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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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カウンターで飲む午後とクロとの出会い



「こうして水をよく切った豆腐に片栗粉を付けて油に入れる。この時によく豆腐の水気を切らないと油に入れた時に破裂するから注意な」


「この豆腐は豆から作られているんだよな?」


「ん……豆腐も今度作りたい……」


「ああ、いいぞ。豆腐は前に作ったから教えることはできるな。ニガリもまだ取ってあるし、冷奴でも湯豆腐でも豆腐プリンでも作れるな」


 話しながら豆腐を揚げ、揚げ上がったものを網のバットに置き油を切り、用意していたキノコベースの汁と合わせる。


「こうやって椀に汁を入れ、揚げた豆腐に三つ葉を添え好みで摩り下ろした生姜を添えて完成。食べる直前に盛るのがコツだな。揚げたては熱々だが汁に使っていない上はサクサクとした食感で、下は汁を吸ってトロトロになり味の変化があって楽しいからな」


 揚げ出し豆腐を作り終えた感心したように何度も頷く二人。

 昼食を終えたクロたちはエルフェリーンが久しぶり帰って来た事もあり、夕食は派手に帰還のお祝いをしようと料理を教わりながら手伝っている。成樹祭に出す料理以外にも色々と料理を教わり、基本となる出汁の取り方や肉や魚の下味の付け方や肉の焼き方などを教わり、炒飯や五目炒めなどの中華料理や基本的なお味噌汁や揚げ物の作り方などを教わりスポンジのように料理の仕方を吸収している。


「前に作った天ぷらよりも、から揚げに近い作り方だよな」


「ん……揚げる温度と爆発に注意……」


「そうそう、油を使う時は油の温度に注意だからな。温度が上がり過ぎると油から火が出て水を掛けたら爆発する。落ち着いて蓋を閉めるか、濡らした布をそっとかけて火を沈下させることだな」


 そんな光景をニコニコしながらキッチンカウンターに座り眺めるエルフェリーン。温かいお茶を飲みながらクロが指導する姿を見て弟子の成長を喜んでいた。


「こうして見ているとクロも逞しくなったぜ~」


「うふふ、クロさまは私が初めて見た時にはもう逞しく感じましたが、昔は違ったのですか?」


 エルフェリーンの呟きを拾ったメリリが横に座ると、エルフェリーンは昔を懐かしむように腕を組み目を閉じ語り始める。


「僕が初めてクロを見たのは王都のダンジョンでね、ボロボロの服で冒険者に絡まれていたよ~傷はあまりなかったけど着ていた服はボロボロで顔色も悪くてね~ゾンビかと思ったぐらいさ」


「そのような事があったのですか」


「うん、僕が心配になって話し掛けたら絡んでいた冒険者が固まってね。クロからは氷のような視線を受けたね。あの時のクロはナイフのような刺々しさがあったぜ~」


「うふふ、今ではナイフというよりも温厚でお優しい青年という方がしっくりきます」


「そうだね。でも、その当時はそんな感じだったぜ~冒険者たちが逃げ出した後に話を聞くと勇者召喚に巻き込まれ死者のダンジョンの奥深くから転移したらしくてね。これは放っておけないと思い、一緒に話をして僕が凄い錬金術師だから弟子にならないかと誘ったのさ」


「そんな過去があったのですね……異世界の知らない土地でひとりなら心細かったでしょうに……」


 料理を指導するクロへと視線を向けるメリリ。エルフェリーンもクロを見つめ微笑みを浮かべる。


「そんなクロを連れてここに戻ったらビスチェが怖い顔をしてね~汚い男を連れ込むのはどういうことかって言われたよ」


「うふふ、ビスチェさまらしいです」


「クロも汚い男と言われてカチンと来たのか無言で睨み合ってね~僕はビスチェの弱点である脇とクロの脇を指で突いたのさ。睨み合っていたのにビスチェは笑って、クロも驚いたのか睨み合いをやめて笑い出したぜ~あの時に三人で笑え合えたから今があるのかもしれないね~」


「うふふ、そのような事があったのですね。私もビスチェさまに起こられた時は実践したいと思います」


 二人で笑い合いながら指導するクロを見つめ、見られているクロは揚げ物をしている事もあり会話は耳に入ってくる事はなく作業を続ける。続けるのだが、あまりにも視線が気になりその意味を察して揚げたてのカキフライを二つほど小皿に乗せ楊枝を刺してカウンターに置く。


「あの、味見しますか?」


「うんうん、食べるぜ~これは何のフライかな?」


「カキフライです。揚げたてですので注意して下さい」


「うふふ、エルフェリーンさまと御一緒させていただきます」


 両手を合わせて微笑むメリリがフゥフゥと冷ましながら口に入れ表情を溶かし、エルフェリーンも口に入れ満足気な表情を浮かべ飲んでいた緑茶を手に取るとその表情がなくなりクロへと視線を向ける。


「まだ夕食には早いですが少し飲まれますか?」


「うんうん、クロはわかっているぜ~こんなにも美味しい料理があったら美味しいお酒を合わせるのがマナーというものだぜ~」


「ウイスキーは強いのでビールを出しますから他にもおつまみを出しますね。メリリさんも飲まれますか?」


「いえ、私はまだメイド業務が残っていますので、少しだけ……」


 メイドの業務が残っていても飲むのかと思いながら冷えたビールをアイテムボックスから取り出しグラスへと分けるクロ。それを受け取ったエルフェリーンは一気に飲み干し残りのカキフライを口にする。


「ぷはぁ~ウイスキーもいいけどフライにはビールが合うぜ~」


「うふふ、熱々のフライをよく冷えたビールで流し込むのは癖になりそうです」


 そう感想を漏らす二人の前にヒジキの煮付けとクロが付けた浅漬けが小鉢に入れられ二人の前に届き、それをポリポリと食べながら新たなビールが届けられる。


「あまり飲み過ぎないで下さいね。夕食は師匠が無事に帰ってきたお祝いをする予定ですからね」


「うんうん、わかっているぜ~お昼の炒飯も嬉しかったけど、クロが僕に色々としてくれるのが嬉しくてね~やっと家に帰ってきた気がするよ~」


 微笑みながら話すエルフェリーンにメリリも微笑みを浮かべ、お通しのように出された小鉢を口に運びビールを口にする。


「ん……エルフェリーンさま……これ、ササミチーズカツ」


「こっちはキノコに肉を詰めて揚げたものです。こちらもご賞味ください」


 フランとクランも昼食の事が引っ掛かっていたのか作っている料理を運び、エルフェリーンとメリリの前に置くとエルフェリーンは笑顔を浮かべお礼を口にする。


「昼間はごめんね~どうしてもクロの料理が食べたかったからさ。二人が料理している姿を見ていたけど真剣に取り組んでいるのがよくわかったよ。キュロットにも食べさせてあげたいね~」


「師匠が返ってくる少し前にキュロットさんとランクスさんは帰られましたよ。成樹祭の準備で色々と忙しいとかで」


「へぇ~今度の成樹祭はペプチの森が主催するのか~あれは何度か出席した事があるけど退屈だから行きたくはないね~フゥフゥ……うまっ!?」


 成樹祭を思い出し少し表情が曇るエルフェリーンだったが熱々のササミチーズフライを口に入れるとその表情が一変し、それを見たフランとクランは二人でハイタッチを決める。


「うふふ、本当に美味しいです。中のチーズが熱々トロトロです」


「うんうん、とっても美味しいぜ~フランとクランはもう立派なクロの弟子だぜ~」


 メリリとエルフェリーンから誉め言葉を受け取ったクランとフランはハイタッチから抱擁へと移り、涙を流して喜ぶフランをクランが優しく撫でるが、クランも薄っすらと目に光るものがあり、二人が認められた喜びにクロも込み上げるものがあるのか涙を堪えるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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