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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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亀裂の内部と女神の小部屋



 数秒の浮遊感を味わい顔から血の気が引くクロであったが、途中隣から手を掴まれたことで視線を向けると目を瞑り歯を喰いしばるシャロンの姿に自身を奮い立たせる。と同時に落下が治まりゆっくりと降下しはじめ背中の蜘蛛が糸を張り落下を制御してくれているのだと気が付きホッと胸を撫で下ろすクロ。


「シャロン、落下速度が落ちたから目を開けて見ろよ。思っていたよりもすごい光景だぞ」


 クロの声にシャロンが目を開けるとそこには何とも不思議な光景が広がっていた。渓谷の壁には多くの蜘蛛がこちらを見つめ前足を上げて手を振り、巣だと思われる洞穴からも顔を出す蜘蛛たち。

 なかでもクロとシャロンを驚かせたのは蜘蛛の種類である。全身が白い蜘蛛や青い蜘蛛に、黄色と緑が混じる蜘蛛やお尻にドクロが描かれている蜘蛛など、見た事のない蜘蛛も多く不思議と目を奪われ、皆同じように手を振りクロとシャロンも手を振り返す。途中、キャロットの笑い声が聞こえ何かと視線を向けると、制御を失っているのかグルグルとまりながゆっくりと落下している姿があったが視線を蜘蛛たちへと戻す二人。


「こんなにも色取り取りの蜘蛛がいるのですね」


「よく見るとどれも綺麗だよな」


 二人の口から出た言葉に背中で糸を制御する蜘蛛たちから「ギギギギ」と嬉しそうな声が聞こえ、更には上からはハスハスと荒い鼻息が聞こえそれも聞こえないふりをするクロ。


≪シャロンくんといい感じですよ~手を繋ぐよりも身を寄せ合ってみてはどうですか?≫


 そんな文字が視界に入り慌てて右手で丸めるクロにシャロンは首を傾げるが、新たに視界に入った蜘蛛に目を奪われる。


「羊のような雲もいるのですね」


 全身に丸めた色を巻きつけた蜘蛛が壁を飛びまわり両手を車輪のように回す姿にクロも視線を向ける。


「もしかしたら糸を回収しているのかもな。ほら、手で巻き取って背中にくっ付けた」


 クロが言うようにこの蜘蛛は必要がない糸を集めているのか、ある程度溜まると背中や腕に付け全身が糸の玉で覆われている。後ろから見れば羊に見えなくもないが顔はやはり蜘蛛であり八つの瞳で新たな糸を探しに壁を素早く移動する。


「不要な糸を集めてどうするのでしょうか?」


「売りに出たりはしないだろうけど、シルクスパイダーやそれなりの強度がある糸なら高額で取引されているな」


「アイリーンさんの糸で織られた布も手触りがいいですよね」


「ああ、あれはシルクというよりもカシミヤだな。繊維が細くて流れるような手触りだったな」


≪褒めてもハンカチぐらいしか出ませんからね~それよりもそろそろ到着ですよ~≫


 二人の会話を盗聴していたのか上からアイリーンの文字が降り、それを確認するクロは視線を下へと向け二人で柔らかい糸で作られた足場に降り立つ。


「ふわふわの地面ですね。ここで寝転んだらそのまま寝てしまいそうです」


「雲の上で寝たらこんな感じかもしれないぜ~フワフワで気持ちがいいね~」


「糸で地面を作っているのか……本当に蜘蛛の上にいるみたいだな……」


「それよりも助けて欲しいのだ! 糸を取って欲しいのだ!」


 落下中に暴れたのか糸が絡むキャロットは柔らかな糸の地面に横たわりバタバタと暴れ、クロの腕から白亜が飛び出し糸を引っ張り、クロはナイフを取り出す。


「クロ、魔剣に魔力を入れちゃダメだぜ~蜘蛛の糸は燃えやすく引火したら火の海になるからね~」


 エルフェリーンからの言葉にクロはピタリと手を止め、その間に現れた先ほどの羊に似た蜘蛛がキャロットから素早く糸を巻き取ると片手を上げる。


「取れたのだ! 蜘蛛さんありがとなのだ!」


「ギギギギギ~」


 どういう理屈か解らないがキャロットに巻き付いていた糸は瞬時に羊蜘蛛の両手で巻き取られ、お礼を言うキャロットに手を上げて去って行き、白亜は急に現れた羊蜘蛛に恐怖したのかクロの足にしがみ付く。


「糸を巻いただけに見えたけど……あれは特殊なスキルなのかもしれないね~」


「体に巻き付いた糸が引っ掛かる事なく回収されましたね……不思議です……」


「ああ、あれは便利だな。釣りで糸が絡んだ時とかに使えそうだな……」


 かなり限定的な使用方法しか思いつかないクロだが、エルフェリーンとシャロンも一緒に釣りをした事もあり釣りでのお祭り(糸同士が絡む事)を体験しているので共感できたのだろう。


「ちょっと、クロ! 避けなさい!」


 見上げた時にはビスチェの顔があり互いに視線を合わせ避けようとするクロであったが、シャロンにまだ手を握られ足には白亜がくっ付いており、身を挺して受け止めるクロ。ゆっくり降りてきている事もあってか、さほど衝撃を受ける事もなく抱き止め柔らかい地面に足が付くビスチェ。


「ふぅ……何とかなったな……」


「あ、ありがと……」


 安堵の表情を浮かべるクロと頬を染めるビスチェ。ニヤニヤするアイリーン。シャロンも空気を読んで手を放し、クロの足にしがみ付いていた白亜はクロをゆっくりと登り背中にくっ付く。


「うふふ、思っていたよりも白く幻想的な風景ですね~上から見た時は黒く底が見えなかったのに不思議ですね~」


「うむ、糸の特性なのか、それとも幻術なのかは解らぬが美しいのじゃ」


『糸を近くで見れば解るかもしれないが、糸自体は透明のように見えるが薄っすらと黒い筋が入っている。上から見れば糸が密集し黒く見えるという事だな』


「糸の特性という訳じゃな」


 メリリとロザリアに巨大な黒い蜘蛛も上からゆっくりと現れ、幻想的な世界を視界に捉え意見を交わしている。


「ねぇ、そろそろ離れてくれないかしら……」


 ロザリアたちが下りてくる所を見ていたクロはビスチェを抱き締めたままであり、ビスチェの言葉に慌てて手を放し距離を取る。が、片意地面ではなく糸で作られた柔らかな足場という事もありバランスを崩す。


「大丈夫なのだ?」


「ああ、悪いな……キャロット……」


 バランスを崩したクロはキャロットに助けられたのだが、キャロットはドラゴニュートで身長がクロよりも高く腕力も強い種族であり、バランスを崩したクロの顔面を片手で受け止めたキャロットはそのまま持ち上げる。


「気を付けないと怪我をするのだ。背中の白亜さまにも、もっと気を使うのだ」


 ドヤ顔を向けるキャロットを指の隙間から見つめるクロ。


「ああ、俺もそう思うよ。というか、早く下ろしてくれ……はぁ……」


 地に足が付き大きくため息を吐くクロであった。









「これはミスリルだけを取り出すのなら高温で溶かせばいいのですが、宝石が入っているとなると魔力で強化したハンマーと合金製のたがねを使って割るしかないですね……サファイヤにエメラルドがどう入っているかも考慮しないと……これは私一人でやったら宝石も一緒に砕いてしまいそうですね……」


 ジョロウグモから受け取った鉱石を見つめ、ああだこうだと独り言をつぶやき、それを後ろから見つめるメルフェルンは大きくため息を吐きながら自身の臆病さに失望していた。


「はぁ……私もルビーさまのような何かに特化したものがあれば……はぁ……」


 鉱石を見つめ中に入っている宝石の位置を想像したがねを打つ場所を決めかねている姿を羨ましそうに見つめる。


「メルフェルンさんは特化してますよ?」


 独り言に対して返されたメルフェルンは目をぱちぱちとさせ、ルビーは振り向くことはないが言葉を続ける。


「食事の時はすぐに準備を手伝いに動きますし、汗をかいている時はタオルを進めてくれますし、みんなの靴をこっそり揃えているのは私見てましたよ。メルフェルンさんは気遣いの人ですよね~」


 その言葉に何気なく行っていた自分のメイドとしての行動を思い出すメルフェルン。


「メリリさんは同じメイドでも寒いと動きませんし、ブーツは脱いでも揃えたりはしませんからね。それに私も虫系は苦手で……鍛冶に特化していると言われていましたが、私の腕はまだまだです……早く師匠のようなエンチャントを習得したいです……」


 ルビーもルビーで悩みがあり、それを知ったメルフェルンは「何が手伝える事はありませんか?」と口にするのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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