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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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試作という名の昼食と飲み会



「うふふ、テントの設営もスムーズにできましたし、実際にダンジョンに潜るのはいつぐらいになるのでしょうか?」


 メリリの言葉にアイリーンは顎に手を当て文字を浮かべる。


≪そうですね……エルフェリーンさまが戻ってからになると思いますね~クロ先輩が一緒に行ってくれれば心強いですし、夏前には流行り病の薬を作るので今の時期を逃すと夏以降になりますね~成樹祭の準備でフランさんとクランさんにクロ先輩が料理を教えると言っていたので……≫


 文字を浮かべながらキャロットが諦めたテントの骨組みを回収するアイリーン。

 毎年、初夏にインフルエンザに似た流行り病がありその薬の準備をするのが『草原の若葉』の恒例行事になっている。以前は数百もの死者が毎年出ていたが、クロの意見をエルフェリーンが商業ギルドに広め商人たちが動き手洗いとマスクが流行り、流行り病自体の終息は早くなっている。


「本当にシャロンさまも一緒に行かれるのですか?」


「う、うん……僕も外の事を色々と体験したいです。あまり力になれそうもありませんが、アイリーンさんには女性恐怖症の事で助けられていますから……」


 シャロンの女性恐怖症対策としてアイリーンが行っているのはスキンシップである。それほど過激なものではなく厚手の手袋をした握手や日常会話程度なのだがアイリーンの使う糸を利用し離れていても骨伝導で声が届きすぐ傍にいるような体感ができ、震えながらもシャロンの女性恐怖症は改善の兆しが見えてきているのが現状である。


≪何でしょう……シャロンくんはやっぱり可愛いですね~メルフェルンさんもそう思いませんか?≫


 浮かぶ文字に頬を染めるシャロンだが、メルフェルンは目を見開きアイリーンを見つめ口を開く。


「何を当たり前のことを……シャロンさまが可愛いのは世界の理であり常識であり秘蔵すべき事です。そもそも、シャロンさんはサキュバスの中でも珍しいインキュバスでありサキュバニア帝国の宝! それが可愛くない訳がないでしょう! 

 最近は体つきもしっかりとして背筋などは芸術的とさえ言えます。魔力の流れもスムーズになり、反応速度も以前とは比較にならないほどです! 体術だけであれば『草原の若葉』の中でもトップクラス! 寝技に持ち込まれては女性恐怖症が出てしまいますが、打撃だけならメリリさまに引きを取らないかと……総じてシャロンさまは可愛らしさを残しながらも強いのです! 

 他にもクロさまに甘やかされておりますが、白亜ちゃんや小雪ちゃんを甘やかすのも得意で、恐らくですがシャロンさまが撫でた時の反応が一番気持ち良さそうな表情をされております。手招きすればすぐに飛んでくるのがその証拠で――――」


 メルフェルンのシャロン語りは続き、シャロンが顔を赤く染め話を振ったアイリーンが失敗したと思いながらもテントを片付け終わり、背伸びをし目を閉じて鼻をスンスンと動かすロザリアが視界に入る。


≪ん? ああ、この香りは懐かしいですね~≫


 錬金工房『草原の若葉』から流れる香りに文字を浮かせるアイリーン。


「これはソースの香りですよね? お好み焼きやタコ焼きに焼きそばのソースの香りですよね?」


 シャロンが匂いの正体を答えるとアイリーンは深く頷き、ロザリアは目を開き口も開く。


「良い香りなのじゃ。こう、食欲がわいてくるような、匂いだけで腹が減る香りなのじゃ」


「うふふ、これはもう一度戻って味見をするしかないと思われます」


「途中で甘い香りも流れてきましたが、エルフさんたちの祭りで振舞うのでしょうか?」


≪そうだと思いますよ~お祭りといえばソースの香りですからね~私たちも一度戻ってエネルギー補給です!≫


 アイリーンの文字に素早く反応したメリリは家へと走りそれを追うロザリア。シャロンも歩き始めると、ひとりシャロンの事を語っていたメルフェルンがまだテンションに任せ話しており、仕方なく背中を押しながら家を目指すアイリーン。


 メルフェルンさんがシャロンくんを好きな事は理解できますが、ここまで饒舌になり我を忘れるとか少し怖いですね……メイドさんは完璧な人が多いと聞きますがここにいるメイド二人はある意味危険人物なのでは?


 そんな事を思いながら玄関に入ると小雪がへっへと走りアイリーンの近くへ現れお座りし尻尾を振り、まだ喋っているメルフェルンを玄関わきに放置し抱き上げる。


「お~い、アイリーンたちも味見してくれ。ああ、でも、アイリーンは味見しなくてもわかるか……」


 クロの叫びに急いでリビングに上がるアイリーンは文字を浮かせる。


≪確かに味の想像は付きますが、それとこれとは別問題です! お祭りに行ったら絶対に焼きそばを買って食べると心に誓っていますからね~≫


 浮かぶ文字を見つめ肩を揺らすクロ。テーブルには塩焼きそばの外にもソース焼きそばやお好み焼きやフライドポテトに骨付きのから揚げが鎮座している。


「うふふ、アイリーンさまも焼きそばがお好きなのですね~」


「もちろんです! 屋台の焼きそばは家庭で作る焼きそばと違って麺がモチモチで香ばしさも倍増していますからね~あっ! 骨付きのから揚げとかクロ先輩はわかっていますね~」


 料理を前にテンションが上がっているのか文字ではなく口で話すアイリーン。


「これから他にも色々と作るから、それが昼食な。フランとクランは一緒にキッチンに立って作り方を覚えような」


「はい! 任せて下さい!」


「ん……任せる……」


「いやいや、フランも覚えるんだからね! 私一人で覚えるとか無理だから半分はフランが覚えてよ!」


「ん……私は甘味を覚える……」


 二人とやり取りに姉妹の中の良さを感じながらもクロが切り方や炒め方を教えつつ料理を作り、完成品はリビングへと届けられ味見をしながらどの料理を成樹祭で出すか決めて行くキュロットとランクス。他の者たちは思い思いに好きなものを口にして表情を溶かし、十五分ほど玄関でひとり熱弁していたメルフェルンも食事に加わり初めて食べるイカ焼きに衝撃を受けている。


「どれも美味いのじゃ! 特にこの串に刺した肉がワインに合って良いのじゃ!」


「あら、それなら白ワインにはこっちの魚と野菜を包んで焼いている料理にピッタリよ」


「大学芋も美味しかったが、こちらの塩味の芋を揚げたものもワインによく合うな。成樹祭に出すならこちらだろう」


「大きなカラアゲが一番なのだ! 骨が付いていて持ちやすいのだ!」


「キュウキュウ!!」


「わふっ!」


「どれも美味しいですね。クロさんのいた世界の料理は複雑な味が多いです」


≪こっちだとほぼ塩味ですからね~素材の味を大切にしていると言えなくもないですが、私はガッツリソースのジャンクな感じが好きです! クロ先輩! アメリカンドッグとかも作って欲しいです!≫


 リビングの上に大きくアメリカンドッグと文字を浮かせるアイリーン。クロは枝豆を茹でていたが魔力創造でパンケーキミックスと串に刺したウインナーを創造すると「少し待ってくれな」とリビングに声を掛ける。


「どの料理も作り方が複雑なんだよな……これは覚えるのが大変そうだな……」


「頑張れ……成樹祭はフランに掛っている!」


「クランもだからね! クランも覚えてね! 覚えて帰ったらみんなに作り方を教えるんだからね!」


 姉妹の頑張りに期待するキュロットは白ワインを口にしながらランクスと微笑みを浮かべ、運ばれてきた熱々のアメリカンドッグに齧り付きポーションを流し込むのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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