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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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戦闘に参加したいヴァルと



 食べ終えた白亜が蜘蛛の女王と握手をしたのだが満腹と疲労と恐怖でうつらうつらとし始め抱き上げるクロ。


「今日は色々とあって疲れたよな」


「キュウ……」


 電池が切れたかのように急に寝てしまうのは子供の特権だろう。それをフォローするのが保護者の役割であり、優しく抱き上げたクロは女神の小部屋の入り口を出現させると中へ入り後を追うように足を進めるシャロンとメルフェルンにルビー。これから始まるだろう最下層での戦闘には不参加な三名は夕食を終えると女神の小部屋で待機予定である。


「小雪も行きますよ~」


「ワフゥ」


 ロザリアに抱かれていた小雪もアイリーンからの呼び声を受け腕から飛び降り一緒に女神の小部屋へと向かい、その手から消失した温もりに悲しそうな表情をするロザリアは近くにいた蜘蛛へと視線を向け口を開く。


「少し撫でさせてもらってもよいかの?」


「ギギギ~」


 了承したのかお尻をフリフリしながらピョンと飛び上がりロザリアの前に着地し、八つの瞳を向ける。ロザリアは手を伸ばし優しく背中を撫でるとお尻を更にフリフリさせる子蜘蛛。


「うむ、薄っすら毛が生えておるのじゃな。サラサラしていてよいのじゃ。小雪とは少し違うが撫で心地は甲乙付けられんのじゃな」


「ギギギ~」


 満足気に撫でるロザリアと撫でられる子蜘蛛。それを見た子蜘蛛が一定の距離を保っているがわらわらと集まり始めロザリアはいつの間にか子蜘蛛に囲まれ、白亜を女神の小部屋に寝かしつけてきたクロはその光景に、これからムカデとの戦いがあるのにリラックスしているなぁと感心する。


「主さま、どうかこのヴァルもお連れ下さい。必ず役に立って見せます!」


 魔力でお湯を作り夕食で活躍したホーリーナイトのヴァルは女神の小部屋から出てきたヴァルの前に跪きクロを見上げる。見上げるのだが、その姿は三等身のゆるキャラ風で頼りなく見え、脳裏に過るのは大きなムカデに一飲みにされる姿であった。


「えっと、ヴァルの気持ちは嬉しいけどな……」


「主さま! 自分は主さまを守るためにシャドーナイトからホーリーナイトへ生まれ変わりました。どうか、どうか、主さまを守る剣として盾として、力を振るう事をお許し下さい!!」


 クロを見上げ懇願するヴァルの姿に腕を組み困った顔をするクロだったが、エルフェリーンがその姿を見て口を開く。


「うんうん、忠義に熱い騎士は好きだぜ~僕は三人の真なる騎士を知っているがヴァルで四人目の真なる騎士だね~主の為に戦おうとする姿は胸にくるものがあるよ~」


「そうね。エルフには騎士とかいないけど誰かの為に戦おうとする姿は美しいわ」


「うふふ、私もヴァルさまのような素敵な騎士に守られたいですねぇ」


 三人からの援護の言葉にダメとは言い辛くなりクロは口を開く。


「わかったよ。但し、俺から離れないようにすること! 危ないと思ったらすぐに帰還すること! 勝手に前線に出ないこと! これらが守れるなら参戦してよし!」


 クロの宣言に顔を上げるヴァルは薄っすらと涙を浮かべ平伏し、クロはそんなヴァルを両手で持ち上げて肩に乗せる。


「本当に無理だけはするなよな」


「はっ! この命に代えても無理だけは致しません!」


 一瞬意味が理解できなかったクロは軽く頭を傾げ、無理しないのならいいかと自分を納得させる。


『確かにアイリーンを含め無理だけはしないように頼むぞ。命を粗末にすることは生きている者の務めだと知るがいい。準備ができ次第、最下層へ案内しよう』


 黒く巨大な蜘蛛からの念話に頷く一同は、これから行われる最下層でのバトルに気を引き締めるのであった。

 あったのだが、クロの視線の先には斧を持って素振りをする少女が視界に入り思わす声を上げる。


「ラライ!?」 


「あれ? ラライは何で素振りをしていのかな?」


 クロの驚きの声にエルフェリーンもラライに声を掛け、一同の視線がラライに向けられ「えへへ」と笑って誤魔化すラライ。


「いやいや、笑って誤魔化すのはダメだろ。女神の小部屋で留守番するはずだろ?」


 クロの言葉は尤もで、黒く巨大な蜘蛛から『命を粗末にするな』と念話されたばかりである。況してや成人したてで母親であるナナイからも危険な状況下では女神の小部屋に避難するとう約束であり、危険と解っている亀裂の最下層で戦うという行為を許されるはずもないのは本人も解っているはずである。


「えへへへ、私も少しでいいから戦いたいよ~」


 その言葉に眉を顰めるクロ。エルフェリーンはニコニコしながらゆっくりとラライへと歩みを進め、その表情と行動に怒っていると察したラライはその場を数歩後退る。が、後頭部に柔らかな感触が触れ振り返ると、笑顔を向けるメリリの胸にぶつかったのだと気が付き、次の瞬間には肩に腕を置かれ耳元で囁かれる。


「私、ラライは良い子だと思うのよ。ナナイさんは村長という大役をひとりで勤め上げているわ。そのナナイさんの自慢の娘が悪い子なはずないわよね?」


「そうだぜ~ナナイは優秀だぜ~それなのにいつも笑顔を向けて可愛いラライが悪い子なはずないぜ~」


 右肩をビスチェ、左腕をエルフェリーンに抱き止められ、後ろからはメリリに抱き着かれており逃げ場のないラライ。


「どうして逃げようとしたのじゃ? これから危険な所へと行くのじゃぞ?」


≪私もラライちゃんの味方になりたいですけど、今回ばかりはお留守番をしなきゃダメですよ。それとも何か理由があるのですか?≫


 ロザリアとアイリーンからの声と文字にラライは一瞬クロへ視線を飛ばすが、正面のアイリーンから左右を固めるビスチェとエルフェリーンへ視線を向け小声で話し始める。


「だって、またクロが戦うのなら見たいよぅ……前はクロに守ってもらったから、今度は私が守りたいよぅ……それにまたクロの戦う姿が見られるのなら絶対見たい! 見たいよぅ……」


 前にクロに助けられ、イナゴ騒動の時は戦闘というよりも女神の小部屋へ避難しクロの活躍らしいと事が見られなかった事もあり、ラライは今度こそという気持ちが大きく一緒に戦闘に参加したいと強く思い、黒く巨大な蜘蛛の影に隠れてしれっと最下層に付いていこうとしたのだ。


「そっか……ラライの気持ちはわかったけど、僕は賛成できないよ。これから行く場所は本当に危険な場所だよ。自分の身が守れない者は仲間を危険に晒すことになるからね。シャロンとメルフェルンとルビーが参加しないのはそういった事を理解しているからだぜ~まあ、シャロンとメルフェルンは相手が人型なら参加しても問題ないけどね。

 ラライはどうかな? ラライが参加して、ここにいる誰かがラライを守って命を落としたら」


「それは嫌っ! 私のせいで誰かが傷つくのは嫌だよ!」


 下を向きエルフェリーンからの言葉を聞いていたラライは顔を上げ叫び、エルフェリーンも頷き肯定する。


「そうだぜ~誰だってそうだよ。それだけ危険な所だから最低限の強さが求められる。クロと一緒に戦いたいのならそれ相応の強さが求められるのさ」


「ラライが本気で訓練すれば今よりももっと強くなるわ。オーガは体が丈夫で力が強く、その心は鉄よりも硬いといわれているわ。ナナイを見ていれば私はそう思うもの。それにラライはナナイを軽く超えられるわよ。私が保証するわ」


「うふふ、もし訓練のお相手が欲しい時は私が協力しますからね~これでもナナイやキュロットと殴り合いっていた事もありますからね~『悪鬼と剛腕』と呼ばれた二人は生きる伝説として冒険者たちの間では今でも語り継がれています。そんなナナイを超えたいのなら、私から一本取って見せろというものですね~」


 ラライの母であるナナイとビスチェの母であるキュロットを冒険者時代から知るメリリの言葉に顔を上げるラライは大きな声で「うん!」と頷き、微笑む一同。ただ、ビスチェだけは「へぇ~それなら私がメリリを倒せばいいのね!」と口走り笑顔を引きつらせるメリリ。


「あれですよ! 腕力ですよ! 精霊魔法とかダメですよ! キュロットは精霊魔法を使いませんからね! 冒険者時代は使っていませんでしたからね!」


 そう声に出し、クロは何やら説得が終わったのだと胸を撫で下ろし女神の小部屋の入り口を出現させるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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