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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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祝勝会とビスチェのマンドラゴラ



「て、手伝うわね……」


 頬を赤く染めながらもそう口にしたビスチェはアイリーンが浄化魔法を掛けた皿を戸棚へと片付け始め、クロは普段手伝わないビスチェが手伝う事に頭を傾げながらも空いている瓶をアイテムボックスへと収納し、炬燵で酔い潰れたランクスとキュロットを見てどうしようかと悩む。


「うふふ、お二人は機嫌よく飲まれていましたねぇ。これもクロさまが決闘で勝利したからですよぉ」


 メイドであるメリリもほんのりと頬を赤く染めており、夕食はクロの勝利を祝っての宴会という名目の飲み会へと姿を変えたのである。ただ、クロの勝利を祝っての宴会の料理をクロが作っており少しだけ虚しい気持ちになったクロであったが、皆が楽しく食事をしながらお酒を飲む姿にいつもと変わらないなと思い、キュロットとビスチェの好きな白ワインやランクスの好きな赤ワインを魔力創造し多めに提供している。


「うひぃ~もうお腹に入らない」


「ん……から揚げは最強……大根のサラダも美味しかった……」


 クランとフランも食べ終えたのか白ワインで最後の一口を流し込み満足げな表情を浮かべる。


「多めに作ったが残さずに食べてくれて嬉しいよ」


「パリパリする大根を使ったサラダと山の様なから揚げは美味しかった。他の料理も美味しかったけどあの二つは別格だった」


「ん……から揚げは村でも……絶対に広める……」


「我も大根のサラダが美味しかったのじゃ。酸味のある味が良かったのじゃ」


「確かポン酢ですよね? 酸味の中に甘さがあって果物の香りもしました」


「ああ、柚子を使ったポン酢だな。あれはどんな料理にも合うし、餃子を付けて食べても美味いからな」


 フランとクランにロザリアとシャロンは細切りにした大根のサラダがいたく気に入ったのか感想を口にし、クロも自信があったのか所々で薄っすらドヤ顔が混じる。


「餃子とはそこがパリパリとした小さな袋に肉を詰めた料理ですね。前に食べましたがあれは革命的な美味しさでした。次はいつ御作りになりますか?」


 メルフェルンからの言葉に食べた事のないロザリアにフランとクランが目を輝かせる。


「明日にでも作りますか?」


「絶対手伝う! メルフェルンの姉御がそう言うのだったら絶対に美味いはず!」


「ん……楽しみ……」


「うむ、我も楽しみにしておるのじゃ」


「うふふ、そうなると皆さんも手伝って下さいねぇ。餃子はひとつずつ包みますので手が掛かる料理なのですよぉ」


「作り方を覚えて村でも流行らせてみせる!」


「ん……楽しみ……ふわぁぁぁ……」


 大きな欠伸をするクランにフランも釣られて大きな欠伸をすると、お風呂を出たキャロットと白亜がリビングに現れクロがフランとクランにお風呂へ入るよう口にすると素直に立ち上がり退席する二人。


「あの二人も、もうここでの生活に慣れたのじゃな」


「前々からここへ薬を買いに来ていましたから」


「それもあるかもしれんがリラックスしておるのじゃ。来た当初は緊張しておるのかビクビクしておったぞ」


 ロザリアの言葉に数日前に来たエルフたちの態度を思い出すクロ。特にそういった事は思い当たらないが料理を教えているうちに砕けた態度に変わったとは思い微笑みを浮かべ、酔い潰れて眠るランクスとキュロットの姿に苦笑いを浮かべる。


「この二人は砕け過ぎなのじゃ……」


 ロザリアも呆れた表情で口にしてシャロンやメルフェルンにメリリは肩を揺らす。


「クロが頑張ったから認められたのよ。でもね、どうせパパを倒すのなら殴って欲しかったわ!」


 戸棚に皿を片付け終えたビスチェが炬燵に腰を下ろし、寝ている二人を見ながら物騒な事を口にする。


「お、お主も大概じゃの……」


「だって、私が一生懸命に世話していたマンドラゴラをパパのユニコーンが全部食べちゃったのよ! マンドラゴラの好物なのは知っていたけど私の目を盗んで根こそぎ食べるなんて酷いわ! あの時の悲しみは忘れない!」


 家出し錬金工房『草原の若葉』で暮らすようになった原因でもあるマンドラゴラ事件を思い出して拳を握り締めるビスチェ。

 ランクスが飼育しているユニコーンは知能が高く高潔な者以外はその背に乗せないと言われているが、食欲という欲求には素直だったらしくビスチェが大切に育てていたマンドラゴラを根こそぎ食べてしまったのである。


「あのマンドラゴラは熱病や化膿止めに痛み止めなどの鎮静作用があって、増やしておけば村に何かあった時に役に立つと思ったのに………………」


 ビスチェの言葉にエルフの村を思っての事だったのかと初めて知るクロ。他の者たちも同情の視線を向ける。


「あのツノを見る度に、いつかもいでやろうと心に誓ったわ!」


 再度拳を握り締めるビスチェ。


「うむ……まぁ、所詮は馬のした事じゃ。また育てるが良かろう」


「もう育てているわ! 私の菜園には師匠が強力な結界を張っているからユニコーンといえど侵入はできないはずよ!」


 鼻息を荒くしながら口を結ぶビスチェ。まだその怒りは収まっていないのだろうと思うクロ。


「何にしてもランクスさんを怒るのはもう許してやれよ。決闘するほどビスチェの事を心配しているんだからさ」


 クロの言葉に口を尖らせるビスチェは無言で立ち上がり二階へと駆けて行き、その後姿を見つめる一同。


「はぁ……」


 小さくため息を吐くクロだったが四年以上共に暮らしており、その足取りの軽さからランクスへの怒りはもう治まっているのだろうと推測していた。事実、ランクスとの会話もあり毛嫌いしているというよりも自然体で話している姿を目にしているクロはユニコーンのツノの方を心配している。


「ユニコーンのツノが折れたら接着剤とかでくっつきますかね?」


 ドアの締まる音を耳にしたクロが振り返りロザリアへと疑問を投げかけ、当のロザリアは数回目をぱちくりさせ笑い始める。


「ふはははは、何を言い出すかと思えばユニコーンの心配とは……うむ、接着剤で付けずともよい。ユニコーンのツノは数年おきに生え変わるのじゃ」


「うふふ、クロさまはユニコーンのご心配をなさっていたのですねぇ」


≪もしもの時は私がエクスヒールで癒しますよ~それよりも大変です!≫


 お風呂上りのアイリーンは小雪を抱えリビングに現れ、緊急性があるのか文字をテーブルの上に浮かべる。


≪フランさんの胸が、胸が、予想よりも大きかったです! エルフは貧乳だと思っていたのにフランさんの胸が湯舟に浮いていて悔しい思いをしました! もしかしたらエルフではない可能性もあるかと!≫


 アイリーンの浮かべた文字に自身の胸を触るロザリアは「仲間じゃと思っていたのに……」と呟き、メルフェルンはサキュバスという事もありそれなりの大きさを誇っておりドヤ顔を浮かべ、メリリも気にした様子はなく微笑みを浮かべている。

 クロはというと雲行きの怪しくなるリビングから離れキッチンへと戻り、カモミールを使った温かい紅茶を入れ、シャロンも同じように少し遅れてキッチンカウンターに腰を下ろす。


「ああいった話は女性で集まった時だけにしてほしいです……」


 そう呟くシャロンの前にカモミールティーを置きながら頷くクロ。


「胸の大きさよりも今度行くダンジョンの話を詰めた方がいいよな。シャロンも行くんだろ?」


「はい、蜘蛛が多く出ると聞きましたがアイリーンさんには色々と助けて貰っているので少しでも力になれればと……」


「シャロンのそういう所はいいよな。義に厚く正義感があってさ」


 そう言葉を残し入れたての紅茶を配りにリビングに戻るクロ。シャロンは褒められ気恥ずかしいのか薄っすらと頬を染めるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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