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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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巨大ムカデVS草原の若葉たち



 止める間もなく一歩踏み出したアイリーンにあんぐりと口を開けるクロ。次の瞬間には糸を飛ばし高度とスピードを上げ一直線に巨大ムカデへ向かう。


 「ふふ、ここからは私のターンですよ!」


 白薔薇の庭園を抜いたアイリーンのまわりに白い花びらのエフェクトが舞い高速移動する姿は何とも幻想的で誰もが目を奪われ、蜘蛛や巨大ムカデも視界に入れ一瞬だが動きを止める。その隙にアイリーンはまだ距離があるのにも拘らず白柄の庭園を横に一閃。


「うむ、見事な魔力操作と隠蔽技術なのじゃ」


「あれは陰で相当な努力をしているぜ~注意して観察しないと何が起きたかもわからずにあの世行きだよ~」


 ロザリアとエルフェリーンの言葉にビスチェとクロは瞳に魔力を集める。すると、白薔薇の庭園から伸びる輝きが見え、次の瞬間には大ムカデの柱のような牙が一本落ち落雷のような叫びを上げる大ムカデ。


「すご……いわね……」


「前に見た時よりも数段に切れ味が増していそうだな……」


 ビスチェとクロからの漏れる賛辞。黒く巨大な蜘蛛も八つある瞳を向けアイリーンの活躍に驚き固まっている。


「私も戦いたいのだ!」


「うふふ、それならあちらから現れた小さなムカデを相手にしてはどうですか?」


 メリリの言葉に視線を向けると数匹のムカデが姿を現す。小さなムカデというメリリだがその対象は二十メートル級の巨大ムカデであり、現れた数匹のムカデはどれも一メートルを超える巨大サイズである。


「楽勝なのだ!」


 キャロットが飛び降り、それに続くようにメリリも魔化して飛び降りる。尻尾を掴んでいたクロはアイリーンの戦闘に見惚れ、いつの間にかキャロットの尻尾を放していたのだ。


「おいっ! キャロット!」


「任せるのだ!」


「私がフォロー致します!」


 片腕を魔化して手を振るキャロットの逞しいドラゴンの腕を振り叫び、メリリも『双剣』の名の由来である二本のタルワールを手にし、魔化した蛇の下半身でほぼ垂直の谷を滑るように下りる。


「本当に大丈夫なんだよな……」


 そう呟くクロにエルフェリーンはクロの袖を引っ張り笑顔を向ける。


「キャロットは弱くはないぜ~ドランとキャロライナに鍛えられているし、関節技なしの肉弾戦という条件下なら誰よりも強い。メリリも恐れられた冒険者だし、ラミア族は戦闘民族として知られているからね~きっと大丈夫だぜ~」


「うむ、キャロットとは正直に言えば戦いたくないのじゃ。頑丈な鱗を持ち、怪力という言葉では生ぬるい拳が襲ってくると思うと避ける以外に手はないのじゃ。メリリは普段力を抜いておるから実力が分かりにくいが、ラミア族は魔術にも秀でておるからの。見た目に騙され噛みつかれぬよう、クロも気を付けるのじゃぞ」


「噛みつくって……」


 エルフェリーンとロザリアからの言葉に二人を視線で追っていたクロだったが大木が倒れるような音と雷鳴にも似た叫びに視線を巨大ムカデへと戻す。

 そこには頭と胴が分断されても暴れまわる巨大ムカデの姿があり、頭部にはニードルスパイダーの鋭い棘で地面へと縫い付けられ、胴体は多くの糸で雁字搦めにされても動き続ける巨体が視界に入り、白薔薇の庭園を掲げて叫ぶアイリーンの姿にホッと胸を撫で下ろす。


「見事じゃな。白薔薇の庭園から魔力で強化した糸を伸ばし、ムカデの首の関節に糸を滑り込ませての一撃……」


「それだけじゃないぜ~糸には結び目があって高速で糸を動かしてノコギリのように切断したんだ。剣を振り抜いて見せているけど、あの技は剣を使わなくても問題なく使用できそうだぜ~」


「要は見栄を張りたかったのね。白薔薇の庭園は気に入っているから気持ちはわかるけど……」


 アイリーンの勝鬨に戦闘に参加していた蜘蛛たちも両手を上げてお尻を振り盛り上がる一角。キャロットとメリリもムカデと対峙し、魔化した巨大な拳をムカデに振り下ろし谷底にクレーターを作るキャロット。双剣で舞うようにムカデへ一撃を入れ吹き飛ばすメリリ。


「やはり硬いですね……これは精神的に疲れるのであまり使いたくはないのですが……覇っ!」


 愚痴りながらも魔力を高めるメリリ。その瞳が赤く輝き双剣も同じような赤い光に包まれ蛇の下半身を蜷局状に変え、身を屈めた次の瞬間にはその場にメリリの姿はなく数十メートル離れた場所に姿を土煙と共に表す。


「凄いのだ! 消えたと思ったら遠くにいたのだ!」


「それだけではありませんよ。ほら、この通りに細切れです」


 先ほどタルワールでムカデを吹き飛ばすのが限界に思われたが、数匹いたムカデは切り刻まれ頭が潰されている。


「凄いのだ! メリリが強いとは知らなかったのだ!」


「これでも強さには自信があります……いえ、ありましたですね。『草原の若葉』にいると自分の強さに自信が持てなくなりますので……」


 ちなみに、キャロットが一撃を与えたムカデはクレーターの中で潰れ、頭がどこかも解らない状態である。


「うむ、我もそろそろ参戦するのじゃ」


「なら僕がフォローするぜ~火と氷は使わないからね~」


 ロザリアはレイピアを抜き、エルフェリーンは天魔の杖を掲げてクロへ笑顔を送り二人揃って崖から飛び降り、エルフェリーンは魔術を唱え足から光る翼が生え飛び上がりロザリアはその陰に身を沈める。


「ふぅ……危なげなく戦っているように見えるが」


「心配?」


「ああ、いつ見ても戦う姿は心配になるな……自分よりも何倍も強い事はわかっているけどさ、どうしてもな……」


 隣にいるビスチェからの相槌に答えながらも飛び出して行ったエルフェリーンを見守るクロ。


「私が知る限り師匠よりも強いのは古龍ぐらいね」


「そうかもしれないが火の魔術が使えない場所なら話は変わってくるだろ。ムカデは熱に弱いが外装が固く毒まであるし……」


「あのサイズの牙は毒とか関係なく当たれば致命傷よ。まあ、クロ以外に当たる事なんてないでしょうけどね~」


「それについては俺も思う……思うが……」


「主さま、新たなムカデが現れます! 先ほどよりも巨大な個体が二匹来ます!」


 肩に乗るヴァルからの声に顔を青ざめるクロ。頭を切り落とされてもまだ暴れているムカデの振動に紛れ暗闇からヌッと顔を出す巨大なムカデの頭部が二つ。絶望を思わせるほどの巨大な頭部の出現に蜘蛛たちは「ギギギギ」と警戒の声を上げ、エルフェリーンは天魔の杖を掲げ、ロザリアは影から上半身を現しレイピアを掲げる。


「あははは、こんなにも大きなムカデが存在するなんて知らなかったよ~本気で行くからね~」


「我も本気で参るのじゃっ!」


 エルフェリーンが掲げた天魔の杖に魔力が集まり、ロザリアは得意のレイピアを掲げると魔力を練りながら高速で飛び出し超巨大ムカデの下へと潜る。次の瞬間には影がうごめき黒い触手の様なものがムカデに絡みつき体をよじらせ抵抗するが黒い触手が切れる事はなくその身を抑え込まれ、そこへ掲げた天魔の杖を振り下ろすエルフェリーン。

 天魔の杖からは光の矢が現れ次々に巨大なムカデの頭部へと突き刺さり地鳴りのような叫びを上げ、その禍々しく開いた口にも光の矢は向かい身をよじらせる。


「凄いわ。光の矢をもう数えきれないぐらい連発しているわ」


「主さま、私もそろそろ出たいと思います」


「ああ、無理はするなよ」


「はっ! お任せ下さい!」


 右肩からゆるキャラが飛び出すと速度を上げ巨大ムカデの前で静止し、ヴァルの頭上には拳大の水が集まり湯気を上げる。


「へぇ~それはさっき見たお湯を入れる魔術だね~」


「主さまの期待に応えて見せます! 水龍操作!」


 湯気を上げる拳大の水泡が集まり龍の形へと変わり、短い手を伸ばすとその龍はまるで生きているかのように巨大ムカデの頭部に巻き付き頭部を覆い身をよじるが陰で縛られたムカデは叫び声を上げる事も出来ずにガタガタと震え三十秒ほどで沈黙し、光の矢を受け続けていたムカデもその頭部が千切れるように落下し、その生涯を終えるのだった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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