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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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母の願いとエルフ姉妹の修行



「クロ~~~~~~」


 エルフェリーンが帰宅して一週間が経過するとアイリーンの生まれたダンジョンへ向かうという要望を叶えるべく『草原の若葉』たちは動き出し、オーガの村へとやって来ていた。

 オーガの村には木製の高い壁があり見張りをしていたナナイが第一発見者となり叫び、クロも手を上げて再会を喜ぶ。


「クロたちが来たよ! 門を開けて!」


 そう叫んだラライが重厚な門がゆっくりと開かれるが待ちきれず、見張り台から飛び降りクロの前に着地すると抱き着き、クロは困った顔をしながらもオーガの身体能力の高さを褒める。


「あんな所から飛び降りるなよ。こっちが心配するだろ」


 見張り台の高さは当然高い壁よりも高く二十メートルはあり、そこから飛び降りたラライは高い塀と少し離れた木に蹴りを入れ落下速度を減少させたのだ。忍者のような動きで目の前に現れたラライの頭を優しく撫でながら諭すように話すクロ。けろっとした顔を浮かべるラライ。


「ん? 危なくないよ~子供たちもたまにやるし、私はいつもやってるもん」


 笑顔を浮かべるラライにマジか~と心の中で思いながらも、門が開きオーガの男たちから歓迎され村の中へと案内されるのであった。






「へぇ~アイリーンの実家のダンジョンを訪ねるのかい」


 オーガの村の村長であるナナイの家に案内されたクロたちは休憩に寄らせてもらった経緯を話し、必要な物がないかいつものやり取りを行う。

 オーガの村ではクロが一緒に仕込んだ味噌が作られており、猪の肉を使った豚汁ならぬ猪汁や猪の味噌漬けなどが作られている。他にもシイタケに似たキノコを飼育し鳥の飼育なども行い、危険な森の中でも安定した食料を確保している。主食としては豆類が多くそれに目を付けたクロが味噌を作る事を提案し、昨年は数樽が無事に完成しオーガたちの胃袋を掴んだのであった。


≪はい、里帰りです。ダンジョンといっても天然物のダンジョンで、洞窟の奥に谷が広がっていますね。光る鉱石などがいっぱいあったのでその採取も目的のひとつです≫


 アイリーンが文字を浮かせると目を輝かせるラライ。


「そりゃもしかして、王家の試練よりも奥に入った岩場の穴だろ? あそこは蜘蛛にムカデが多くいてドワーフたちが採掘を放棄した………………」


 眉間に皺が寄り考え込むナナイだったが、ラライがその体を揺らし口を開く。


「私も行く! 光る鉱石ならこの村でも使いたい!」


「ん? この村で?」


「うん! 夜中にトイレに行く時とかに明るい方が便利だもん!」


「怖いだけじゃ……」


「こ、怖くはないよ! もう成人したからオバケとか怖くないもん!」


 可愛らしいやり取りにクロが微笑み他の者たちも微笑みを浮かべるが、当人は真剣な瞳をナナイに向ける。


「はぁ……ムカデの毒は命に係わるし、蜘蛛はそれ以上の毒を持っている。クロたちが行くのも心配なのに……はぁ……エルフェリーンさま方がいれば問題ないかもしれないが……」


 ナナイはクロへと視線を向け、クロも困った顔をしながらエルフェリーンへと視線を向け、そのエルフェリーンはうつらうつらと舟を漕いでいた。


「危険な事には変わりませんが、本当にやばそうな時は女神の小部屋を使って安全確保はする心算です。ラライは前に入ったよな」


 エルフェリーンが寝ている事もありクロが口を開き女神の小部屋の説明をしながら入口を開ける。すると、ラライが「うん!」と返事をすると中へ入りその場から消え、ナナイも立ち上がり女神の小部屋へと頭を入れ中で手招きするラライを確認するとクロへ向き直る。


「前にラライが言っていた事を思い出したよ。クロは変な部屋を持ち歩いているとか、中には美味しいお菓子がいっぱいだとかね……クロが無事ならこの部屋にいる限りは安全そうだね」


「そうですね。俺が死んだらどうなるかとかはわかりませんが、シャロンやメルフェルンさんも危険な時は入ってもらう予定でいます。まあ、師匠もいますし、ビスチェやアイリーンにロザリアさんやメリリさんもいますから余程の事がない限り大丈夫かと」


「ああ、そこは私も心配してはいないんだがね……双月……」


「うふふ、私に問題があると?」


『双月』と呟いたナナイに反応するメリリ。メリリは微笑みを絶やさずに口にする。


「問題というよりもお願いだ。娘を、ラライを頼む……」


 思ってもみない言葉と両手で拳を作り座りながら頭を下げるナナイの姿に目を見開くメリリ。これはオーガ族が相手へ敬意を表して頭を下げる姿であり、完全な格上もしくは恩人にする敬意の現れである。それを元冒険者でありライバルでもあった『双月』と呼ばれたメリリにするナナイの行動に驚いたのである。


「うふふ、『悪鬼』と呼ばれた貴女がそこまでするとは……」


「私だって親だからな。娘の心配をするのは当然だろう」


 ゆっくり頭を上げるナナイに、メリリは母親となったナナイの言葉を受け静かに目を閉じて頭を下げる。


「ラライちゃんは私が命に代えてお守り致します。うふふ、あの『悪鬼』から頼られる日が来るとは思いませんでしたが、母親としてですか……私も母親になったらその気持ちを理解できる気がします……」


 開いた瞳でナナイを見つめ、無言のまま頷くナナイ。


「この時期は畑を耕して種を植えるから忙しいんだよね~族長としては残って仕事をしないと示しが付かないんだよね~」


 いい感じで話がまとまっていたのに女神の小部屋から頭を出しぶっちゃけるラライに、ナナイが黙ってなさいという視線を送りラライはまた女神の小部屋に引っ込み消える。


「うふふ、大切な友人の娘としてお守り致しますのでお任せ下さい。お土産に鉱石を採取してきますのでオーガの村の美味しい料理で迎えて下さいね」


「ああ、できる限りの持て成しを約束しよう。何なら有望な若い男でも紹介しようか?」


「いえ、オーガはちょっと……筋肉質過ぎるのは……」


 メリリにも異性の好みがあるらしく断りを入れクロへと視線を向け微笑み、クロはその微笑みを理解して口を開く。


「それともう一つお願いありまして、この二人の料理修行の為に昼食をこちらで準備しても構いませんか?」


「料理修行? 昼食を作ってくれるのなら歓迎だが料理修行?」


 この場にはフランとクランも付いてきており、成樹祭でのメニューが決まり多くの人を相手に料理する場を求めてオーガの村に足を運んでいる。


「よ、宜しくお願いします」


「ん……任せる……」


 丁寧に頭を下げるフラン。クランは片手を上げ自信を滲ませている。


「何か手伝える事があれば言っておくれ。料理の下準備ぐらいなら私も手伝うし、クロの料理の手伝いなら村の主婦連中も慣れているからね」


「そこは大丈夫です。昨日のうちに下準備は終わらせてありますから調理するだけです。それよりも広場に屋台の設置と並ぶ人の整理をお願いします。ああ、後は温かい目で見ていただければ……」


 クロの言葉に「任せな!」と口にするナナイは立ち上がり早々に村の広場へと足を進め、オーガたちを集めるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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