光景に思わず笑みが漏れる二人。
≪これからは朝日が昇るそうで虫たちの数は一気に減るそうで……何やらいい雰囲気ですね~私の活躍を見ずにイチャイチャしていたのですくわぁ~≫
「変な誤解と変な語尾を使うなよ。イチャイチャというよりも戦闘の分析だな。アイリーンは単騎で突撃したエースパイロットだったな」
冷静に分析し伝えるクロに対してビスチェは頬を染めて明後日の方へと体ごと向き、アイリーンはクロの分析に≪えへへ、生まれ変わった私はある意味ニュータイプですから≫と文字を浮かせるがクロ以外に理解する者などおらず、黒く巨大な蜘蛛は顔を傾ける。
「うふふ、いい運動になりましたぁ」
「いっぱい殴って疲れたのだ!」
「うむ、流石に魔力が持たんのじゃ……」
「クロは僕の雄姿を目に焼き付けたかい?」
子蜘蛛を背に乗せ糸を使い戻ってきた仲間たちからの言葉に、クロはビスチェと共に分析した戦闘スタイルを話し満足気に頷く一同。
「うむうむ、我の活躍は地味じゃったが理解しておるのなら良いのじゃ」
「確かにロザリアの援護は助かったぜ~お陰で光の矢が当てやすかったぜ~」
「私もです。動かないのなら水龍操作で相手を熱する事も容易い。感謝致します」
エルフェリーンとヴァルからも感謝の言葉を貰い照れているのかスカートを握っては放しを繰り返すロザリア。それとは対照的にメリリはもっと褒められたいのかゆっくりとクロへと近づき「私はどうでしたか? どうでしたか?」と口にする。
「えっと、メリリさんも凄かったですよ」
「そうね。特に胸が縦横無尽に動いて凄かったわね~」
ビスチェの発言に胸を抑え頬を染めるメリリ、クロは視線を逸らし目の前にいるキャロットへと視線が合う。すると地鳴りのような音が耳に入りクロを含めたまわりにいた者たちは視線を飛ばし警戒するが、その音の主であるキャロットは「お腹が空いたのだ」と口にしクロは夜食を思案しながら「戻るか」と口にするのであった。
「ふわぁ……流石に眠くなってきたな……」
女王の元へと戻ったクロたちは大量のムカデに群がる蜘蛛たちに歓迎されるが、流石にグロテスクな光景に更に上の階へと移動する。糸の天井もないエリアへ到着すると朝日が差し、まだ冷える春先で息が白くなりアイテムボックスからコートを取り出し配るクロ。
「汗を流しましたので、これは冷えそうですぅ」
メリリの言葉に先頭に加わっていたロザリアやエルフェリーンも同意し、クロは女神の小部屋を発動し中へと非難させ、アイリーンとビスチェとお腹を鳴らすキャロットだけが残り崖の上へと戻りテントを設営し、クロは夜食ではなく朝食の準備に取り掛かる。
作業台とBBQ用コンロを取り出し鍋に水を張り沸騰させ、長ネギに豆腐をアイテムボックスから取り出しカットすると沸騰した鍋に入れ煮込み、味噌と顆粒出汁を入れ最後にワカメを水で戻してサッと湯がく。
『先ほどと違いお湯に入れるのだな』
「昨晩食べた料理はお手軽なように加工してあったもので、こちらの方がちゃんとした料理ですね。これはお味噌汁というスープの一種です」
『なるほど……我らの女王がクロの料理を知りたがっていたが、教えてもらう事は可能だろうか?』
「それは構いませんが、料理は複雑な工程と火を使います。後は味付けとかが蜘蛛さんたちの好みに合うかどうかですね。塩分を摂取してもいいのかとかもありますが……」
種族差によって食べられるものが変わるのは当たり前で、クロはフェンリルである小雪に対しては濃い味を使わず塩分控えめにしている。蜘蛛たちの食事は基本魔物でそのまま齧り付くものと、牙から消化液を入れ溶かしてから吸うタイプに分かれる。蜘蛛の時のアイリーンは最初からそのまま食べる派なので問題はなかったが、消化液タイプの蜘蛛には料理された物を食べるのは難しいかもと考えたのだ。
『それは問題ないだろう。昨晩食べたお粥なるものは消化液を出すものたちでも食べることができたからな。こういった液体の多い料理なら食べることができるだろう』
「それなら教えても問題ありませんね。塩分に関しては様子を見ながらという事で」
『よろしく頼む。我は司令塔としての仕事があるのでここで別れるが、料理を覚える個体を後で送ろう。念話を覚える必要があるだろうから時間が掛かるかもしれないがゆっくりと待ってもらいたい』
黒く巨大な蜘蛛は念話を残し両手を上げ二度ほどお尻を大きく振ると谷へと姿を消す。
≪蜘蛛たちが料理を覚えたいとか驚きですね~クロさんの弟子がまた増えますよ~≫
「フランとクランも今頃はオーガの村で朝食を作っているのかもな」
オーガの村で料理のスピードを上げるべく修行中の二人を思い出しながら温かな朝食の用意が進み、お腹の唸りを抑えるキャロットは料理が完成するまで空腹と戦い続けるのであった。
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