フランとクランの成長
「はいっ! チャーハンあがり!」
「ん……こっちは五目炒め!」
元気な声がキッチンから響きメリリとメルフェルンが料理を受け取るとリビングに設置されたテーブルへと届け歓声を上げるロザリアとビスチェにシャロン。
「どっちも美味しそうね!」
「うむ、クロが作る料理と引きを取らぬ見た目なのじゃ」
「香りもいいですし、早く食べて見たいですね」
湯気を上げる炒飯は米の間に空気が入りパラリと仕上がっており、角切りのチャーシューは食べ応えがありそうで食欲を掻き立て、肉とエビに葉野菜とパプリカの入った五目炒めは餡でまとめられごま油の香りがこれまた食欲をそそり、メルフェルンが皿に取り分ける。
「お熱いのでお気を付けください」
そう口にするメルフェルンのお腹が地響きを立て、頬を染め逃げるように立ち去ると一斉に料理を口にする三名。
「うむ、これはシャキシャキとした歯応えとトロトロとした口当たりが面白いのじゃ。もちろん美味しいのじゃ」
「この炒飯もクロが作るのと同じ味よ! パラパラしてて香ばしくて美味しいわね!」
「とても美味しいです。どちらも味が確りとしていてぼやけていませんし、色味も綺麗でどんな人でも喜びそうですね」
三名の言葉に胸を撫で下ろすフランにクラン。見守っていたクロも大きなため息を吐き終えると、キッチンに立つ二人へ視線を送り飛び跳ねて喜ぶフランと鼻の穴を大きくするクランによくやったと視線を送る。
「うふふ、これでクロさまの料理が受け継がれましたねぇ」
「この香りはダイエット中の胃にきます……クロさま、ごま油はダイエット中の乙女に嗅がせるのは禁止して頂けませんか?」
素直に喜ぶメリリとジト目を向けて来るメルフェルン。クロは「そのダイエットは明日からでいいのでは?」という言葉を飲み込み「善処します」とだけ口にする。
「いい匂いがしたのだ!」
「キュウキュウ~」
「わふぅ!」
≪お昼は中華ですね~≫
アイリーンたちが散歩から戻り鼻をスンスンとさせクロが手洗いを指示するとキャロットたちは急いで洗面所へと走り、キッチンに立つ二人へと注文を入れる。
「炒飯を五人前と五目炒めを二人前頼むよ」
「おうっ! 任せて!」
「ん……ん? 二人前?」
「キャロットがチャーハンを三人前で、五目炒めは食べても一人前だろ。あとはアイリーンと白亜の分だな。小雪には炒飯を少しと専用の缶詰を開けるからな」
クロの言葉に二人は納得したのか料理を作り始め、家に入る前に浄化魔法を受けた小雪はクロの足に頬を擦り付ける。
「小雪も大きくなったよな~ここに来た時は手乗りサイズだったのに柴犬ぐらいになったかな」
「わふぅ」
優しく小雪を撫でると目を細め尻尾を揺らし、もっと撫でてと額をグリグリとクロの足に押し付ける。
「うふふ、小雪ちゃんも大きくなりましたね~」
「あの巨体からしたらまだまだ小さいですが、スクスク育つ姿に感動を覚えます」
メルフェルンはフェンリルの本来のサイズを知っており、トラックサイズになった群れの長の事を思い出しているのか両手を軽く広げて目を閉じている。その姿を横目にしながらも興味は炒飯にあるキャロットは白亜と共にテーブル席へ向かい腰を下ろし、アイリーンも小雪を呼ぶとテーブル席へと腰を下ろし≪お冷がないですね~≫と文字を浮かせる。
「ん……五目炒め……あがり……」
「炒飯も完成!」
キッチンからの声に料理を受け取り、先ほどと同じようにメルフェルンが料理を皿に分けると食べ始めるキャロットたち。テーブルの下ではクロが用意した犬用の缶詰と炒飯をもぐもぐしながら尻尾を揺らす小雪。
「美味しいのだ! クロに匹敵する腕になったのだ!」
「キュキュウ~」
≪本当に美味しいですね~クロ先輩を超える日も近いですよ~≫
そう文字を浮かべるアイリーンにキッチンではハイタッチが行われクロも満足げに頷く。これには理由があり、成樹祭での屋台営業を想定してフランとクランはキッチンに立っているのである。注文を受け料理を作り振舞う形となり、手早く正確に調理する訓練としてキッチンに立つ二人。
最期に現れたルビーがクロの元へ向かい理由を尋ねる。
「今日はお二人が作られているのですね。いい香りがします」
「ああ、成樹祭に向けた訓練だな。炒飯と五目炒めだがそれでいいか?」
「はい、お腹がペコペコです」
「それじゃオーダー、炒飯と五目炒めを三人前ずつな」
「任せろ!」
「ん……」
クロの注文にルビーが首と手を横に振り「そんなに食べられません!」と口にするが注文は通っており調理を開始する二人。
「ああ、それはメリリさんとメルフェルンさんたちの分もあるからな。二人も料理が完成したら昼食にして下さい」
「うふふ、ありがとうございます。実は先ほどから味が気になって我慢の限界でした」
「わ、私も……」
盛大にお腹を鳴らせたメルフェルンに気を使っての事だろうが、メリリのお腹も可愛らしい音を立て頬を染めながらテーブルへと向かう三名。
「弟子が立派に育つ姿に感動を覚えるな……」
調理を進めるフランとクランを見ながら感傷に浸っていると目の前に文字が現れそれを読み上げるクロ。
≪お冷がまだですよ~≫
その文字にクロはレモン入りのピッチャーを魔力創造で作るとアイリーンの元へ向かいグラスに入れてまわる。
「うむ、この水は果実が入れてあるのじゃな」
「油っぽい料理だからさっぱりとした香りが合うわね」
≪町中華っぽくていいですね~≫
こちらの世界には町中華はないのはアイリーンも理解しているが、基本的には飲食店での水がただという事はなく注文をするのが普通である。
「あの~できたらでいいので、ウイスキーを少しだけでも頂けら嬉しいなぁなんて……」
水を配るクロへ手を上げてお願いするルビーに顔を横に振るクロ。
「今日は二人が作る料理の味を確認してくれ。夜には出すからさ」
「そ、そうですよね……それなら夜にはウイスキーに合う料理が食べたいです! から揚げや燻した魚や熱々のピザとかウイスキーに合います!」
「それなら白ワインに合う料理も作って欲しいわ。前に食べた玉子を煮た料理が美味しかったわ。芋を揚げたのやソーセージとかも美味しかったわね」
≪私は揚げ出し豆腐やピーマンの肉詰めがどぶろくに合うと思います!≫
料理のリクエストを耳にしているとキッチンから炒飯と五目炒めの完成の声を受けクロが動き、ルビーたちの前に料理が届き完成の声を上げる三名。
「本当に美味しそうですよ! 料理が輝いて見えます!」
「それは五目炒めのごま油だな。熱いから注意して食べてな」
そう注意を促しキッチンカウンターへ戻り、フランとクランがドヤ顔でクロを迎える。
「どうよ!」
「頑張った……」
「ああ、これなら成樹祭の営業も問題ないだろう」
「よっしゃっ!」
「ん……私もそう思う……」
満足気に頷く二人。クロも二人の頑張りに少しだけうるっとくる瞳を拭いながらも玄関のドアが開く音に視線を向ける。すると、そこには師であるエルフェリーンの姿があり次の瞬間にはクロへと抱き着くエルフェリーン。
「ある程度区切りがついたからラルフとカリフェルに丸投げして逃げてきたぜ~」
風を纏って体当たりするエルフェリーンを何とか受け止めたクロは「お帰りなさい」と口にしながら懐かしい抱擁に、痛みと嬉しさが混じり合い複雑な表情を浮かべ涙が数滴流れるのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。