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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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蜘蛛の狩りとオレンジジュース



「うむ、正直驚いたのじゃ……魔物の社会が存在し、統率の取れた行動をしておるとは……」


『我々も馬鹿ではない。罠を張るものと罠に張ったものを襲うものに分かれている。傷ついたものを癒すものや渓谷を掘り住居をつくるものいる。獲物は解体し多くの子を育てるものに送るものもいるからな。秩序を乱すものは困るが、アイリーンのように旅立つものは珍しいな』


≪ちゃんと里帰りしましたので許して下さいね~≫


 そんな話をしているとロック鳥と呼ばれ翼を広げると十メートルを超える巨大な鳥の魔物が新たに空から襲い、それに気が付いたアイリーンが一早く糸を飛ばすが翼を羽ばたかせ飛ばした糸を散らしアイリーンたちを見据える。


『では、我々の戦い方を見て貰おうか』


 そう念話が送られてくると巨大な黒い蜘蛛は両手を上げる。すると、ロック鳥へ向かい地上の子蜘蛛たちから糸が放たれ慌てて上昇しようとするが、それを妨害するように一匹の大きく細い体格の蜘蛛がロック鳥の上に覆いかぶさり翼に噛みつき落下する。

 落下の衝撃で吹き飛ばされそうになるがクロが女神シールドを空間に固定しみんなを守り、地上にいた子蜘蛛たちが一斉に飛び掛かり、三十秒もしないうちに糸でグルグル巻きにされたロック鳥は巨大な糸の塊へと姿を変える。


「凄いのじゃ……連携が取れておる……」


「リーダーの蜘蛛が合図して地上から糸を飛ばし意識を向け、空から別の蜘蛛が襲い地上へ落とし、地上にいた蜘蛛たちが一斉に襲うとか……確りとした作戦の元で動いているぜ~もし、これが僕たちに向いたとしたら本当に恐ろしいぜ~」


「最初の指示を出される前にあの指示を出す蜘蛛を倒すか、子蜘蛛を一気に吹き飛ばすかしないと、こっちがやられるわね……」


「うふふ、ここはアイリーンさまと仲が良い事をアピールして襲われないようにしないとですねぇ」


 各自で分析するなかクロは尻尾を丸め震える小雪を回収し、女神の小部屋の入り口を開き中へと送り、向き直ると巨大な糸の塊は糸で引きずられ谷へと落とされて行く。その様子はさながらワイヤーで重機を使う建築現場のようで、子蜘蛛と巨大な黒い蜘蛛が地面に足を刺し複数の糸で吊りながら谷へと下ろされている。


「本当に凄い連携だな……」


「うむ、皆で敵を倒し分け与えておるのじゃろう……もし、この辺りに餌がなくなれば人里を目指すかもしれん……そうなったら簡単に村や町は滅びるじゃろうな……」


『その心配はない。この大きな鳥以外にも餌は豊富にある。空からくるものや地上を走るものや地中から湧き出るものまで多くいる。なかでも地中から湧き出るものとは戦争状態にあるからな。餌は豊富過ぎるぐらいだ』


 糸で獲物を谷へと下ろしながら念話を送る巨大な黒い蜘蛛。その念話を聞いて胸を撫で下ろすロザリアとクロ。


「空からくるものは鳥よね? 地上を走るものと地下から湧き出るものはどんな魔物なのかしら?」


『地上を走るものは角があり早く走る魔物だな。捕獲の仕方は罠を張り待ち伏せをする。地中から湧き出るものは手足が多い虫だな。体が硬く牙が通らない事もあるが糸で動けなくしてから子蜘蛛たちが取り付き体を震わせその熱で蒸し焼きにする。他には魔法を使い集めて燃やすぐらいだな』


「地上を走るものは恐らく鹿と猪なのじゃな。地中から現れるものはムカデかの?」


「大ムカデか……嫌なトラウマが……」


≪クロ先輩は大ムカデからオーガの子供たちを救った英雄さまじゃないですか~≫


「ありゃ必死に守っただけで……はぁ……それよりもムカデが出ると知ったら俺も女神の小部屋に避難したいんだが……」


「あはははは、クロのジョークで初めて笑ったわ! クロが女神の小部屋に避難したら誰が夕食を作るのよ」


「うむ、我もクロの食事がいいのじゃが……」


「うふふ、やっぱりクロさまは頼られていますねぇ」


 ビスチェが笑い、ロザリアがクロを見つめ食事を求め、メリリが尊敬をするような瞳を向けるが、クロとしては頼られているのではなくいいように使われている気がするだけだと思いながらも、ある事が頭の片隅に浮かぶ。もし、蜘蛛たちがご馳走をすると言い出した時、出される料理はいったいどんなものかと……料理というよりも解体という段階で出される気がして顔を引き攣らせる。


≪クロ先輩? どうしました? 顔色が悪いように見えますが、もしかして本当に女神の小部屋に非難しますか?≫


「いや、そうじゃなくてだな、もし蜘蛛さんたちからご馳走されたら解体したままの肉が出てくるのかもと思ってな……」


『ん? 肉は嫌いか? それとも食べない種族か?』


 糸で捕獲した獲物を下ろしながらも頭を傾げる黒い巨大蜘蛛。


「いや、肉は好きなのですが殆どの人種は肉を生で食べる文化がなくて、焼いたり煮たり料理をしてから食べます。それに塩や胡椒で味付けをしてから食べますね」


『そうか……我々は生のまま口にするからな。なかには体液を吸うだけのものもいる。これは種族の違いだろうからな』


≪最初は私もそうでしたね~噛みついて消化液を送り溶かして食べました。慣れてくると普通に食べられましたが、クロ先輩の料理を振舞うのは無理でしょうね~≫


 アイリーンからの言葉にリアル蜘蛛の体験だなと思うクロたち。実際、今は下半身が蜘蛛の形をしておりリアルに蜘蛛の姿である。


『よし、下ろし終わったな。それでは客人たち、歓迎しよう』


 念話が飛び子蜘蛛たちも歓迎しているのか両手を上げてお尻を振り、クロは改めて頭を下げる。


「蜘蛛たちの生活にも興味があるからね~この亀裂の下でどんな暮らしをしているのかな」


『そこはもちろん案内しよう。子育てをしている場所は気が立っているので案内できないが、見せられる所は見学をするがいい』


「うんうん、ありがとう。お礼にクロから美味しい料理や飲み物を提供しよう」


≪料理よりもジュースやゼリーとかならどのクモも食べられると思いますので、そちらを提供して下さいね~≫


 エルフェリーンの発言から現実的なものを提案するアイリーンに、クロはとりあえずオレンジジュースを魔力創造して深めな皿に入れる。すると、子蜘蛛たちが一斉に集まり我先にオレンジジュースを飲み始める。


『子蜘蛛たちが喜んでいるな』


 お尻を振りながら飲む姿に黒く巨大な蜘蛛がお尻を振り同じように喜び、クロはオレンジジュースを追加で魔力創造すると大きな皿に入れ待っていた子蜘蛛たちが群がり、更にオレンジジュースを魔力創造し、大きな鍋に入れ黒く巨大な蜘蛛の前に置く。


「お待たせしました。どうぞ飲んでみて下さい」


『おお、子蜘蛛たちがあんなにも美味しそうにしていたからな。どれ、ゴキュゴキュ』


 鉄製の鍋を器用に前足で抱えオレンジジュースを口にする黒く巨大な蜘蛛は子蜘蛛たちと同じようにお尻を振る。


『これは何とも言えぬ美味な味……クロよ、感謝するぞ』


 念話に胸を撫で下ろすクロは両手を出してくるメリリとビスチェにオレンジジュースを魔力創造して配り、二人もオレンジジュースを飲み始める。


「師匠たちも何か飲まれま………………」


 エルフェリーンとロザリアに飲み物のリクエストをするクロだが、目の前に現れた巨大なジョロウグモと視線が合い固まるのであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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