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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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成樹祭のメニューを決めよう



「アルーは良い匂いがするのだ」


「キュウキュウ」


「わふっ!」


 テントの設営に飽きたキャロットと白亜に小雪は果樹園近くに自生するキイチゴを口に入れアルラウネのアルーから漂う甘い香りを嗅いでいた。


「私の香りは魔物を引き寄せ捕食するためのものだからね~」


 太く強靭な棘付きの蔓をウニウニと動かし話すアルーに、白亜と小雪はキャロットの背中に隠れ震える。


「大丈夫なのだ。アルーは冗談ばっかり言うのだ。妖精たちとも仲が良いアルーは優しいのだ」


 キャロットの言葉に胸を撫で下ろす白亜。小雪はまだ怖いのか遠くに見えるアイリーンの元へ視線を向けるがまだテントの片づけをしており、今行っては邪魔になると尻尾を縮めて白亜に寄り添う。


「あはは、そうそう、冗談だからね~でも、甘い香りで敵を呼ぶのは本当よ。まぁ、ここは結界が張ってあるから集まるのは貴方たちと妖精キラービーぐらいね~」


 笑いながら話すアルーにキャロットも笑い出し、白亜は小雪を落ち着かせるように自身の爪に注意しながら優しく背中を撫でる。


「キュウッ!?」


「わふっ?」


 優しく撫でていた手を止めて顔を家の方に向けた白亜が鳴き声を上げると小雪も同じように向け、甘い香りの外に混ざる匂いに気が付き互い瞳を合わせ頷く。


「良い匂いがしてきたのだ!」


「あら、私の甘い香り以外の匂いがするわね。何の香りかしら?」


「スンスン……嗅いだことのある気がするのだ! アルーにも食べさせてあげたいのだ!」


「あら、それは嬉しいけど遠慮するわ~私は土壌からの栄養と空気中の魔素を吸えば十分だもの~それに、クロから貰った栄養剤さえあれば体は絶好調ね~キャロットの気持ちだけありがたく受け取っておくから行きなさい」


 微笑みながらそう口にするアルーに白亜と小雪が走り出しキャロットも後を追う。


「どんな味がするか気になるけどね~」


 キャロットたちの後ろ姿を見つめながら棘付きの蔓を広げ日の光を浴びるアルーは光合成をしながら日光浴を楽しむのであった。









「良い匂いがするのだ!」


 玄関を開けて叫ぶキャロットに試食中の五名との視線が合いクロが口を開く。


「食べるか?」


「食べるのだ!」


「キュウキュウ!」


「わふっ!」


「なら、手を洗って来てからな」


 クロの言葉を受け洗面所へと走るキャロットと白亜。小雪は玄関でお座りをして待ちクロが優しく手足を拭くと尻尾を揺らしながら走り出す。


「小雪は本当に偉いよな。アイリーンが浄化魔法を掛けるか、俺が足を拭くまでちゃんと待てるとか優秀過ぎだよ」


 立ち上がり手にしていた布をアイテムボックスに入れるとクロも手を洗いに向かい、入れ違いで走るキャロットと白亜を慌てて避け自身も手を洗う。


「美味いのだ! ツルツルの麺が美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


「わふっ!」


 手を拭きながらリビングから聞こえる声にひとり微笑むクロ。リビングに戻ると試作の為に作った塩焼きそばは綺麗になくなっており「次は何を作るのだ?」と元気よく声にするキャロット。


「これから作る料理は成樹祭で出す料理の試作だからな、キャロットたちはランクスさんたちの分まで食べようとするなよ」


「わかっているのだ!」


「キュウキュウ!」


「わふん!」


 分けて貰った塩焼きそばを完食したキャロットと白亜に小雪は了承するが、クロがキッチンへ向かうとテーブルに残る小魚のから揚げと骨煎餅に視線を向けており気を利かせたクランが取り分けると素早く口に入れ表情を溶かす。


「サクサクなのだ!」


「骨がこれほど美味くなるとは私も驚いた。はじめは揶揄われているのかと思ったが酒に合う素晴らしいツマミだ」


「そうでしょう。クロの料理の凄さにもっと驚くといいわ!」


「サクサク……美味しい……驚愕……」


「魚のから揚げも頭から全部食べられてビックリだよね!」


「どちらも白ワインとの相性もいいし、ぷはぁ、他の村のエルフたちも腰を抜かすわね」


 ビスチェは父であるランクスと母であるキュロットがクロの料理を褒めた事でドヤ顔を決め、フランとクランもその味に驚きながらも次々に口へ運びサクサクとした歯応えに満足気な表情を浮かべる。


「これは昨日のうちに作っておいたパンケーキです。一口サイズに作りましたので蜂蜜かチョコを掛けて食べて見て下さい。こっちはベビーカステラと呼ばれるもので仄かな甘みで食べやすいですよ」


 テーブルに運ばれてきた一口サイズのパンケーキとベビーカステラに目を輝かせるキャロットとフランにクラン。ビスチェは素早く自身の皿にパンケーキを確保すると蜂蜜を掛け口に入れ目を細め、フランとクランが続き、キュロットとランクスが同じように取り口に入れ、待ちきれないという表情のキャロットの前にパンケーキとベビーカステラの乗った皿が現れ素早く口に運ぶ。


「美味しいのだ! これはフワフワなのだ!」


「ん……ふわふわ……甘い……」


「ふわぁ~蜂蜜を掛けて食べるとか贅沢だよ~」


「確かに蜂蜜を掛けて食べるのは美味いが、成樹祭に出すにはそれなりの量が必要になるが……」


「やっぱりクロが出してくるチョコは美味しいわね。甘さの中に仄かな苦みと香りが素晴らしいわ………………でもダメね」


 キュロットからの発言に試食している全員が視線を向け、クロも何か問題があったのかと頭を傾げる。


「蜂蜜だけでも驚かれるのにチョコまで出したら奪い合いの殴り合いになるわね」


 キュロットの言葉に「ああ~」と声を重ねるエルフたち。キャロットはベビーカステラに蜂蜜を掛け口に運び両手で頬を押さえ、白亜も同じようなリアクションを取り、小雪は蜂蜜抜きのパンケーキを口に入れ尻尾を揺らしている。


「それはあるかも……白ワインでも殴り合いになったな……」


「ん……成樹祭で殴り合い……」


「下手すると村同士の戦争になりかねない……」


「そうなるとパンケーキは却下ね! ベビーカステラだけにしましょ。あむあむ……」


 そう言いながら話をまとめたビスチェは蜂蜜をたっぷりと掛けてパンケーキを口にする。


「クロの料理はある意味危険かもしれないわね……先ほどの塩焼き蕎麦は使っている食材を揃えるのも簡単でよかったけど、蜂蜜をこんなにも大量に用意するのは戦争になるわ。そこの所も注意してメニューを選ばないといけないわね……」


 難しい顔をしながらもパンケーキを口に入れ表情が一瞬で溶けるキュロットの姿に、ビスチェにそっくりだなと思うクロ。


「そうなると、次に用意した大学芋とわらび餅も却下かな……」


「大学芋!? 甘芋を使った奴ね!」


「大学芋? わらび餅? それはどんな料理なのかね?」


 ビスチェが反応し興味を持ったのかランクスがクロへと視線を向けて口を開く。


「実際に食べて見て下さい」


 アイテムボックスから取り出された大学芋に素早くフォークを刺し入れ自身の分を確保するビスチェ。フランとクランも食べた事があるのか同じように素早く手を出し皿に盛り口に運ぶ。


「甘芋を揚げてから砂糖と醤油を煮詰めて作るタレと合わせた料理ですね。わらび餅はデンプンに砂糖と水を入れて練りながら似た物を冷やしきな粉を掛けたものです。本わらび餅とは違いますが、冷たく甘いわらび餅はプルプルした食感と黄粉の風味が美味しいですよ」


 クロの言葉に眉を顰めたランクスは一言呟く。


「まるでスライムの様な見た目だな……」


 その言葉に同じように眉を顰めるエルフたち。だが、キャロットには抵抗がないらしく、わらび餅を大きく開いた口に入れ盛大にきな粉で咽るのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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