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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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事情聴取というなのお話



 翌朝、息苦しさで目を覚ますと胸に乗り寝息を立てる白亜の姿に朝からため息を吐く。


「こいつは誰かの上に乗らないと眠れないのかよ……よいしょっと……」


 起こさない様に白亜を胸からベッドに降ろすとまるで親を探しているのか、手を動かす姿にクロは枕を手の届く場所に置く。すると白亜は枕を掴み上に乗ると安心したのか寝息を立て、毛布を被せベッドから降り欠伸と伸びをするクロ。


「まだまだ子供だからな……う~ん、もう朝か……」


 カーテンから漏れる光に窓へと移動しカーテンを開くと教会の中庭が目に入り、朝から忙しく動き回るシスターやそれを手伝う子供たちの姿に教会に泊った事を思い出す。


「そっか、夜遅くに天界から帰って来て聖女さまが宿泊の段取りをしてくれたんだっけ……ん? ビスチェにアイリーンも手伝っているのか」


 子供たちと一緒に籠に入れた野菜を運ぶビスチェとアイリーンの姿が目に入り、ほのぼのとした光景にもう一度伸びをするクロ。


「ここは孤児院も兼ねてるんだっけか……おっ、俺に気が付いたな」


 ビスチェが手を振りアイリーンが素早く窓際へと現れ、魔力で作られた糸で文字を宙に浮かせる。


≪おはよう。アメが欲しい。子供たちに配りたい≫


 窓を開けたクロは魔力創造でアメの袋を三つほど出現させるとアイリーンへ手渡す。


「飴の袋は回収しろよ。燃やすと有害らしいからな」


≪了解! ありがと≫


 急ぎ子供たちとビスチェが待つ所へ向かい≪いいもの貰った≫と糸で文字を浮かせると子供たちとビスチェが歓声を上げる。


「ありがとう!」と声が重なりクロは手を振り子供たちは若いシスターの手招きに走る様に去って行く。


「ここは子供たちも楽しそうでいい所だな、う~ん」


 もう一度伸びをすると部屋にノックの音が響きクロはドアへと向かう。


「クロさま、起きられましたか? 教皇さまからお話をお伺いしたいと、おはようございます」


 ドアを開けると聖女の姿があり、やや緊張しているのか直立のビシッとした姿で頭を下げる。


「おはよう、教皇さまが?」


「はい、ネクロマンサーの事や昨晩の事などをクロさまの口からお聞きしたいそうです」


「ああ、でも、聖女さまもご説明したのですよね?」


「それはもちろんです。ですが、その、教皇さまはクロさまの事を使徒さまだと……できればクロさまから教皇さまへ説明して頂けたらと……ダメでしょうか?」


 聖女は上目使いで手を合わせクロへ訊ねる。


「それぐらいなら構いませんが……使徒とかじゃないですよ。女神さまと面識があって、強制的にお供えするように言われているだけですし……」


 女神ベステルから週に一度はお酒とおつまみを捧げる事を約束した事を口にすると、聖女は中指に光る黒い指輪へと視線を移す。


「私もあの場にいましたが、女神ベステルさまがクロさまに貸し与えた神器を持つという意味は教会にとって驚愕の事実ですから……使徒という枠に収まると思います。それに勇者さまたちに巻き込まれた異世界人という肩書も、教会が関わりを持ちたい自案ですから……」


 クロが巻き込まれた勇者召喚は聖王国が主導して行われ、女神ベステルが力を貸した事で実現した現象である。それにより魔王が討伐されたのだ。

 この教会も聖王国が信仰する女神ベステルを崇めており、王国や貴族などの寄付を募って入るが聖王国が運営しているのだが、その崇める女神ベステルと直接会話し神器を受けたクロという存在は無視できないし、使徒と認定するのも自然な事だろう。

 ただ、クロとしては聖王国に召喚されたが聖王国近郊にあるダンジョンで秘密裏に殺されそうになり聖王国自体にはあまりよい印象がなく、本国にばれないでほしいという思いが強かった。


「それは構いませんが、できれば自分の事は聖王国に伏せて欲しいのですが……」


「判断するのは教皇さまです……私も昨晩のうちに教皇さまへ色々と説明させて頂きましたから……お優しい教皇さまが無下にする様な事はないと思いますが……」


 何やら歯切れの悪い言葉と困った様な顔をする聖女に、クロは困った事にでもなっているのかなと思案する。


「まずは話をしてみましょう」


「そ、そうですね! それがいいと思います! では、こちらへいらして下さい」


「白亜も連れて行きますね。まだ寝ていますがリュックに入れておけばおとなしいですから」


「白亜さまは七大竜王の御息女でありますから教会では何も問題はありません。それにアイリーンさまも亜人種ではありますが、女神ベステルさまが進化を促した新しい種族! 拳を振り上げ喜ぶ姿には驚きましたが教会ではアイリーンさまをアラクネ種という新しい亜人種として歓迎致します」


 微笑む聖女にクロは白亜を起こさないようにリュックに入れながら、亜人種差別がここでもあるのかと軽くため息を吐く。

 聖王国よりは緩いとはいえターベスト王国でも亜人種は差別対象である。酷い国では奴隷制度を採用している国もあり、なかでも労働力として奴隷を使い潰していた帝国は数百年前にとあるハイエルフに滅ぼされた歴史もあるのだ。今では帝国は複数の共和国として生まれ変わったが、あまりいい噂を聞かない国でありクロは近づくなとエルフェリーンは口を酸っぱくして言い聞かされている。


「お待たせしました。お願いします」


「はい、こちらへお越しください」


 宿泊した部屋を出たクロは聖女の案内で足を進め、時折すれ違うシスターや神官から頭を下げられ会釈で返しながら通路を進むと辿り着いたのか足を止める聖女。目の前には質素な扉がありノックをすると中から声が聞こえ、ドアを開くと中へ入る様に促され足を踏み入れる。


「おいで下さり、ありがとうございます」


 部屋の中は大きな本棚と重厚なテーブルに書類が多く重なった部屋があり、椅子に座っていた教皇は立ち上がり頭を下げる。


「いえ、あの、教皇さまが頭を下げる様な人物ではないので」


 そうクロが口にすると頭を上げ微笑む教皇はソファーに座る様に手を向け促すと対面へ腰を降ろす。


「改めて昨晩の事件の鎮圧に協力して頂きありがとうございます。天界での話も聞かせて頂きましたがとても興味深く……アイリーンさまがエリアヒールを使い多くの怪我人を癒した話もお聞き致しました。本当にありがとうございました」


 ソファーに座りながら再度頭を下げる教皇の姿に、クロは居心地の悪さを感じながらも頭を下げる。


「本日お呼びしたのはお礼が言いたかった事と、クロさまとアイリーンさまを私たちの教会で保護したいと考えたからです」


 頭を上げた教皇のその言葉にクロは口を開く。


「はっきり言ってお断りさせて下さい。自分は今の環境が好きですし、薬草をゴリゴリと潰す錬金術の基礎作業を続けて行きたいと考えています。

 それに自分は使徒ではないし、もう異世界人でもありません。こちらの世界に適用する様に体を作り変えたそうですし、残ってこの世界を楽しむ事が一番の目標ですから。

 女神ベステルさまからは毎週お供えを強制されていますが、関係としてはそれだけで、使徒としての活動などした事がありません」


 クロは確りと瞳を見つめ口にすると、教皇は微笑みながら口を開く。


「なるほど、聖女がいう通りですね。それではそう致しましょう」


「宜しいのですか?」


「もちろんです。女神ベステルさまとの繋がりがある時点で使徒と認定されるのが普通ですが、本人が拒否しているのに強制的に保護という訳にはいきませんから。それをしてはただの誘拐犯です。

ですが、ひとつだけ言わせて下さい。昨晩の事件を鎮圧したのは紛れもなく使徒としての行動だったと、私は思います。どういう形であれ王都を守り救ったのですからその心は間違いなく使徒としての行動であり、我々教会が重んじる『他者を助けよ』という教義そのものです」


「そ、そうですね……あの場は王族に囲まれていましたし、エルフェリーンさまが指揮を取ったのでテンションに任せて行動しましたが……そうですね。誰かを助けたい気持ちはあったかもしれません……」


「ふふふ、人とはそういったものです。気が付けば体が動くものであり、誰かの為に動ける者は勇者であり使徒なのです」


「それは飛躍しすぎだよ~勇者は勇者であり、使徒は使徒。クロはクロだし、教皇は教皇だよ」


 カーテンの奥から姿を現しながら口にするエルフェリーンは笑顔を浮かべながらクロの横に腰を降ろす。


「私は嫉妬していたのかもしれません……使徒という存在や世界を救った勇者という存在に……誰かの為に行動する事は尊いのですが……」


 両手を合わせ祈る様に目を閉じる教皇。


「歳を取ると考え方が固くなるからねぇ~柔軟な思考とすべてを許せる心でも持っていないと、人生は辛さが目立つからねぇ~誰かを亡くしたりするのは本当に悲しいよ……それでも人は立ち上がり生きて行かなきゃね! あっ、お腹鳴った」


「キュウキュウ」


 エルフェリーンのお腹とリンクする様に背負っていたリュックから白亜の鳴き声が聞こえシリアスな空気をぶち壊し、教皇は頬笑みを取り戻す。


「そろそろ朝食の時間でしょうから、ご一緒しませんか?」


「是非」


 一緒に朝食を取るのだった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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