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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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シジミの炊き込みご飯と出汁の取り方



「おかわりなのだ!」


 キャロットの元気な声にクロが茶わんを受け取りシジミを使った炊き込みご飯を山盛りにすると白亜も手を上げ鳴き声を上げる。


「はいはい、白亜もおかわりだな。食べ過ぎて動けなくなったりするなよ」


「キュウキュウ~」


「大丈夫なのだ! 朝はしっかり食べて昼食に備えるのだ!」


「それだと食べるだけの為に生きているような……ん? ランクスさんが起きたな」


 リビングのテーブルで朝食を取っていたクロたちは炬燵エリアへ視線を向け、体を起こすランクスの姿が視界に入り口にする。その横でキュロットはまだ寝ているのか寝息を立てているが顔色の悪いランクスが体を揺らすと腹筋の力で起き上がったキュロットは目を擦り、ランクスへとハグを要求しているのか両手を広げ二人で抱き合う。恐らくこれが二人の朝のルーティーンなのだろう。


「昨日は少し飲み過ぎたな……」


「そうね……少し気持ち悪いわ……」


 抱き合いながら昨晩の飲み過ぎを反省する二人。それを見ながら自身の両親の熱々ぶりに眉間に深い皺を作るビスチェ。


≪熱々夫婦ですねぇ~≫


「熱々よりも二日酔いだろうから回復魔法をお願いしてもいいか?」


≪任せて下さい! これでも回復魔法は得意分野ですからね~≫


 クロからの願いに視認できないほどの細い糸を飛ばし抱き合う二人に糸を通して回復魔法を施すアイリーン。二人の体が薄っすらと輝き魔法が自身の体に作用し驚く二人だが温かな光に悪いものではないと知ると、キュロットは目を閉じランクスは微笑みを浮かべているアイリーンに軽く会釈をする。


≪二日酔いに効果のある状態異常を回復させる魔法ですから安心して下さいね~≫


 そう文字を浮かせるアイリーン。


「クロも便利だけどアイリーンも凄いよな」


「ん……アイリーンはクロの次に優秀……」


 褒められている気がしないアイリーンは愛想笑いを浮かべつつ玉子焼きを口に運び、クロは「便利って……」と呟きながらもシャロンの茶わんが空になった事に気が付きおかわりを進める。


「シャロンもおかわりするか? 今日の炊き込みご飯は力作だぞ」


「は、はい、じゃあ半分だけお願いします」


「うふふ、本当に美味しいです。貝を使ったご飯は初めて食べますが、貝の風味とお米事態に味があり食べやすいです」


「白米も美味しいのですが、私もこうした味の付いているご飯の方が食べやすく感じます」


 シャロンと一緒に茶わんを差し出してくるメリリとメルフェルンの分のおかわりを盛りながら、おかずと一緒に白米を食べる文化のないこの世界ならそうかもな。と納得するクロ。


≪私は白米でも炊き込みご飯でも混ぜご飯でも好きなので大丈夫ですからね~たまにはチャーハンとかもいいですね~≫


「チャーハン? それはどういう料理なのじゃ?」


「チャーハンは米を炒めた料理ですね。肉やネギに玉子と炒めてパラパラにする料理です」


 アイリーンの願望をロザリアに説明しつつ立ち上がったクロはキッチンへと消え、戻ってきた手には湯気の上がるカップがあり抱き合っていた二人の元へと足を向ける。


「気分はどうですか?」


 そう言いながら炬燵にカップを置くクロ。顔色の悪かったランクスは「もう大丈夫だ」と声にして軽く頭を下げ、キュロットは運ばれてきた飲み物を手にすると匂いを確かめる。


「あら、香ばしい感じがするわね……ん? 前に飲んだ事がある香りが……どこでかしら?」


「ああ、これは温かい麦茶です。前に飲んだ時は夏の次期に冷やしてお出ししたと思います」


「だから飲んだ事があると思ったのね」


「私も頂こう……うむ、香ばしさがあり癖もなく飲みやすいな」


「朝食もお持ちしますが、こちらで食べますか?」


「そうだな、あまり皆に気を遣わせるのもな。こちらで頂こう」


 ランクスの言葉を受け立ち上がったクロはトレーに二人の朝食を乗せ炬燵の上に広げる。シジミを使った炊き込みご飯に、キャロットの好きな甘い玉子焼き、豆腐とワカメにネギが浮くお味噌汁と、白菜を使った浅漬け、根菜と鳥肉を使った煮物の小鉢などが並び、どれも見た事がないのかクロへと視線を向ける二人。

 それらを簡単に説明するとフォークを持って食事を始める二人。


「これは貝を使っているのだな。変わった穀物だが甘みが感じられて口に合うな」


「このスープも美味しいわ。前に食べた時とは具が違うのかしらね」


 本日は和食の朝食となり珍しい料理を口にして表情を溶かす二人。


≪何だか日本に来た外国人さんをテレビで見ているようですね~≫


 二人の空間から離れたクロの前に文字が浮かび、確かにと思うクロ。ただ、テーブルに戻ったクロは、俺以外みんな髪の色と瞳の色が緑やら白やらで、日本人感があるのは自分だけだな、とも思いながら腰を下ろし差し出してくるキャロットの茶わんを受け取るとおかわりを盛る。


「ほいよ。よく噛んで食べろよ~」


「わかったのだ!」


「ん……この料理も覚えたい……」


「この料理? シジミを使った炊き込みご飯か?」


 食事を終えたクランがクロの横に座り上着の裾をクイクイと引きながら話し、今キャロットに三度目のおかわりを渡した料理名を口にすると深く頷く。


「あぁ~教えるのは構わないけど、シジミはこの世界にあるのかね?」


「この小さな貝がシジミよね? う~ん、見た目が似た生物ならいるけど味が違うわね」


 ビスチェが思い出すように口にすると肩を落とすクラン。するとランクスが立ち上がりテーブル近くまで現れ口を開く。


「似た味の物ならここまで小さくないが知っているぞ。近くの池にいる拳大の貝を煮て食べた事があるがこの小さな貝に似ていた。砂を多く含んでいたからあまり美味しくはなかったが、今思えば似ている気がしたぞ」


 その言葉に目を輝かせるクラン。


「それならこっちでも再現できるかもしれないな。後で作り方を教えるよ」


「ん……」


 嬉しそうな表情を浮かべるクランと言い終えると炬燵へと戻るランクス。そのランクスの背中にお礼を口にするクロとクラン。


「礼はいい、この料理も美味いぞ」


 振り返らずにそう口にして炬燵へ戻るランクスに頭を下げるクロ。顔を上げると目の前にはお椀があり「おかわりなのだ!」と叫ぶキャロットに目が点になるのであった。







「ん……これは興味深い……」


「基本の出汁の取り方だな。昆布は水から入れて温め沸騰する前に出し、かつお節は沸騰したら弱火にして少し置いてから布でこせば出汁が取れる。ああ、かつお節は二番出汁も取れるから水に入れてじっくりと十分ぐらい煮立てればまた旨味のある出汁が取れるな」


 湯気を上げる出汁を見つめるフランとクラン。

 朝食を終えたクロはフランとクランに料理を教えており、和食の基本となる出汁の取り方を教えていた。教えていたが、この世界にはかつお節はなく教えながらもこれで良いのかと思いながら作業している。


「一番出汁はかつおの旨味と香りが強いからスープのような汁物にして、二番出汁は煮物や炊き込みご飯に使う。旨味は二番出汁の方が濃い気がするから味が染みる料理に使うといいと思う。飲み比べると違いが分かるぞ」


 そう言いながら一番出汁と二番出汁に昆布出汁をカップに入れるクロ。二人は興味深そうに眺めながら一番出汁から口にする。


「ん……美味しいけど違う……」


「香りと美味しさが違う気がするな。私は昆布がいい」


「こうやって教えているけど俺は顆粒出汁を使っているな。あれは出汁を取る手間がないから簡単でいいし、香りも強いな。あと、出汁を取った後の昆布と鰹節はフリカケにしたり昆布は甘辛く煮たりして食べると美味しいからな。昆布とか軟らかく煮て塩をかけて出せばそれだけでも酒の肴になる」


 酒の肴という言葉に炬燵で寛いでいたランクスとキュロットが反応し二人してキッチンを見つめ、視線を感じたクロが顔を向けると二日酔いだった事もありすぐさま逸らす二人であった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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