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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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最下層



 ラライを女神の小部屋へ入れたクロは黒く巨大な蜘蛛からの念話を受け向き直る。


『それでは最下層へ案内しよう。最下層への道は普段は閉じられているのだが、頼むぞ』


 黒く大きな蜘蛛からの念話に反応し上から三匹の羊のように白い糸の塊を体に巻きつけた蜘蛛が現れ、不自然に糸が張り巡らされた壁に集まり手をシャカシャカと動かす。すると、あっという間に糸で塞がれていた横穴が出現し糸の回収を終えた羊蜘蛛は飛び去る。


「さっきはありがとうなのだ~」


 飛び去る羊蜘蛛に手を振りお礼を叫ぶキャロット。ここへ来る途中に糸で雁字搦めになり助けられた事を思い出したのだろう。お礼を言われた羊蜘蛛は飛び去りながらも手とお尻を振り喜びを表現していた。


『この道を下った先が最下層。多くの魔物が集まる危険地帯だ。今なら引き返せるが本当に行くのだな?』


「はい、恩返しとはいいません。これは私の実力を確かめる為ですから……無理を言ってすみません」


「僕は興味があるからね~色々な魔物が集まるという事は魔物の生態を知る事もできるし、素材だって集まるだろ。それにムカデが多く出現するのなら毒腺や牙は是非とも欲しいぜ~」


「私は魔石が欲しいわね。その為には戦うのは当然よ」


「うむ、我も為には運動をせんと太るのじゃ。特にクロの料理が美味で食べ過ぎるからの。戦い体を動かす機会は是非もなしなのじゃ」


「うふふ、私もダイエットのために参加させていただきます。『双月』の名に恥じない活躍をして見せます!」


 参加者たちの言葉に、それなら自分はここで待ちますと言いたいクロであったが、肩に乗るヴァルが高らかに宣言する。


「主さま、それに蜘蛛よ。私がいれば魔物だろうが死霊だろうが退治して見せよう。ホーリーナイトは伊達ではないということを証明して見せようではないか!」


 ゆるキャラからの頼もしい言葉に大きく頷く黒く巨大な蜘蛛。蜘蛛の女王も頭を下げその雄姿に応える。答えるのだが、肩に乗っている事もあり高らかに宣言した声は大きく、耳が若干キーン状態のクロは肩からヴァルを掴み「頼むから肩に乗っての大声はやめてくれ」と注意するのであった。








 夜光石が散りばめられた洞窟を進み曲がり角に差し掛かると強い光が視界に入り、更に足を進めると昼間よりも明るい光が目に入る。薄暗い所を進んでいた事もありその光に目の痛みを覚えるほどである。


「これは眩しいね。もしかしてこれらも夜光石の発光現象なのかな?」


『定期的に魔力を込め光らせている。魔物の居場所がわかりやすくなり、更には魔物を集める為でもある』


 黒く巨大な蜘蛛からの念話にクロはある事に気が付く。


「ああ、なるほど、ここに虫を集めて狩りをするのか」


『その通りだ。光に集まる魔物、その光に集まった魔物を捕食する魔物、そして我らはそのすべてを捕食する。多くの蜘蛛が一丸となり暮らすには多くの食料が必要になるからら。その為に暗い谷で夜光石に光を灯し魔物を集めているのだ。空からも襲ってくるがそれだけでは足りないからな』


 蜘蛛たちの社会を支えるという意味でもこの谷を使った魔物狩りは必要な事なのだろう。


「うむ……もはや完全な蜘蛛社会なのじゃな。光を使い魔物を誘き寄せ狩りをし、女王を中心とした社会を作るとは……我はこれほど賢い魔物を見た事がないのじゃ……」


「作戦としてはすごくいいわね。魔物を集めて食料にするのなら夜に戦うのは必然という訳ね」


「夜行性の魔物は多いですね。特に虫系の魔物は夜行性が多く冒険者時代は苦労しました……」


 そんな話をしながら足を進め光が差す谷底へと到着する。厳密にいえば谷底ではなく、底まではまだ五十メートルはある断崖絶壁である。


『ここは狩場の中心である。光が届く範囲で戦うようにすれば仲間も手助けできるからな。無理だけはしないように頼むぞ』


 念話を耳にしながらクロは光で溢れる谷を見つめる。上は先ほどまでいた蜘蛛の女王が住む階層であり白い糸の天井が見え、底には無数の蜘蛛がこちらを見つめている。どれもサイズが大きく二メートルほどはあり顔を引き攣らせるクロ。

 視線を対岸に向けると同じような大きな蜘蛛が無数におり片手を上げて挨拶をする姿にクロも手を上げて振り、谷底へと視線を向けると蜘蛛が数匹三メートルはある巨大なムカデと戦い糸でグルグル巻きにしている。


「恐ろしい所だな……」


 ぽつりと呟いたクロだったが、光の届かない谷から顔を出した黒光りするボディーと赤く無数にある棘のような足。地鳴りにも似た足音に血の気が引くクロ。


「大きいのだ!」


 キャロットの叫びに同意するクロだが、大きいという表現では生ぬるい巨体が姿を現し蜘蛛たちが一斉に飛び掛かる。手が鎌のように進化したデススパイダーが巨体に一撃を入れ、背中に赤いドクロのような模様のあるポイズンスパイダーは高い致死性の毒を噛み付きで注入させようとするが大ムカデの硬いボディーに阻まれ弾き飛ばされ、前足が鋭く多くの棘が付いたニードルスパイダーはムカデの尻尾に一撃を入れ地面に食い止める。


「凄い連携だぜ~一斉に飛び掛かっているけど狙い場所がみんな違う。確りと作戦を立てて巨大ムカデと戦っているぜ~」


「後部を縫い留めたのは良い案ね。行動を制限させて糸も効率よく使えるわね」


「うむ、あれほど巨大なムカデは初めて見るが、恐ろしいものじゃな……」


 エルフェリーンを中心に巨大ムカデ対策を考察しているとキャロットが対岸を見つめ目を凝らす。


「ん? あそこにも魔物がいるのだ!」


 キャロットが指差す先をクロも見つめるが魔物の姿はなく、キャロットは拳大の石を拾うと腕を大きく振りかぶりワイルドピッチで投げ放つ。


「ギャッン!?」


 ギネス記録を軽く超えた投球は真直ぐに風を切り対岸へとぶつかり赤い染みを作り落下する蜥蜴に似た魔物。


「あれはヤモリ系の魔物だね。体をまわりの色と同化させ忍び寄る恐ろしい魔物だよ」


「ヤモリは家の下とかに住み着くから見つけると驚くわね。ネズミとかを食べてくれるから放置するけど、気を付けないと子供も食べられちゃうわ」


「三メートル越えのヤモリとか怖すぎるだろ……」


 ビスチェの体験談を耳にして顔を歪めるクロはある事に気が付き目の前にある尻尾を両手で掴む。


「ん? 何で尻尾を捕まえるのだ?」


 尻尾を掴まれたキャロットが振り向き、クロは腕に力を入れてその場に引き留める。


「いま、飛び上がろうとしただろ?」


「もちろんなのだ! これからあの大きなムカデに必殺のパンチをお見舞いするのだ!」


 恐れしらずなキャロットの発言に本日何度目かの頬を引きつらせるクロ。


「いくらドラゴニュートが強いからといっても、あのサイズ相手に殴るのは無謀だろ。魔化したとしてもあの牙は鱗を貫通しそうだしさ」


 巨大ムカデの牙は数メートルほどあり牙というよりも柱である。キャロットが魔化したとしても巨大ムカデの方が大きく苦戦するのは目に見えている。


「大丈夫なのだ! 自慢のブレスで丸焼きなのだ!」


「そのブレスは禁止だからな。まわりの蜘蛛さんを巻き込むし、もし天井の蜘蛛の巣に引火したら大変な事になるからな」


 クロの言葉に火気厳禁という事を思い出したのか笑って誤魔化すキャロット。


「そうだぜ~あのサイズを相手にできるのは僕みたいな凄い錬金術師ぐらいだぜ~」


 そう言って天魔の杖を掲げるエルフェリーン。


「師匠は何をする気なのですか?」


「僕は氷の刃を複数打ち込むぜ~ムカデは寒さに弱く冬眠するだろ。それなら氷系の魔術が効果あるはずだぜ~」


「いえ、まわりの蜘蛛さんたちも寒さに弱いと思いますけど……」


「…………………………」


 無言で天魔の杖を下ろすエルフェリーン。


≪なら私の出番ですね~≫


 そう文字を浮かせるとアイリーンは崖を飛び降りるのだった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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