和やかな夕食と腐ったアイリーン
夕食を食べながらクロはある事に気が付く。
それは蜘蛛の個体によって食べ方が異なるという事である。ある子蜘蛛はお粥のような柔らかい物だけを食し、違う子蜘蛛は焼きそばの麺を食し、また違う子蜘蛛はお湯を入れずにバリバリとヌードルを食すのだ。好みの違いというよりも柔らかい物しか食べない個体と、硬くても問題なく食べられる個体がいるのかもしれないと気が付いたのだ。
「う~ん、好みの問題というよりは蜘蛛の種類の問題?」
頭を傾げひとり呟くクロ。白亜はクロの膝に座り同じように頭を傾げるがヌードルのスープがこぼれそうになり手を添えてそれを防止するクロ。
「キュウキュウ」
「食べている時は気を付けような。今スープをこぼしたら俺も熱いからな」
クロのフォローされたのが嬉しいのか尻尾を軽く振る白亜。その尻尾がお腹の辺りで動き何ともむず痒さを感じるが、いつもの事だと思い頭を軽く撫でて自身が食べているアルファ米のカレーリゾットを口に入れる。
「クロさんはカレー味を選んだのですね。隣いいですか?」
「ああ、構わないが、シャロンは五目御飯だな。味はどうだ?」
シャロンがクロの横に座りアルファ米の五目御飯の感想を聞かれ一瞬目をぱちぱちとさせ、数秒遅れて手にしていたスプーンで五目御飯を一口すくいクロに向ける。
「あ、あ~ん……」
顔を赤くしながらもあ~んをするシャロンに腐ったレーダーが反応し首を瞬時に向けるアイリーン。目を見開き普段は閉じている残りの六つの目も大きく開くが次の瞬間には肩を落とす。
「おお、ありがとな」
そう言ってスプーンに乗せた五目御飯を指で摘み口に運ぶクロ。シャロンも予想外の行動だったのか目をぱちくりさせる。
「ゴボウの風味がいいな。味も良いし思っていたよりも水っぽくないし、袋のまま降ればおにぎりになるかもな~」
そんなクロの感想を聞き白亜がシャロンを見上げて大きく口を開ける。が、催促されているシャロンは思っていたのと違いショックというほどではないがフリーズしており白亜は可愛い鳴き声で五目御飯が一口欲しいアピールをする。
「キュウキュウ~」
「シャロン、シャロン、すまないが白亜にも一口いいか?」
「えっ、あ、はい、どうぞ」
袋ごと白亜に手渡そうとするがその手には筒型ヌードルとフォークがあり、再度大きく口を上げる白亜。するとクロがシャロンの差し出す五目御飯の袋を受け取りスプーンで一口分すくい手に取ると白亜の歯に気を付けながら入れ表情を溶かす白亜。
「あ、あ~ん………………」
白亜を見ていたシャロンが頬を染めながら口を大きく開きあ~んと口にする。その姿にさっきまで自分で食べていたのにと思うクロ。鼻息を荒く真っ赤な八つの瞳を向けるアイリーン。
「それならほら、あ~ん」
シャロンが使っていたスプーンと言うこともあり何の抵抗もなくあ~んするクロ。シャロンはスプーンを口に入れられながらも微笑み「美味しいです……」と口にする。口にするのだが、針で刺すような殺気を背中に受け恐る恐る振り返ると鬼の形相を浮かべるメルフェルンの姿があり、更にはその奥で鼻息を荒くしながらも親指を立てる腐った変態の姿に、選択肢を間違えたのかと今更ながら気が付きゆっくりと顔を戻してカレーリゾットの残りを口に入れるクロ。
『人種とは面白いものだな。だが、味が違うのなら理解もできるな。我々のような力を摂取するというだけではなく様々な味付けを行い、食を楽しみに変えているのか……』
脳内に響く念話にクロが顔を上げると、黒く巨大な蜘蛛は感心しながら数度頷きクロを見据える。
「そうですね。我々は食べるという行為に歴史を重ねてきましたから。食を楽しむのはもちろんですが、様々な食品と向き合い試行錯誤を繰り返して料理を作り出しましたね。今食べているものはこちらの世界にはない食べ物ですが、いずれこちらの世界でも作られると思いますよ」
『ほお、それは面白いな。世界が違うということか………………』
『それならクロ、貴方に頼みがあります。私の子供たちに料理を教えては頂けないでしょうか?』
黒く巨大な蜘蛛と話していると新たな念話が頭に入り蜘蛛の女王がその巨体を動かしクロの前に現れ、白亜は小刻みに震えそれを落ち着かせるようにクロは膝に乗る白亜を優しく腕で包み込む。
『竜の子を怖がらせてしまいましたか?』
「いえ、大丈夫です。白亜も慣れれば怖がらないと思いますので、ほら、怖くないからな~白亜と同じ真白なボディーはカッコイイだろ」
「キュ……」
閉じていた瞳を薄っすらと開けて目の前の巨体を視界に入れる白亜。クロが言うように真白な女王蜘蛛の外殻を見つめ、縁どられるように入る金色と白く光沢のあるボディーに母親である白夜を思い出す。
「キュウキュウ~」
「ほら、綺麗だろ」
「どことなく白夜にも似ているぜ~白夜も白い鱗に金が混じって綺麗だったぜ~」
エルフェリーンも会話に参加し目の前の蜘蛛の女王を白亜の母である白夜に似ていると褒め、鳴き声を上げて何度も頷く白亜。
「キュキュウ~」
「遠目では見た事があるけど綺麗だったな。凄い速さで飛び去って、今でもその光景は目に焼き付いているよ」
白亜を託された時の事を思い出すクロ。遅くても五年以内に戻るとだけ言い去った白夜の現在は北の地で古龍同士の会合をしているのだとかで、あまり詳しい話は知らないのが現状である。
『私は古龍である白夜さまと御一緒にされては御不快に思われます。我らは白夜さまがこの地に怒りを吐き出した場所を間借りしているだけの存在……それにしても白夜さまの子に会えるとは……もし何か困った事があれば私を頼りなさい』
情報の八つの瞳が心なしか優しそうに見えたクロ。白亜はクロの膝からゆっくり下りるとトテトテと歩き蜘蛛の女王を見上げ鳴き声を上げる。
「キュウ~キュウ~」
「白亜さまは大丈夫だといっているのだ! クロは頼りになると……キャロットがいれば問題ないといっているのだ!」
その言葉にジト目を向けるクロ。キャロットはそれでも仁王立ちでドヤ顔を崩さす、察している皆が笑い声を上げる。
「うむうむ、キャロットは頼りになるのじゃ。そこは間違いないのじゃ」
「うふふ、キャロットさまの小さな見栄の張り方は可愛いですね」
「まあ、クロやキャロットよりも私の方が白亜に頼りにされてそうだけどね」
離れて見ていた仲間たちも会話に加わり話が盛り上がるなか、蜘蛛の女王は視線をアイリーンに向ける。
『ふふ、これほど笑ったのは初めてかもしれません。アイリーンは本当によき友を持ちましたね』
「はい、皆さんに良くしていただいています。特にクロ先輩には色々とお世話になって、私を仲間にしてくれたのもクロ先輩が掛け合ってくれたからで……感謝しています」
文字では蜘蛛の女王に伝わらないと思ったのか口で説明するアイリーン。恥ずかしいのか頬を染めその頬を指で掻いてはいるが感謝自体は本物なのだろう。
「それにいい感じのBLを提供してくれるのも評価が高いです! さっきもシャロンきゅんとの嬉し恥ずかしあ~ん体験とかは最高ですね! これはもう人類において最も尊い光景かなと……ですよね?」
同意を求めてくる腐ったアイリーンに、クロは顔を引き攣らせたのは仕方のない事だろう。
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