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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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蜘蛛の社会



「あれ? 白い蜘蛛がいるな……しかもそれなりの数が……」


 崖を見上げるクロは色取り取りの蜘蛛の中でも全身が白い蜘蛛が目に入りアイリーンへと視線を向ける。


≪あれはホーリースパイダーですよ~回復魔法が使えますね~私もホーリースパイダーからジョロウグモに進化して、プリンセススパイダーになりアラクネへとなりましたから。もしかしたら同じような進化をする個体も現れるかもしれませんね≫


 自信の過去を文字に起こして語るアイリーンに、クロたちは初めて会った時のクロと黄色のボディーとその後進化しメタリックなボディーとなった姿を思い出す。


「プリンセススパイダーの時は硬そうに見えたわね」


「うんうん、あの頃のアイリーンはもっと蜘蛛らしい姿だったぜ~もっと真剣に観察をするべきだったと後悔する時もあるけど、アラクネとなった今は世界にひとりだけだからね~これからも色々と研究させてもらうぜ~」


「師匠、興味があるのは理解できますが、本音は隠して下さいよ……」


「ん? 隠す? 何故だい? 僕は錬金術師だけど魔物学も興味があるぜ~魔物の中でも進化する種は多くの可能性を秘めているからね~

 特にアイリーンなどの蜘蛛たちは見た目や性能が変わることで戦い方が変わるだろ。興味は尽きないよ~ホーリースパイダーとかは珍しい種だし、できたら近くで見たいぐらいだね」


 そう目を輝かせて話すエルフェリーンに、黒く巨大な蜘蛛が壁の無数に空いた穴へと手招きをすると多くの蜘蛛たちが一斉に動き出し姿を現す。不思議と無音で近づいてくる蜘蛛たちに驚き恐れたのかシャロンとメリリはクロの後ろに隠れ、白亜のマッサージ機能が弱から強へと変わり、クロはアイテムボックスからリュックを取り出し開くとそこへ駆けこむ白亜。


「あの数は少し恐怖を感じるわね……」


 虫嫌いの人が見たら卒倒しそうな光景が広がりビスチェが口にし、シャロンとメリリは無言で頷き、エルフェリーンは目が輝かせ近づき膝を折り一匹のホーリースパイダーの前で頭を下げる。


「どうか少し体を見させてくれないかい? 報酬にクロが美味しいジュースをくれるからさ」


「ギギギギギ」


 エルフェリーンの言葉に両手を上げてお尻を振るホーリースパイダー。クロはリュックを背負うとオレンジジュースを魔力創造し、シャロンとメリリは二人で頷くと開封しクロがアイテムボックスから取り出した浅めの皿に蓋を取り注ぎ入れる。


「ふむふむ……お尻には不思議な模様があるね……手足は普通の蜘蛛と変わらず、牙も短いね……攻撃よりも回復に特化しているのだね……おや、目に魔法陣の様なものが……この目は魔眼? 回復魔法が使える理由としては魔眼が関係しているかもしれないぜ~」


「こっちの青い蜘蛛は他の蜘蛛よりも前足が鎌のように湾曲しているわ。あなたが魔物の解体をしているのかしら?」


「ギギギギギ」


 ビスチェも蜘蛛たちを見つめ特徴のある前足を持つ青い蜘蛛を見つめ話し掛け、話し掛けられた青い蜘蛛はお尻を振り嬉しそうに声を上げる。


「これだと皿が足りないか。いっそ皿ごと魔力創造すればいいかな」


 視界一面に広がる色取り取りの蜘蛛たちへオレンジジュースが行き渡るよう大きく底の浅い皿を魔力創造するクロ。頭に思い浮かべたのは近くの骨董品店に飾られ、いつまでも売れていない直径一メートルはある大皿であった。


≪クロ先輩、それってあの骨董品店のヤツですよね……今思ったのですが、皿よりも雨どいとか、ビニール製のパイプを半分にカットした物とかどうですか? 両サイドは私が糸で塞ぎますから≫


 アイリーンの提案にクロはホームセンターで売られている四メートルの塩ビ管と呼ばれる硬質塩化ビニル管を魔力創造する。

 アイリーンが糸を飛ばし持ち上げ空間に固定し、白薔薇の庭園を抜き上段に構えると誰もが息を殺し見守り、飛び上がり上から下へと一刀両断しバラが舞い散るエフェクトが浮かび上がり、見ていた蜘蛛たちは両手を上げお尻を振り「ギギギギギ」と声を上げ歓声を送る。


「うむ、見事な一撃なのじゃ」


『蜘蛛というより人族の戦い方であるな……やはり……』


「いつ見ても見事ですね」


「うふふ、蜘蛛さんたちも喜んでいますね~ああいった繊細な技術は素晴らしいです」


 半分にカットされた塩ビ管を拾い上げたクロはプラ製の下敷きを魔力創造するとアイリーン声を掛け上に放り投げ、アイリーンも飛び上がり投げた下敷きも四枚に斬られ柔らかい床の上に落ち、更なる歓声が響き渡る。


「この下敷きで両サイドを固定すればいいだろ。ほら、アイリーンはカッコつけてないで糸を頼む」


≪少しぐらい歓声に酔ってもいいじゃないですか~両端に下敷きを付ければパイプも転がりませんから実用的ですね。はいっと、これでいいですね~≫


 糸の粘着成分を下敷きに付け半分になった塩ビ管の両サイドを固定する。シャロンも手伝い半円状の二本になった塩ビ管に下敷きを取り付け終えると、メリリが待ってましたとオレンジジュースを注ぎ入れる。


 大皿三枚と塩ビ管四メートルが二本にオレンジジュースが注がれ、エルフェリーンが観察していたホーリースパイダーが最初に口にすると他の蜘蛛たちは列を作りオレンジジュースを口にしてお尻を振り順番を変えながらその味を楽しみ、クロは足らなくなるだろうと多くのオレンジジュースをその場で魔力創造し、魔力回復ポーションを口にする。


≪クロ先輩すみません……何だか気を使わせちゃって……≫


 段ボール単位で魔力創造した事もありその積み上げた箱の姿にアイリーンが文字を浮かせ、黒く巨大な蜘蛛は何度も頭を下げる。


「いや、気にすんなよ。あんなに喜んで貰えると、提供しているこっちも嬉しくなるからな」


 シャロンとメリリにロザリアが段ボールからオレンジジュースを取り出し、しれっとキャロッとは自身の分を手に取り口にして尻尾を揺らす。エルフェリーンはオレンジジュースを飲む姿を凝視して観察し、ビスチェは辺りを警戒しながらも糸を回収して動くモコモコとした羊蜘蛛の行動を見つめ、瞳が合うと手招きをする。


「あなたも少し飲んで行ったらどう? クロのジュースは美味しいわよ」


「ギギギギ」


『折角だ、飲んでいくといい』


 手招きに応じてビスチェの前に来た羊蜘蛛は困惑しているのかキョロキョロと頭を動かすが、黒く巨大な蜘蛛から念話に頷き片手を上げて礼をすると最後尾へと並ぶ。


「蜘蛛さんたちは列を乱さず並びますね」


「うふふ、横入りや喧嘩もしない所を見ると我々よりも理性的ですね~」


「うむ、これは驚くべき事じゃの。我々よりも社会的に優れている部分やもしれん」


「収穫祭ではよく喧嘩を目にするものね。成樹祭でもママが生意気な隣村の長を殴っていたわ」


「あはははは、それはキュロットが粗暴なんだよ~祭りで暴れるのも粗暴な者が多いぜ~」


 ビスチェの母の行動に笑い声を上げるエルフェリーン。ホーリースパイダーの観察が終わったのか会話に混じりオレンジジュースを飲む蜘蛛たちを見つめ意見を交わす。


『蜘蛛同士の争いはあまり目にしないな。小さいうちに教え込んでいる事もあるが、無益な戦いで傷つくよりも中を深める事を教えている』


≪私も蜘蛛同士の戦いは見た事がないですね~≫


 黒く巨大な蜘蛛とアイリーンからの念話と文字に、目を見開き驚愕するロザリア。


「そ、それは凄いのじゃ……魔物と侮っておったが道徳教育を施しておるとは……今日一日で我の魔物への意識ががらりと変わったのじゃ……」


『どんな魔物も知性があると自分は思っている。まぁ、飽くまでもそれは相手を捕食するという行為の前では無意味かもしれないがな……』


 黒く巨大な蜘蛛からの念話に深く頷く一同なのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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