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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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決闘の考察と昼食



「ちょっ!? ビスチェ! どうした!?」


「よかっだ……ぶ、じ、で、よかっだっ! よかったの!」


 クロに抱き着き涙を流しながら叫ぶビスチェに戸惑うクロ。キュロットとアイリーンにロザリアはそれをニヤニヤと見つめ、シャロンはクロが無事な事に胸を撫で下ろし、キャロットと白亜に小雪もクロの勝利が尻尾を振り喜びを表している。


「ビスチェはクロの事を随分と心配していたのね~」


 キュロットの言葉に涙を流して抱き着いていたビスチェが慌てて離れ顔を赤くし、母であるキュロットに睨むような視線を向けて口を開く。


「そ、それは弟弟子だもの……でも、本当に無事で良かったわ……」


 涙を流しながらも微笑みを向けクロへと向き直るビスチェの表情にクロが自身の心音が早くなるのを感じながらも小さく頷き、視線をアイリーンへと向ける。


「えっと、アイリーン! 悪いが女神の小部屋に落としたランクスさんの無事を確認してもらってもいいか? まだ戦闘態勢を取っていると危険だから文字だけ先に入れて怪我をしているようなら回復魔法を頼む」


≪ああ、なるほど! ランクスさんの姿がないのは女神の小部屋に落としたからですね~いや~クロ先輩が勝利した理由がわかりましたよ~≫


 アイリーンは先ほどの決闘でランクスが消えた理由に気が付き、他の者たちも同じでキャロットだけが首を傾げる。


「うむ、あの不思議な空間の入り口をランクスの足元に開け、落としたのじゃな」


「はい、ランクスさんの意識が完璧にこっちに向いている状態だと思ったので今しかないと思い……上手くいって良かったです……はぁ~しんどい……」


 その場に座り込み魔力創造でスポーツ飲料を創造し封を開け口に入れるクロは自身の心音が落ち着いたのを感じながら喉を潤す。


「女神の小部屋は僕たちがイナゴ騒動の時に避難した部屋ですよね?」


「ああ、死者の迷宮で見つけた宝珠だな。魔力量に比例した空間を作ることができるから、戦闘中にも一度そこに入って気配を立った心算だったが上手くいったよ……」


「なあなあ、クロがはじめからそれを使えば瞬殺じゃないの?」


 フランからの言葉に頭を横に振るクロ。


「確かにそれも手だけど、ランクスさんぐらいの実力者なら急に足場がなくなっても精霊にお願いするなり、魔術を使うなりして防ぎそうだからな。できるだけこっちに意識を向けて貰ったよ。ほら、入口を作ったからアイリーン頼む」


≪任せて下さいね~クロ先輩からの頼みはオムライスで引き受けます!≫


 直径2メートルほどの白い渦が現れ、そこへ≪決闘は終了です。助けに向かいますので攻撃しないで下さいね~≫と文字を先行させ数秒後に中へと入るアイリーン。


「うふふ、決闘する相手を決闘の場から消すというのは初めて見ますねぇ。クロさまならではの戦い方だと思います」


「マジックアローの連打を見ている時はヒヤヒヤしましたが、クロさまは普段の模擬戦よりも実践向きなのかもしれませんね」


 メイド姿の二人からの賞賛に照れ隠しなのかスポーツ飲料を飲み干し一息付くクロ。すると浄化の光が頭の上から射しヴァルが上空から姿を見せる。


「主様、お見事です!」


「いや、助かったよ……はぁ……しばらく決闘や模擬戦はしたくない……はぁ……」


 クロの口から洩れる言葉にビスチェとシャロンが笑い出し、釣られて笑うメイドにキャロット。


「うむ、見事じゃったが、あの土埃の中でどうやってランクスの足元にこの入り口を設置したのじゃ?」


 ロザリアの疑問はキュロットにも引っ掛かっており視線を向け、一同も同じように視線を向ける。


「ああ、それはヴァルが教えてくれたよ。ヴァルは召喚の宝珠で自分の眷属として色々な恩恵があって、魔力が増えたり視界を共有できたりするからな」


「視界を共有……さらりと恐ろしい事を言うのじゃな……」


「精霊と契約している者にもできない事をしていたとはね……」


 ロザリアとキュロットが驚きながら呟き、キャロットがクロを指差して口を開く。


「ん? それって決闘にヴァルに手伝ってもらったのだ? それだと二対一でずるなのだ!」


「それは違うわね。決闘のルールに召喚を禁止するとかはなかったし、ランクスだって精霊を使いクロの位置を特定していたわ。この子が直接攻撃魔法を使ったのなら文句も言えるけど、相手の場所を特定するというのなら精霊と召喚とで同じような事をしていただけね。不正というほどじゃないわ。ねぇ貴方」


 キュロットの言葉に口を一文字に喰いしばり頷くランクス。悔しそうな表情をしているがランクスの足元には精霊がいるのかキラキラと輝きを放っている。


「あのような手で戦闘不能にされたのは初めてだ……潔く負けを認めよう……」


 そう口にして頭を下げるランクスに、クロは立ち上がり「ありがとうございます」と口にしながら頭を下げる。


「うむ、クロの勝利なのじゃ!」


 今更ながら勝者を叫ぶロザリアにクロは後頭部を掻きながら皆の拍手を受け、「次は私との決闘ね!」と口にするキュロットに目を見開き口をあんぐりと開けるクロ。


「えっ、ママもクロと戦うの?」


「あら、当たり前じゃない。ランクスが破れたのなら村の長である私が仇を取らないとペプチの森が軽くみられるもの」


 嬉しそうに微笑みながら話すキュロットに顔を引き攣らせるクロ。事実、キュロットは『悪鬼と剛腕』の剛腕と呼ばれ恐れられた冒険者であり、イナゴ騒動の時にその実力は遺憾なく発揮され固い甲殻を持つイナゴを素手で破壊して回っていたのだ。


「うわぁ……村長と戦うとかクロは勇気あるなぁ……」


「ん……骨折は確定……」


 フランとクランもキュロットの実力を知ってかクロへ憐みの視線と言葉を送り、クロは素早く自身の足元に女神の小部屋の入り口を展開するが、自由落下する前にキュロットが後ろ襟を素早く掴み軽々と持ち上げられ、そのままぷらりとしながら強制的に荒野へと進むのであった。








「酷い目に遭った……」


 そう口にしながらチキンライスに半熟のオムレツを乗せナイフで切り込みを入れ開くクロ。オムレツが開きトロトロの玉子が流れ、そこにケチャップで剛腕を書き込むアイリーン。


≪私も殴られた人がボールのようにバウンドする所は初めて見ましたよ~これからはキュロットさんだけは起らせないように注意しますね~≫


 浮かぶ文字にトラウマが蘇るクロ。二人の勝負は圧倒的な速さと威力のある剛腕にシールドを八枚重ねするも打ち抜き、クロを吹き飛ばしたキュロットの圧勝であった。


「それがいい……俺もキュロットさんには逆らわない……」


 次のオムライス作りを始めたクロはフライパンを火に掛けバター溶かす。


「うふふ、戦いは相性の問題もありますから。キュロットのように突進して殴る方法はある意味では戦闘の極致といえますねぇ。私も負ける気はしませんが、真正面からキュロットの前に立つ気はありません。毒などの使用をお勧めします」


 傍で給仕を手伝っていたメリリの言葉に顔を引き攣らせるクロ。どうして料理の時に毒物の話をする……そう思いながらも新たに完成したオムライスをキッチンカウンターに置くとメリリがケチャップで花嫁と書き入れスキップで運び、見なかった事にしようと思うクロ。


「これは美味しいのだ! 卵がプルプルなのだ!」


「キュウキュウ~」


 食べ始めたキャロットたちのリアクションを耳に入れ気持ちを切り替え、午後はフランとクランに料理を教えようと思うクロなのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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