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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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更なる進化と新たなアイテム



「これが異世界の酒ですか……」


 テーブルには多くの瓶や缶が並び、その中のひとつを手にした女神ウィキールは成分表に目を奪われる。


「完璧に原材料を書き込み買う者に安全だと解らせているのか……こっちには簡単な作り方まで……飲み方の説明やアレンジ方法まで記すとは……」


「酒ってのはこうやって開けて、ぐびっと飲むのが美味しいのよ!」


 立ち上がり腰に手を当てビールの缶を口にして喉に流し込む女神ベステル。


「ぷはぁ~冷えてて美味しいわね! 酒に関しては地球のものが一番ね! 種類も色々とあるし、のど越しに拘る酒造メーカーの美学を感じるわ!」


「私も頂いて構わないだろうか?」


「ハイハイ私も~」


「キュー」


「白亜はやめような。それよりも白亜には美味しいジュースを出してやるし、さっき食べ残した葡萄があるからそれを食べような」


「キュウキュウ」


 各自でラベルを見ながら手に取ると開けて口をつけ始める。


「クロ~クロ~、魔力は回復したかな? したかな? ロックアイスを出してくれよ~ウイスキーにはロックアイスがないと寂しいよ~」


 甘えた声で氷を求めるエルフェリーンにジト目を向けるクロだったが、魔力はそこそこ回復しておりため息を吐きながらも、市販のロックアイスを魔力創造で作り出すと嬉しそうに受け取るエルフェリーン。


「ウイスキーはこうやってロックで飲むと美味しいんだ。ウィキールが手にしている梅サワーも氷を入れたグラスに入れると美味しいよ。ビスチェは白ワインを選んだんだね。それは氷を入れるのはどうかと思うけど、キンキンに冷やして飲むのもありじゃないかな?」


「ビールはどうなのかしら?」


「それも好みで別れるけど、そのまま飲めばいいじゃない? 僕的にはおつまみが欲しいけど……」


 エルフェリーンの言葉に女性たちから視線を集めるクロ。まだ残ってるお菓子でいいだろと思いながらも、ビスチェが手でクイクイと早く出せというサインを送りクロは観念してお酒に合いそうなおつまみを魔力創造で再現する。


「おお、イカを干したものにカラアゲと餃子にパリパリする棒状の何だっけ?」


「ハルマキね! 中が熱々で気を付けないと火傷する奴ね!」


 自信満々に答えるビスチェと、春巻きに手を出し口の中を火傷した女神ベステル。


「あっつ!? でも、うま~い。サクサクの中に蕩けるソースと野菜に肉が入っているわ!」


「ほらほら、聖女もありがたく飲みなさい! それとも私の酒が飲めないのかな?」


「いえ、そんな事はありませんが……私の様なものが一緒にお酒を嗜んでも宜しいのでしょうか?」


「酒を禁止する法や教えはなかったわよね?」


「はい、ありませんが……申し訳ないというか……」


「寧ろ一緒に飲まない方が不敬だわ! クロが魔力枯渇するまで出してくれたお酒なんだから一緒に飲みなさい」


「そうよ! 命がけで出したお酒なんだからね!」


 パワハラが横行する女神の私室では聖女が飲みやすそうなデザインをしたカクテルを開け口にする。


「甘くて飲みやすいです。何らかの果実を入れたお酒なのでしょうか?」


「こちらの梅サワーも適度な酸味と独特の風味が美味いぞ。それにカラアゲという鳥を揚げた料理も美味いな。梅サワーによく合う」


「はふはふ、餃子とビールも最高の組み合わせだわ! これだから地球の料理はレベルが違うのよ。こっちのビールに似た酒なんて酸っぱくて飲めたもんじゃないし、ワインも中途半端で当たり外れが多過ぎるわ」


「まったくその通りですぅ。聖女の飲んでいるスクリュードライバーも美味しいですがぁ、私はジントニックが気に入りましたぁ~」


 いつの間にか戻ってきた女神フウリンもカクテルの缶を開け口に運び、数種類を飲み比べしている。


「ほら、白亜もカラアゲ食べるか? サクサクで美味しいぞ」


「キュウキュウ」


 葡萄を食べ終えた口元をタオルで拭い新たにカラアゲを前に置くと、嬉しそうな鳴き声と尻尾を揺らし口に運ぶ白亜。

 酒を飲む女性たちにその様子が目に入り、微笑む者と羨ましく思う者と新たな酒を開ける者に別れた。


「クロは白亜のお父さんの様に面倒を見るね~」


「私も撫でさせて頂けないでしょうか……」


「異種族でありながらもぉ親子愛を感じますぅ」


「ビールごとに味が違うだと……こんなの全部を確かめるしかないわね!」


「やっぱり白と赤なら白がいいわね。渋みも少ないし、色も透明度があって美しいわ。イカにマヨをつけて食べるとこんなに美味しいのも……ハミルに教えたいわね!」


「これだけの酒を魔力だけで変換するスキル……これが噂に聞くチートというものなのだろうか? 勇者が持っていた限界突破や高位の回復術に消滅魔術も凄かったが、クロの魔力変換は戦闘向きではないが地味に凄い気がするぞ……下手したらこの食べ物を目当てに契約をする純魔族や神がいてもおかしくはないな……」


 ぽつりを漏らした考察に目を輝かせる女神ベステル。


「ク~ロ~ク~ロ~、あなたに新たな使命を与えましょう!」


 ビールの缶を片手に迫って来る女神にクロはジト目を向ける。数秒前にウィキールの呟いた考察が確りと耳に入っていたのだ。


「聞く前から断るのは良くないと思いますよ。グビグビぷはぁ~」


「大事な話を持ち掛けようとしているのに、目の前でビールを飲むのはもっとダメでは?」


「いいじゃない。クロに取って確実にプラスになる使命なんだから~使命を果たせば魔力量を三倍にしてあげましょう!」


「魔力量は今でも十分ですよ……魔力も増え過ぎると魔力制御が難しくなるし、魔力暴走の危険もあると聞きましたよ……はぁ……今の仕事は世界を救うとかじゃないですし、」


「ゴリゴリ係ね!」


「だそうです。魔力は身を守れる分だけで十分ですよ」


 疲れた顔をしながら女神ベステルへ向き直るクロ。女神ベステルはニンマリと表情を笑顔へと変え立ち上がる。


「よく我が試練を乗り越えた! 誘惑を断ち切り自分を信じるのは大変難しい事! よって褒美を取らせ新たな試練を与える!」


「ダメだこいつ……そこっ! 拍手しない!」


 拍手をする聖女と女神フウリンに白亜を指差し叫ぶクロ。


「試練は別に難しいものではありません! 教会か適当な神棚を作りそこにお酒とおつまみを奉納しなさい! 週に一回でいいわ! ビールとウイスキーにカクテルでどうかしら?」


「梅サワーもあると、私は嬉しい……」


「だそうよ! この指輪は魔力量を増やす事と早める効果があるからつけなさい」


 女神ウィキールも自身の願望を添え女神ベステルから黒い指輪を投げ渡され、視界で追って受け取ろうとすると指輪がぶれ、次の瞬間にはクロの左手の中指に装着されていた。


「デザインがダサい……」


 左中指にはアーモンド形の黒い宝石を金で縁どられた指輪を見たクロの感想に、そっちかと思うビスチェ。


「神棚を作れば教会へは行かなくてもいいのかしら?」


「そうね。それなりの物なら、そこからここへ転移させる事もできるわ」


「そ、そんな!? それでは私がクロさまに会えなくなって!」


 膝立ちになり訴える聖女に微笑む女神ベステルと、鼻息荒く目を輝かせる女神フウリン。


「王都には年に数回は足を運んでいるし、秋の収穫祭には孤児院に寄付も毎年寄っているから教会にはその時にでも顔を出しますよ」


「そ、そうですか……それなら大丈夫ですね……ほっ……」


 ゆっくりと腰を降ろし座り直すとカクテルを口にし、頬を染める聖女。


「ギャーウギャー!」


 そこへ人とは思えないような叫び声が上がり姿を現す少女がひとり。真っ白い布を体に纏った紫の長髪を靡かせ登場した少女の額には左右三つの深い皺があり、ゆっくりと開くと赤い瞳を思わせる球体が……


「ギャウアーギャウガー」


 高音の声を叫ぶ少女に視線が集まりクロが「落ち着けアイリーン」と声をかけると、六つの瞳は閉じられ愛らしい笑みを浮かべる少女。


 魔力創造で作り上げたスポーツ飲料を投げると左手でキャッチし封を開けると、一気に飲み込む姿は部活終わりの女子高生を思わせる。


「あれがアラクネ?」


「の、人バージョンね! 発声練習はこれからするとして暫くは色で文字でも書いてやり取りしなさい。下半身が蜘蛛にするのは一週間様子を見ること。まずはその体に慣れ魔力操作の練習から始めなさいね」


 アイリーンがアラクネへと進化したのだった。


 ついでに女神ベステルの指輪を貰い、クロの魔力量と魔力回復速度が上昇した。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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