表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
360/669

蜘蛛の女王



 子蜘蛛たちからお礼という名の両手を上げお尻を振るダンスを受け取り、クロたちは次のエリアへと足を進める。そこへ行くには柔らかい糸でできた地面ではなく、亀裂内部の横穴に入りゆっくりと下る坂道を越えた先にであった。


「洞窟内にも多くの鉱石が剥き出しになっているぜ~ほら、これが夜光石と呼ばれる暗い所で光を発する鉱石だ。水晶と似ているけど微細な魔力にも反応して光るから明るいだろ~」


「うん! これ欲しい! 少し分けて貰えないかな?」


『それなら採掘したものが多くあるから後で譲るとしよう。他にも光る石はあるから好きに持って行くといい』


 黒く巨大な蜘蛛からの念話に飛び跳ねて喜ぶラライ。エルフェリーンも目を輝かせ洞窟内で足を止めるがクロがその背を押して先に進む。


「うむ、次の階層も地面が糸の様じゃな」


 緩やかな坂道のカーブを進んだ先は、先ほどの同じような糸が敷き詰められた床があり遠くまで見渡せるほどの明るさがある。天井には無数の光を発する鉱石が埋め込まれているのか白い光が等間隔にあり、それらが昼間のような明るさを常に確保しているのだろう。


「何だか幻想的な空間ですね……」


 天井を見上げたクロの言葉に皆が上を向き、無数に発光する鉱石を見上げ息を漏らす。


「本当に綺麗だわ……」


≪私には蛍光灯のある広い視聴覚室の天井を思い出しますね~≫


 アイリーンの文字に風情がないと思いながらも少し納得するクロ。


『女王がお見えだ。皆、失礼がないようにな』


 そう念話が頭に響き目を向く一同。視界には白く大きな蜘蛛がこちらへ向かって来る姿が見え、リュックから顔を出していた白亜が頭を引っ込める。


「あれが蜘蛛の女王……」


 大きな胴体はワンボックスカーほどのサイズがあり、白く美しい胴体は金で縁取られたような輝きが権威を象徴しているように見え自然と頭を下げるクロ。他にもシャロンとメリリが頭を下げ、ロザリアはその美しさに息を飲み、アイリーンはその姿を見つめ静かに目を閉じる。


『貴女がアイリーンですね。女神ベステルさまからの言葉を受け驚きましたが、本当に人の体を手に入れた蜘蛛なのですね』


 脳内に響く声は優しく耳心地の良いもので、顔を上げたアイリーンは口を開く。


「はい、アラクネと呼ばれる新しい種として進化しました。人と共に生きる蜘蛛として生活しております」


『そのようですね。ハイエルフと共に暮らし、エルフや他の者たちとも共存できることは素晴らしいです。どの生物も単体では弱く脆い……貴女は素晴らしい居場所を見つけたのですね』


「はい……」


 アイリーンへと視線を向けていた女王は八つの瞳をクロたちに向け念話を送り、エルフェリーンは一歩前に出て口を開く。


「うんうん、僕もそう思うぜ~ひとりは寂しいからね~長く生きていると多くの別れを経験するが、多くの出会いもあるからね~君はその事をよく理解しているね」


『私も長く生きていますから……多くの仲間を失いましたが、多くの子供たちを産み育て、今はこの谷を安住の地としています。ただ、今この瞬間にも下では多くの子供たちが戦い命を落としていると思うと……』


「下で戦い命を落とす?」


 女王からの念話にエルフェリーンが首を傾げ、クロたちは足元へと視線を向けるが糸で作られた床が透けている事はなく確認はできない。


『この下は渓谷の底。渓谷に沿ってやってくる多くの魔物からこの地を守るべく戦っているのです。多くはムカデと呼ばれる硬く毒を持つ魔物。他にはトカゲが数種ほど谷を登りこの地を目指しているのです。これはもう百年近く続く戦い………………いえ、生存競争でしょうか』


『子蜘蛛たちが進化すると渓谷の上部へと行き実践を覚え、最終的には地下で戦う戦士となる。地下で戦い強き戦士となったものは女王と子を作り、更なる戦士の糧となるのだ』


 魔物の世界ならではの社会構造にアイリーンが無言で頷き、クロたちは引いていた。この地を守るために戦う事を選択したのだろうが、強い戦士になったら子を残して女王に食べられるという結末。

自然界にもそういった生物は多く、蜘蛛やカマキリなどが代表例だろう。それだけ種の保存という行為はエネルギーを使うのである。


「あ、あの、もしよかったら飲み物でも如何ですか? 子蜘蛛さんたちが気に入っていたので女王様もどうかなと」


 やや沈んだ空気を入れ替えようとクロが魔力創造でオレンジジュースを創造して飲みやすいよう大皿に入れ、アイリーンがそれを持ち女王の前へと運ぶ。


「クロ先輩のオレンジジュースは皆さん喜んでくれましたから口に合うと思うのですが……」


 緊張しているのか手が震えるアイリーン。


『感謝します。先ほどから子供たちから嬉しそうな気配が届いていました。これがその原因だったのですね。アイリーンも気を使ってくれているのね。嬉しいわ』


「は、はい……」


 前足で器用に持ち口に運ぶ女王はオレンジジュースを口にすると数秒ほど固まり、再起動するとお尻をゆっくりと振り念話が飛ばされる。


『これは何と美味なのでしょうか……蜂蜜を食した事がありますが、それ以上です。甘みと酸味に香りが絶妙です……』


 味わうように口にする女王の念話とリアクションに、クロは胸を撫で下ろしアイリーンは微笑みを浮かべる。


「うふふ、やはりクロさまの魔力創造は素晴らしい能力ですね。人と魔物の垣根を越えて感動させるのですから」


「うんうん、それは僕もそう思うぜ~蜘蛛さんたちにもウイスキーを味わってもらいたいけど……アルコールを飲む文化はないだろうからお勧めはできないかな」


 和やかな会話へと変わりリラックスしながら女王がオレンジジュースを飲み切るのを待っていると、顎に手を当て何やら考え込んでいるアイリーンが文字を浮かべる。


≪地下での戦闘に参加する事はできるでしょうか……≫


 浮かぶ文字を見たクロは顔を引き攣らせ、同じくシャロンとラライも文字を読むとクロの後ろへと隠れるように移動する。


「ムカデが相手となると精霊たちに手伝ってもらわないとかしら……」


「僕も手伝うぜ~長く生きた同士だし、アイリーンのお母さんの為に天魔の杖を振るっちゃうぜ~」


「うむ、ムカデが相手となると炎を使った魔術が効果的なのじゃが、蜘蛛たちの糸も燃えてしまうのじゃ。何かしらの作戦は必要となるじゃろう」


「腕が鳴るのだ!」


 エルフェリーンとビスチェにロザリアとキャロットはやる気満々で、特にエルフェリーンは天魔の杖をクルクルと回してやる気を漲らせている。


『アイリーンの参戦は嬉しく思うがムカデは大きく恐ろしい相手である。人との共存を可能としたお前が態々危険な戦いに参加する事もあるまい』


 黒く巨大な蜘蛛からの念話にアイリーンは顔を横に振り口を開く。


「いえ、私もここで生まれた蜘蛛ですから……それに私が強くなった姿も見て貰いたいというか、成長した姿を見せたいというか………………そうだ! クロ先輩はムカデ退治のプロですからね!」


 急に話を振られたクロは「はあっ!?」と驚きの声を上げるが、後ろに隠れていたラライが目を輝かせ叫ぶように口を開く。


「そうだよ! クロは凄いの! 大ムカデからみんなを守ったんだよ! あの時のクロは誰よりも英雄だったよ!」


 背中から聞こえる声にクロは眉間を押さえ、これから地下で戦う羽目になるのかと、トラウマであるムカデとの戦闘に口元を引きつらせるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ