オーガの村を出た一行
天ぷらうどんで宴会を開いた翌日は快晴で春らしい温かな日差しの中、村を出て歩みを進める一行。
アイリーンが先頭を歩き、その後ろにはクロとシャロンにメルフェルンとラライが続きメリリとビスチェが最後尾についている。他にもキャロットや白亜に小雪とエルフェリーンにロザリアがいるのだが、キャロットを含めた子供たちは不安が残ると女神の小部屋に待機中であり、エルフェリーンとロザリアも朝までオーガたちと飲んでおり今はお休み中である。
≪泥濘もなく歩きやすいですね~絶好のピクニック日和ですね~≫
オーガの村を抜けた先は森になっているのだが水捌けがよい土地柄で、ぬかるんでいる事はなくピクニック気分で足を進めるアイリーン。クロたちも連日の訓練のお陰か足取りも軽やかに進んでいる。
「綺麗な森ですね。管理されているのか日差しも入り森の中なのに明るく感じます」
「ここはオーガたちが大切に管理しているそうだぞ。適度に日差しを入れた方がキノコや薬草に山菜の育ちが良くなるとかで、定期的に森に入り木々の枝を切り落としているからな」
「森の中だと少し冷えますね。シャロンさまは大丈夫ですか?」
「うん、クロさんがカイロをくれてから温かいよ」
「メルフェルンさんも冷えるようなら使いますか?」
そう口にしながらアイテムボックスからカイロを取り出すクロ。メルフェルンはお礼を言い受け取るとシャロンに教わり軽く振り厚手の手袋で包み込む。
「うふふ、あのカイロは本当に良いものですね。こちらの世界でも売り出すべきです」
カイロに一番お世話になっていたメリリはダウンコートの中にカイロを入れており、頬を赤くしながらも暖かさに包まれ心地よさそうな表情を浮かべている。
「これ温かいよね~クロは便利道具をいっぱい知ってて凄いよね!」
「そうだね。クロさんは色々と便利な道具を出してくれますね。この前はピーラーという野菜の皮むきが楽になる道具を出してくれたよ。他にも魚の鱗を取る道具や硬い瓶を開ける道具も出してくれたね」
シャロンがラライに伝えると目をぱちくりさせクロへと視線を向ける。
「私も今度使いたい! 前に芋の皮を剥いたらこんなに小さくなってお母さんから怒られたよ」
親指と人差し指で大きさを表現するラライにシャロンは笑いメルフェルンも笑みを浮かべ和やかに森の中を歩く一行。アイリーンが先頭で警戒をし、最後尾のビスチェが精霊を飛ばし魔物の気配を探っているお陰で話しながら進む事ができるが、本来であれば全員が緊張しながら進むのが一般的である。
≪前にイノシシ! 数は三、いえ、四です! 頭に三本の角があるタイプです!≫
「フォークボアだな。突進してツノで敵を空にすくい上げてくるから注意!」
≪仕留めましたよ~≫
クロが魔物の注意事項を伝え終えると同時にアイリーンが延ばした糸で首を切り落とし戦闘終了が文字で伝えられ、クロは何とも言えない表情を浮かべる。
≪クロさんは回収をお願いしますね~≫
顔を引き攣らせながらも了解したクロは中々スプラッターな現場に到着するとアイリーンが浄化の魔法を使い血抜きをし、アイテムボックスに回収するクロ。
「うふふ、どちらも見事な手際ですね」
「見事というかアイリーンさまの糸での攻撃は恐ろしいですね……索敵も得意で一撃必殺の遠距離攻撃……敵に回したらどれだけ苦戦するか……」
「苦戦ではなく普通に死にます……」
メリリがアイリーンとクロを褒め、シャロンとメルフェルンは森の中でのアイリーンの戦闘技術を素直に褒める。先頭を歩きながらでも強靭な糸を飛ばし四頭の首を正確に刎ねる戦闘技術は凄まじいものがあり、ラライは目を輝かせてアイリーンを見つめる。
「アイリーンお姉ちゃんは凄いね! 精霊魔法みたいだった!」
「ビスチェの精霊魔法もあんな感じに魔物の首を正確に落とすよな」
≪ビスチェさんほど正確ではないので自分はまだまだですよ~気が付かれずに獲物を狩るのは得意ですけど、精霊と比較するのは飛躍し過ぎですよ~≫
「何言ってるよ。アイリーンは正直凄いわ。誇ってもいいぐらいの実力ね。まぁ、精霊ほどじゃないにしても、冒険者になったらすぐにでもBランクになれるわね」
「うふふ、それは間違いないですね。この辺りの森の魔物はどれも単体でCランクを軽く超えるものが殆どです。何でもありという条件下なら私や『剛腕』だって負ける可能性も十分にありますからね」
褒められたアイリーンは何とも居心地が悪そうな顔をするが、腰に抱き着き「凄い凄い」と連呼するラライの表情に自然と手が伸びその頭を優しく撫でる。
≪少しクロ先輩の気持ちが分かった気がします……≫
「ん? 俺の気持ち?」
≪はい……英雄だと褒められるのはこんな感じかなと……≫
「ああ、少しでも解ってくれたのなら今度から弄るなよな。ん? アイリーンだって前世では英雄だろう」
≪前々前世ですけどね……今思えばあの時も褒められるのは苦手でしたね~チートを使って戦っていただけですし、今の方が戦っている感があるというか、上手く言えませんが………………ラライちゃんは可愛いですね≫
よくわからない着地点を迎えたアイリーンの話にラライは「えへへ」と喜び頭を撫でられ続け、話を聞いていたクロは警戒をしながらも遠くに見える王家の試練場に嫌な記憶が甦る。
≪クロ先輩が吹き飛んだ場所が見えてきましたね~≫
目の前で急停止する文字にクロはアイリーンへとジト目を向けるがラライを猫可愛がりしており目を合わせることはなく、ビスチェが口を開く。
「ここは迂回するわ。もし地面が盛り上がっている場所を見つけたら絶対近くは踏まないように! そこから伸びる蔦で地面に引きずり込まれるわ!」
中々に怖い事を言うビスチェの言葉にクロは女神の小部屋の入り口を開ける。
「俺ならシールドの上を歩けるからさ、シャロンにメルフェルンさんたちは少し休憩して下さい」
その言葉にホッと胸を撫で下ろすシャロン。メルフェルンも白百合の花が危険な事は事前に伝えてあり、目礼をするとシャロンとメルフェルンにラライが女神の小部屋へと消え、代わりにキャロットと白亜に小雪が現れ、白亜はクロへと抱き着く。
「出番なのだ!」
「キュウキュウ!」
「わふんっ!」
そんな一人と二匹に温かい目を向けるクロ。アイリーンも走り出した小雪に糸を飛ばし自身へと引っ張り捕獲し、優しく抱きながら背中を撫でる。
「ここからは危険地帯だから白亜はシャロンと一緒にいてくれるか? まだ蕾だが、あの白百合は寄生し宿主の栄養で成長する恐ろしい植物だからな。一度捕まれば土の中に引きずり込まれて……」
クロの話を耳にした白亜の尻尾は縮こまりブルブルと震え、小雪も危険だと理解したのか撫でられ目を細めていたが目を見開きブルリと身を震わす。
「任せるのだ!」
「いやいや、任せないって! ほら、白亜を頼む」
走り出そうとしたキャロットの尻尾を掴み行動を阻止したクロ。キャロットはムッとした顔を向けるが抱いていた白亜を渡すと「了解なのだ!」と声に出し小部屋へと消え、アイリーンも小雪が離れない事もあり中へと消える。
「うふふ、それでは行きましょうか」
「ええ、私は土の精霊と契約しているから安全な場所が分かるわ。私に付いてくれば安全よ!」
ビスチェのドヤ顔が決まり歩みを進めるメリリとクロ。
王家の試練場をゆっくりと迂回しながら足を進めるのであった。
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