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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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火を使わない夕食



『客人よ。本当に谷に降りて戦う心算なのか? 我らとは違いエルフや人族は毒に弱いのだろう?』


 前足をワチャワチャと動かし取り乱している様にさえ見える黒く巨大な蜘蛛。その姿にビスチェは仁王立ちのドヤ顔を決めて口を開く。


「あら、私はアイリーンが戦うから参加するだけよ。ここはアイリーンの故郷なのでしょ?」


『そ、それはそうだが……』


「なら、守ってあげるわ。私には風と土と水の精霊に、闇の精霊も力になってくれているわ。私の心配をするなんて百年早いわね!」


 エルフの寿命からすれば早いと思うが、百年早いという単語にコクコクを頭を下げる黒く巨大な蜘蛛。


「それに師匠も付いているし、クロもいるから安心なさい!」


「いやいやいや、ラライからも持ち上げられたが、俺はそんなに強くないからな。ムカデとか思い出すだけで鳥肌が……」


 両手で二の腕を触りながら声に出すクロであったが頼られているクロを見てシャロンとラライは嬉しそうな表情を向け、アイリーンやエルフェリーンもニコニコとした表情を向ける。


『それほどまでに信頼されているのだな……クロ殿、宜しく頼む……』


 お尻を高く上げ頭を下げる黒く巨大な蜘蛛にクロは飛び掛かる前の姿勢に見え一瞬たじろぐが、念話の内容と重ね頭を下げているのだと気が付き姿勢を正して「できる限りだがな」と答えるのであった。








 戦いの前という事もあり女神の小部屋からルビーとメルフェルンに小雪に簡単に説明し、ルビーとメルフェルンとシャロンに白亜と小雪は不参加となったが、蜘蛛の女王と黒く巨大な蜘蛛に震えながらも挨拶をするメルフェルン。


「シャロンさまのメイドをしておりますメルフェルンと申します」


 膝が震えながらもプロ根性で噛まずに自己紹介をするメルフェルン。その横では挨拶もまだなのに目を輝かせるルビー。原因は子蜘蛛たちが持って来た鉱石であった。


「ミスリルに魔結晶、こっちは飛行石と魔鉄の鉱石!? エメラルドにルビーにサファイヤに金が入り混じるなんて……ふひゃっ!? アマダンタイトと羅漢石!? 夜光石が霞んで見えます~~~~~~~」


「貴重な鉱石をこんなにも受け取ってもいいのかい?」


「ギギギギ」


 ハイテンションで鉱石を手に取り見つめるルビー。その横ではエルフェリーンもホクホクとした顔で鉱石を手に取りルビーと同じく子蜘蛛たちにお礼を口にする。


「ありがとう! 僕は蜘蛛が抱き好きになったよ~」


 その言葉に子蜘蛛たちは両手を上げてお尻を振り、エルフェリーンとルビーも鉱石を両手に持って同じような動きで踊り謎の一体感が生まれ、小雪とキャロットも楽しそうな空気に一緒になって踊りだす。


≪何だか教育テレビみたいですね~体操のお姉さんと一緒に子供たちが楽しそうですね~≫


 クロの目の前に現れた文字を読み顔を上げ確認し、その光景に吹き出し肩を揺らす。


「あはははは、これからムカデと戦おうってのに楽しそうでいいな」


≪確かに戦いの前にする事ではないですね~でも、楽しそうですよ~≫


「ああ、本当に楽しそうだよな」


≪はい、ん? その雑誌は何ですか?≫


 クロが呼んでいた雑誌に気が付き文字を浮かせるアイリーン。


「ああ、これは害虫駆除が乗っている雑誌だな。ムカデの魔物と戦うのなら弱点とかも解れば有利に戦えるだろ」


≪確かに有利に戦えますね~ムカデの弱点は火ですよね?≫


「厳密にいうと六十五度ぐらいらしいな。ムカデの毒はタンパク質でできているから熱で固まるらしい」


≪思っていたよりも低い温度ですね~≫


「ほら、温泉卵とかもそのぐらいの温度で作るからな。タンパク質が固まる温度だな」


≪ですが、蜘蛛の巣が張り巡らされた場所で炎は使えませんよね?≫


 顎に手を当てクロへ指摘するアイリーン。


「ああ、だから方法を考えているんだよ。普通サイズのムカデならお湯をかければいいんだけどな……殺虫剤とか使ったら子蜘蛛さんたちも巻き込みそうだし……」


 雑誌を見ながら顎に手を当てるクロ。二人して同じポーズで考え込んでいると背中の白亜が顔を出し弱々しい鳴き声を上げる。


「キュゥ……」


「心配してくれているのか?」


 背中からの声にリュックを下ろし白亜を抱き上げるクロ。すると白亜のお腹から大きな音が鳴り察するクロ。


「私もお腹が空いたのだ!」


 子蜘蛛たちを踊っていたキャロットも白亜の前に現れお腹を押さえ空腹を知らせ、クロは立ち上がり料理の準備を始めようとするが火が使えない事を思い出し腕を組む。


≪ん? クロ先輩、どうしました?≫


「いや、火が使えないと思ってな。女神の小部屋で料理するか、谷の上に行くか……ああ、それならヴァル召喚!」


 クロの声に応えるように魔法陣が浮かび上がり、ゆるキャラ姿のヴァルが召喚され姿を現す。


「主さま! お呼びでしょうか?」


 犬なら尻尾がブンブンと触れているだろうテンションでクロを見上げるヴァル。事実、凛々しい顔でクロを見つめ両翼を広げやる気をアピールしている。


「ヴァルにはお湯を出してもらいたくてな。頼めるかな?」


「はい、この命が尽きるまで!」


「そこまではいらないかな」


 そう口にするとクロは魔力創造で色々なものを創造する。


「いっぱい出てきたのだ!」


『これはまた珍しいスキルだな……どれも見た事がない物ばかりだ……』


≪アルファ米を使った商品ですね! これならお湯を注ぎ入れるだけで料理ができますね………………あのクロ先輩、もしかして火が使えないからお湯を入れるだけで料理ができる商品を魔力創造したのですか?≫


 魔力創造したアルファ米の商品を確認していたクロの目の前に文字が飛び込み、それを目で追い口を開く。


「ああ、お湯ならヴァルが魔力を使って出せるそうだからな」


≪普通の料理を魔力創造とかすればいいのでは? ほら、前にコンビニのおにぎりやサンドイッチを出したじゃないですか≫


「……………………………………だな」


 火を使わないという点だけを考え思いついた事もありアルファ米を魔力創造したクロ。アイリーンが言うようにコンビニのおにぎりやサンドイッチにお惣菜や即席麺などの商品はもちろんのこと、飲食品店で食べたハンバーグや寿司にカレーなども魔力創造が可能であり、普通の食事を提供することも可能である。


≪何だか災害時の料理みたいで……≫


 アイリーンの浮かせた文字に頷くクロだが、ヴァルは既に魔力を使い頭上には湯気を上げる水球が複数いている。


「折角ヴァルが頑張ってくれているから今日はこれを食べないか? もしあれならラーメンや焼きそばも出すからさ」


「ラーメン!」


「焼きそば!」


 アイテムボックスから世界一売れているカップ型の三分待つヌードルと四角い箱型の焼きそばを取り出すとテンションを上げて叫ぶルビーとメリリ。この二人は以前の留守番の時にこれにはまり久しく食べていなかった事もありテンションを上げたのだろう。


「はいはい! 私はシーフード味がいいです!」


「うふふ、私はソース焼きそばをお願いします! フランとクランには悪いのですがこっちの焼きそばの方が私は好みで……特に入っているキャベツの何とも言えない食感が癖に……」


 ルビーは鉱石を見つめていたがそれを放り出して好物であるシーフード味を所望し、メリリは数日前に食べた成樹祭用の料理として練習をしているフランとクランの作る焼きそばよりもインスタントを贔屓するほど好物らしく、クロアイテムボックス方取り出すと真っ先に手に取り開封する。


「隙に選んでヴァルにお湯を入れてもらって下さい」


 その言葉に乙女たちは好きなものを手に取り、近くにいた子蜘蛛や女王蜘蛛までもがアルファ米の玉子粥や五目御飯を手に取りお尻を震わせる。


『クロ殿、感謝する……』


 黒く巨大な蜘蛛は子蜘蛛と女王蜘蛛の代わりにお礼の念話を飛ばし、自身はカレーリゾットを手に取ると開封しヴァルが入れるお湯の順番を待つのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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