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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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父の暴走



「どうしてこうなった……」


 そう思いながらも短剣型の魔剣を構え、目の前に飛んでくる複数の拳大の石をシールドで防御するクロ。


「ふはははは、一人でダンジョンを突破したからといって調子に乗っていたが、この程度の実力とは!! これでは娘はやれんぞっ!」


 声を大にして叫ぶビスチェの父であるランクスにビスチェが赤面し、クロは魔剣に魔力を通して刀身がオレンジに輝きを増す。


「クロとはそういう関係じゃないのっ! パパの馬鹿っ!」


 顔を真っ赤にしながら叫ぶビスチェに母であるキュロットは肩を揺らし笑いながらも、娘の成長を喜びながら戦う父と義理の息子候補に視線を戻す。


「婚約をかけて戦うとか熱い展開だよな! クロがんばれ!」


「ん……クロが勝てば……エルフが栄える……」


 戦いを見守るフランとクランからも応援の声が響き、どうしてこうなったと心の中で叫ぶクロなのであった。







 事の起こりは成樹祭のメニューを考えた翌日、朝食を食べ終わりアイリーンたちは本日もダンジョン探索に向けた訓練を行うためアルラウネのアルーたちの元へ行き戦闘訓練とダンジョン内での探索の仕方をメリリに教わるために移動し、残ったクロとエルフたちは現地で手に入りやすい食材を使ったメニューアレンジを行っていた。


「塩焼きそばに使う麺はうどんを代用すればそれなりに素人でも打てますね。甘味に使う砂糖は水あめを使えば代用できますし、わらび餅は芋を摩り下ろして沈殿したデンプンを使えば簡単に作れます。その粉を使えばから揚げも作れますから片栗粉作りからした方がいいのかな」


 クロの魔力創造に頼らずに成樹祭の料理を提供する為にはそれなりの準備が必要で、特に今まで料理に使用していない中華麺や砂糖に片栗粉といったものは自作するしかなく、代用品を遅くまで考えていたクロの提案にフランとクランは目を輝かせながら話を注意深く聞き、ランクスとキュロットもエルフの祭りの為に真剣に考えているクロに好感を持って接している。


「クロの魔力創造で全部用意すればいいじゃない。その方が美味しい物が作れるわ!」


「そうかもしれないが、俺がひとりで何百人前の食材を用意するとか大変だろう。それに代用品とはいえ用意できればエルフの村でも定期的に食べることができるようになるんだからさ」


「むぅ……」


 口を尖らせるビスチェ。これには理由があり代用品を食べ中華麺からクロの手打ちうどんに変わり麺がやや太くなったことや、わらび餅の食感が悪くなったことや、から揚げのサクサク感が減ったことで本当のクロの料理を誤解されると思ったのである。


「ビスチェの気持ちはわかるけど代用品でも十分に美味しいわよ。私たちは最初にあれを食べたから感動が薄いけど、初めて食べるエルフたちはきっと驚くでしょうね」


「それについては間違いないだろう。ビスチェの心配も解るが、寝る時間を削り考えてくれたクロ殿には感謝する」


 キュロットは満足しているのか代用品を使った料理を口にして満足気な表情を浮かべ、ランクスはクロに対して殿という一個人を認める発言に変わっている。フランとクランは既にクロに感謝しているのか皿に残った最後の揚げを睨み合いながらどちらが食べるか隙を窺っている。


「もうクロがビスチェの正式な婚約者として発表してもいいかもしれないわね~成樹祭ではビスチェへの婚約の申し出がいくつも来るのよ~」


 片眉をピクピクと動かしクロへ殺意の籠った瞳を向けるランクス。対してビスチェは顔を赤くしながらも「それは全部断って!」と赤くなった顔を両手で隠し、クロはというと向けられた殺意の籠った瞳に立ち上がり「お茶のおわかりを入れますね」とその場を離れる。


「あらあら、クロが婚約者だと気に入らないのかしら?」


「そ、それは……それよりもフランとクランの婚約者探しだって成樹祭でするはずよね?」


 話の矛先を変えようと二人に口を開くビスチェ。


「私はクロでもいいよ~クロと一緒ならこの先ずっと美味しい料理が食べられるし~」


「ん……私も……クロはいつも優しい……もぐもぐ……」


 二人の言葉に口をあんぐりと開け固まるビスチェ。クロはというとそんな声を背に受け困った事になったとお茶を入れながら違い話題になれと願う。


「あらあら~それなら二人でクロを落としなさいね~」


「ちょっ!? フランとクランはまだ成人になったばっかりじゃない!! それにエルフと人族では子供が残せない! エルフにとっては重要な問題よ! 最近はこの者数も減っていると聞いた事があるし、エルフならエルフと結婚すべきよ!」


 必死になって弁明するビスチェの姿にランクスはプルプルと震え、キュロットは片手を口に当て必死なビスチェを楽しみ、フランとクランは最後に残ったから揚げをクランが勝ち取り薄っすら涙を浮かべるフラン。


「ふふふふ、ふざけるなっ! ビスチェに婚約などまだ早い! 結婚だって私が認めたエルフ以外認める心算はない! ちょっと珍しい料理が作れるぐらいで調子に乗るなよ異世界人!!!」


 プルプルと震えながら立ち上がりお茶を入れていたクロを指差し叫ぶランクス。その言葉を受け驚きながらもお茶を入れ終わりこのまま話が有耶無耶になればと思うクロ。


「へぇ~私が人里に出たエルフだったのに長老に直訴して結婚した事実はどうなのかしらね~伝統を重んじるとか言いながらも出戻りエルフを嫁にするとか、今思えば非常識じゃないからしらね~」


 一時期冒険者として人族の国で活動していたキュロットは『悪鬼と剛腕』の剛腕として知られており、エルフ社会では里から出たエルフは多少なり差別対象になっている。が、それなのにランクスと結婚し里の長になった実力は確かなもので、今ではその事をとやかく言うエルフは存在しない。


 拳で黙らせたのである……


「そ、それは………………だが、種族が違えば話は変わってくるだろう! 子が残せないとなれば、それこそエルフが、私たちの村が衰退する原因! ちょっとやそっとの試練など軽く超えるぐらいの男でなければ私は認めない! 認めないぞ!」


 言ってやったという表情を浮かべるランクス。クロはといえば入れたお茶をテーブルに並べ空いているカップを回収してキッチンへと戻り、それを目で追うエルフたち。


「ちょっ!? ここはクロがビスチェと結ばれるために何かいう所じゃない! お茶だけ置いて去るとかメイドかっ!」


 キュロットのツッコミに足を止めるクロが振り返るとランクスは眉間に大きく交差点を作り、フランとクランはワクワクしながら成り行きを見つめ、ビスチェは両手で顔を隠しているが指の隙間からクロを見つめており、キュロットはファイティングポーズを取りながら左右の拳を何度も前に突き出し戦えと言わんばかりである。


「えっと………………まずは落ち着いて話し合いませんか?」


 クロから出た言葉に肩を落とすキュロット。逆にランクスは鼻息を荒くし叫ぶ。


「決闘だ! そのような中途半端な覚悟の奴に娘を嫁にやることができようかっ!」


 父としての言葉にクロも何度か頷き、ランクスさんは立派なお父さんじゃないか。という感想を胸に秘めながらも、あれ? そうなると戦うのは俺? という今更ながら状況を理解する。






 アイリーンたちが模擬戦をする場所へと向かうと自然と手を止めクロとエルフたちを迎い入れ、鼻息の荒いランクスに気が付いたアイリーンはクロへと近づき小さく文字を浮かべる。


≪雰囲気があからさまに違いますが、ランクスさんを怒らせたのですか?≫


「ちょっとした勘違い? 意見の行き違いかな?」


 小声で話すクロに頭を傾げるアイリーン。シャロンも不安そうに見つめ、ロザリアやメリリは何やら始まったと期待した瞳を向けるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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