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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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大地の亀裂とお弁当



 王家の試練場を抜けると木々の数が減り始め剥き出しの岩が多くなり足を止めるビスチェ。


「あれが大地の亀裂と呼ばれる魔物の巣ね。この辺りでは一番危険な所よ」


 ビスチェの言葉により辺りを警戒するクロとメリリ。視線の先には対岸が見え深い亀裂が数キロに及び走っている。底も深いのか暗く闇に閉ざされ、ここから急に魔物が現れ襲われるという嫌な想像が脳裏に浮かぶ。


「ほら見なさい。ここは蜘蛛の魔物が多いわ」


 ビスチェが指差す先には渓谷に巣を張る蜘蛛の姿が視認でき、細い体つきではあるがアイリーンとは比べ物にならないほどの強い魔力と禍々しさを感じることができ顔を引き攣らせるクロ。メリリも同じように身の危険を感じたのかクロの後ろへと足を進める。


「あのような蜘蛛は初めて見ます……」


「あれは女郎蜘蛛と呼ばれる種類の魔物ね。蜘蛛の巣に引っ掛かった鳥や虫を捕食するわ。アイリーンと初めて会った時はあんな感じだったわ」


 クロが頷き、当時の事を思い出しながら女神の小部屋を開けるとキャロットが真っ先に飛び出し、それに続き白亜も現れ景色が違う事に驚いたのか無言で渓谷を眺める。


≪これは懐かしい景観ですね~私の目的地はこの下ですよ~≫


 アイリーンの文字が浮かびクロたちが視線を向け、ぞろぞろと現れる乙女たち。最後に現れたエルフェリーンが大きく欠伸をしながらも天魔の杖を構え結界を施し安全を確保する。


「ここは見晴らしがいいからね~逆に言えば狙われやすいから結界を張ったからね~ふわぁ~」


「うむ、絶景なのじゃ。これが噂に聞く爪痕なのじゃな」


「そうだぜ~白夜が怒った時に付けたブレスの跡さ。古龍同士で喧嘩してね~僕は何があったかと驚いて駆けつけたよ~」


 昔を懐かしむような素振りで話すエルフェリーン。白亜は母親の活躍に尻尾振って嬉しそうな鳴き声を上げるが、その他の者たちには恐怖の対象でしかなく顔を引き攣らせ青くする。


「ここにテーブルを出しますから昼食にしましょうか」


 顔を青くしながらも大きくお腹を鳴らすキャロットからの催促にクロが提案し、アイテムボックスからテーブルと椅子を出すとメルフェルンとメリリが手伝いクロはテーブルに人数分のお弁当箱を用意する。


「お弁当なのだ!」


「キュウキュウ~」


「うふふ、綺麗な布で包んであるのですね」


≪この世界に来て初めてキャラ物のランチクロスを見ましたよ~お弁当ゲットだぜ!≫


 キャラ物のランチクロスに包まれているお弁当箱に興味があるのか白亜とキャロットにアイリーンが興味を示し、多く印刷されているゲットできるモンスターを見つめ、それと同じように目をキラキラとさせるロザリア。


「うむ、不思議と見入ってしまうのじゃ……」


「アイリーンはみんなに浄化魔法を頼む。後は飲み物とおしぼりだな」


 浄化魔法で乙女たちが輝く中、アイテムボックスからおしぼりを出すとメルフェルンが配り出し、ピッチャーに入れられた麦茶を出すとメリリが「お任せ下さい」と微笑み木製のカップへと注ぎ入れる。


「開けてもいいのだ?」


「ああ、ちゃんと野菜も残さずに食べるようにな」


「いただきますなのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットと白亜が真っ先にランチクロスを解いて蓋を開けると、中には大きなオムライスにブロッコリーとウインナー。ほうれん草とベーコンを炒めたものが入っており歓声を上げる。


「オムライスなのだ!」


「キュウキュ~」


 キャロットと白亜が尻尾を振って喜ぶ姿にクロは作って良かったと思いながらアイテムボックスから小雪用のお弁当箱をアイリーンに手渡す。


「ん? これは?」


「小雪用のお弁当な。中身は違うが小雪もお弁当箱に入れた方が喜ぶかなって」


「ええっ!? 小雪用にもお弁当を作ってくれたのですか! クロ先輩はやっぱり頼りがいがありますよ~」


 急に渡された事もあり口で疑問を口にするアイリーン。小雪用のお弁当箱と聞くと更に喜び、椅子の横でお座りをしていた小雪の前に封を開けたお弁当箱を置く。中身はササミをボイルしたものと、ブロッコリーとニンジンにすね肉を軟らかく煮て解したものに、カットしたトマトを添えてある。


「塩分に気を付けてあるから大丈夫だと思うぞ」


 そう口にするクロだったが、エルファーレの所で保護されていたフェンリルはどれも塩分を気にして食事をしているような事はなく自分たちと同じでも構わないのだろうが、見た目が白い犬という事もあり塩分を抜いたお弁当を用意したのである。

 ちなみに、魔力創造で愛犬雑誌を創造し、お弁当の参考にしたのである。


「わふん!」


 お礼を言っているかはわからないがアイリーンを見てひと鳴きし、お弁当を食べ始める小雪。ガツガツという食べっぷりに満足げな表情を浮かべるクロとアイリーン。


「小雪も喜んでいますよ~クロ先輩のお陰ですね~」


「歯磨き用のガムもあるからな~ゆっくり食べるんだぞ~」


「わふっ!」


 ガッツいていた小雪が顔を上げひと鳴きすると、また一心不乱に食べ始める。


「小雪ちゃんが喜んでいますね~私もクロ先輩のオムライスを頂きますね~」


 席に付くとエルフェリーンをはじめとする皆はオムライスを食べ始めており、エルフェリーンのオムライスには師匠と異世界文字で書かれ、ビスチェにはビスチャと名が書かれている。どうやらビスチェが書いたようでドヤ顔をしているが、なぜ自分の名前を間違えるのだろうと思いながらもツッコミを入れず放置するクロ。


「うむ、甘みのあるライスと玉子がよく合っておるのじゃ」


「本当に美味しいですね。これはクロさんの世界では当たり前のお弁当という文化なのですね」


「当たり前と言われると違うかもしれないが、俺の住んでいた国ではこういったお弁当はあるな。旅をする時は屋台や外食もあるが、電車で旅をする時は駅弁とかを利用するかな」


「駅弁?」


≪駅弁いいですね! 牛肉が真ん中にきているお弁当とか、解したカニが贅沢に乗っているのとか、幕の内とかも色々食べられていいですよね~あっ!? カイロがあるなら温められるお弁当とかもこの世界で流行るかもしれませんね!≫


「いつでも温かなお弁当が食べられるのは嬉しいかもしれません」


 クロの説明に頭を傾げていたシャロンだが、アイリーンが浮かせる文字を見つめ色々な種類がある事を知り、メリリは今食べているオムライス弁当が温かい事に気が付き、それと同じように温めて食べられる事ができると知ると目を輝かせる。


「クロのアイテムボックスなら、いつでも出来立てよ。もう一度温める必要はないわね」


 何故かビスチェがドヤ顔をしてクロのアイテムボックスを褒め頷くエルフェリーン。


「クロのアイテムボックスに入れておけばお肉は新鮮で腐る必要がないからね~エルカイ国にいた時は僕のアイテムボックスに毎晩夕食を届けてくれたし、本当に便利で凄いぜ~」


「アイテムボックスをリンクさせることができたのは自分でも驚きました。天使長さんには感謝ですね」


 以前の事を思い出しながら自身のオムライスを口に運ぶクロ。ちなみにビスチェはクロのオムライスの上には弟弟子とこの世界の文字で書かれており、画数が多く少ししょっぱい味付けになっている。が、クロはそれでもビスチェから仲間と認められているのが嬉しいのかしょっぱい事を指摘する事はない。同じようにルビーには妹弟子と書かれているが嫌な顔をすることなく口に運んでいる。


「食べ終わったら下に降りますね~里帰りが楽しみです!」


 頬にケチャップを付けたアイリーンの言葉に、文字はいいのかなと思いながらも指摘する事はなく黙って頷くクロなのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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