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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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オーガの村でうどん講習会



 香ばしい匂いが広場を包み込むと、まだかまだかとオーガの主婦たちが見学し畑を耕していた男たちも集まり広場にはいつの間にか村人が全員集合していた。その中心には二つの屋台があり黙々と唐揚げを量産しているクランと、肉と野菜を炒めて麺を投入し更に炒め塩ダレを掛け完成させるフランの姿があり汗を流して料理を完成させている。

 この二つの屋台の外装はルビーが作り、中にはクロが魔力創造で作り出したバーベキューコンロが置かれ、その上に鉄板と油を入れた鍋を置き屋台としている。これは成樹祭用に用意したものでフランとクランが使いやすいように色々と工夫が凝らされている。


「ん……から揚げ完成……」


「こっちも十人前完成だ!」


 完成したから揚げは紙コップに入れられ楊枝を刺してメリリが配り、フランが炒めていた焼うどんはメルフェルンが紙皿に乗せて列を成すオーガたちに配り次を作り始める。


「ありゃ、うどんだろ? どうして汁ではなく炒めるんだい?」


「うどんはツルツルで美味しいよね~あれでもツルツルするの?」


 見守っていたクロの横でナナイとラライが疑問を口にし、クロは口を開く。


「あれは焼うどんですね。できるだけこっちの食材や調味料を使った結果、塩味の焼うどんになりました。本来はソース焼きそばにしようと思ってのですが、中華麺の作り方に必要なかん水が手に入らなかったので焼きうどんという形になりました。うどんはみんなで打ちましたが意外と大変でしたね。気に入ったのなら作り方をお教えしますよ」


「前に食べたうどんは煮込まれていたな。熱々の味噌味で体の芯から温まったが……」


「から揚げ美味しそ~私は並んでくる~」


 ラライが駆け出し、それを目で追いながら口を開くナナイ。


「こっちの食材で作ったということはこの村でも作れるという事だね。是非、教えて欲しいね」


「はい、うどんは煮て汁に付けても、焼いても美味しいですからお勧めですよ。作り方もそれほど難しくはないですし、味噌で煮込むと美味しいですよね」


 数日前、『草原の若葉』では今日の為に手打ちうどんを皆で打ち麵を茹で用意をしていた。その時に活躍したのは力自慢のメリリとキャロットでありコシの強い麺が完成している。焼うどん用に打たれた麺は解れやすいよう油で和えられ大量のストックがクロのアイテムボックスに入れられておりオーガの村の人口から考えても十分に余る量が用意されている。

 いるのだが、オーガたちの食欲を甘く見ていたのか次々に食べては新たに並び大量消費されて行く食材。


「こりゃ、オーガの主婦さんたちを集めてうどんの講習会でも開いた方がいいかもな……」


 そう呟くクロの横でナナイは頷き、近くにいたオーガの主婦たちに声を掛けるのであった。








≪浄化の光よ~≫


 アイリーンの浄化魔法でクロが取り出したテーブルが浄化され、そこに小麦粉と水と塩を取り出し説明しながら小麦粉に塩水を入れ捏ねはじめるクロ。


「こうやって少しずつ塩水を入れながら混ぜ、ある程度混ざってきたらゆっくりと力を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜ生地を休ませます」


「休ませる? 手早く混ぜて作ってはダメなのかい?」


 オーガ主婦たちに見守られながら作業していると一人の主婦から質問が入り、クロは生地を丸めながらそれをボールに移し濡れた布巾を乗せる。


「一気に仕上げると麺がぼぞぼぞとした食感になりますね。うどんのグルテンだったかな? それが結合する前に切れてしまうのが原因だっかたか? よく覚えていませんが休ませると麺にコシが生まれツルツルとしながらも弾力のある食感になります」


「さっきの焼うどんは美味しかったね。ツルツルと口に入って子供たちも喜んでいたよ」


「そのうどんはこうやって作るのかい……不思議なもんだね……」


 ひとりの主婦が話し始めると連鎖して話すのは異世界でも同じなのかもしれないとクロは思いながら、主婦たちにもうどん作りを参加するように声を掛ける。


「私も手伝うのだ!」


 オーガに混じりキャロットもうどん作りに参加し小麦粉を捏ねてゆく。ドラゴニュートという事もあり力強く捏ねる姿はオーガの主婦たちにも引きを取らず、強い腰のある麺が完成する事だろう。


「三回から四回に分けて塩水を入れた方が上手くまとまりますからね」


 そんな様子を見ていたアイリーンは隣に座るロザリアに文字で話し掛ける。


≪クロ先輩は料理教室の先生とかにも向いてそうですね~≫


「うむ、クロは子供の面倒見も良いのじゃ。良き父となろう」


「うふふ、良いお父さんになるのでしたら欲しいですねぇ」


 お茶を持って来たメリリが肉食系の瞳を浮かべ、二人は引きつった笑みを浮かべながらもお礼を言って温かいお茶を口にする。


「焼うどんの方は落ち着いたのじゃな」


 簡易屋台を見るとフランとクランがぐったりしながらも、もう並ぶオーガの姿はなくやり切った笑みを浮かべている。


「はい、オーガの皆様は満足されたようです。中には五度も並ぶ方もおりましたよ」


「そ、それは凄いのじゃ……」


「うふふ、から揚げも大人気でしたね。油で揚げるという料理は好みが分かれそうですが、子供たちに大人気でした。酒を持ってこようとするオーガの男性が奥様に起こられておりましたよ」


「うむ、から揚げに酒は合うのじゃ。気持ちは理解でいるのじゃ」


≪見て下さい! 小雪ちゃんがオーガの子供たちと走り回っていますよ! ああ、何と尊い姿なのでしょう!≫


「それをいうなら白亜も飛んでおるのじゃ……」


「うふふ、子供たちがたくさん食べて元気に走り回る姿は良いものですね」


「うむ、ここは良き村なのだと実感できるのじゃ。子供が元気でよく笑う場所はその町や村の様子がよくわかるのじゃ。飢饉や病気が蔓延しておるとこうは行かぬ……食べ物があり笑顔が生まれる事こそが、豊かであるという証拠なのじゃ……」


 小雪が走り白亜が飛ぶ中を追い掛けるオーガの子供たちを見てロザリアとメリリが感傷に浸っていると「ベックションッ!?」という大きなクシャミが聞こえ振り向くと、小麦粉で咽るキャロットの姿がありどうやら打ち粉をした時に舞った小麦粉でクシャミをしたのだろう。ドラゴニュートという事もあり肺活量が高く打ち粉全てを吹き飛ばしたキャロットはオーガの主婦たちを真白に変え、笑い出すオーガの主婦やそれを見ていた男たち。


「ヴァルを召喚! 皆さんに付いている小麦粉を浄化してくれ!」


 クロは急いでヴァルを召喚し魔法陣からヴァルが現れ浄化魔法を使い光に包まれる広場。その光景に走り回っていた子供たちも集まり、綺麗に浄化されたオーガの主婦たちからは驚きの声が響き、男たちが感嘆の声を上げお祭り騒ぎへと発展して行く。


「村長! これはもう酒を出すべきです!」


「振舞ってくれた料理のお礼は酒でするべきだ!」


 そういった声が重なり、お前たちは飲みたいだけだろうと思いながらも許可を出す村長のナナイ。一斉に酒蔵へ走り出すオーガの男たち。それを見て呆れるオーガの主婦たち。酒を言う単語を聞き目を覚ますエルフェリーン。ロザリアとメリリも耳をピクリと動かしお酒が振舞われると知ると二人でハイタッチを決める。


「なあなあ、もしかしてだけどさ……」


「ん……これからはおつまみ作り……また開店……」


「………………マジか………………」


 ぐったりしていたフランとクランも先ほどのやり取りが耳に入っていたのかユラリと立ち上がると料理の準備を始める。


「うどんに合わせるのならどぶろくか日本酒だよなぁ……そうなると天ぷらも揚げた方が……」


 浄化したヴァルを頭に乗せながらうどんを伸ばすクロは、宴会料理を考えながらうどんをオーガの主婦たちに教えるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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