キュロットからのお願いとミネストローネ
「日が出る時間も早くなってきたなぁ~」
そんな事を口ずさみながらキッチンに立つクロが朝食の準備をしていると、階段を降りる音に気が付き視線を向ける。
「ふわぁ~」
大きな欠伸をしながら現れたビスチェに濃い目の緑茶を入れるクロ。
「お茶でいいか?」
「うん……ありがと……」
キッチンカウンターに湯気が昇るお茶を置くと両手で包み込むように持つと、息を吹きかけ冷ましながら口にするビスチェ。
「昨日は驚いたが、それよりもユニコーンとか初めて見たよ。錬金素材としてツノだけなら見た事があったが白くて綺麗だよな」
「美しさという意味だけならね。強い魔力を持つ薬草や果実を食べるから魔力量も多いわね。野生の個体をもし見かけても絶対に近づいちゃダメよ。あのツノで心臓を一突きにしてくるから……」
長く美しいユニコーンのツノに自身の心臓を貫かれる想像をしてゾッとするクロ。
「ん? ビスチェの薬草畑は大丈夫なのか?」
ビスチェが育てている薬草畑を思い出して口にすると、ニヤリと口角を上げる。
「それは昨日のうちに確りと言い聞かせたから大丈夫よ。パパが育てているユニコーンたちは利巧よ。それよりも、クロが魔力創造で作った野菜とか上げたら喜ぶと思うの」
「まあ、魔力創造で作ったものは魔力で作られているらしいからな。後でニンジンでも魔力創造して持って行くかな」
「それがいいわ。グリフォンたちには魚をあげるといいわ………………何やらいい香りね」
鼻をスンスンさせキッチンから流れてくる香りを楽しむビスチェに、クロは「なら、味見だな」と口にして完成したミネストローネをカップに入れビスチェの前に置くと目を輝かせる。
「トマトのスープね!」
「ああ、味見してくれ。多分大丈夫だと思うがランクスさんはトマト嫌いとかじゃないよな?」
「ハフハフ……美味しいわ! パパは何でも食べるわよ。それにトマトは初めて見ると思うわ。食べた事だってないから驚くかもね」
そう口にすると片手に緑茶、片手にミネストローネを入れたカップを持ち炬燵へ移動するビスチェ。
「ランクスさんの口に合えばいいが……あとはトーストとスクランブルエッグにサラダでいいかな」
手際よく料理を進め次々に完成して行きアイテムボックスに入れるクロ。
「あぁ!! ビスチェだけずるい!」
「ん……私も欲しい」
フランとクランが一階の客室から現れビスチェが口にしているミネストローネに反応し、指差し叫ぶフラン。クランは叫ぶことはないが素早くキッチンカウンターへ移動するとクロにおねだりをする。
「あくまでも味見だからな。それと朝は静かにしろよ~」
「ん……五月蠅いのはいつもフラン……」
「ごめんごめん、気を付けますので私にもお恵みを~」
ノリのいい双子にミネストローネの味見を振舞うと、カウンターの席に腰を下ろしフゥフゥと息を掛け口に入れ目を細める。顔が似ている事もありシンクロして身を震わせ頬に手を当てるあたり双子らしいリアクションである。
「これ美味いよ! 酸味と甘みに赤い色はトマトだろ!」
「ん……美味い……」
「口に合ったのなら良かったよ。緑茶も飲むか?」
「ん……」
「緑茶は緑のホッとする味のだよね。うん、お願い!」
クロは二人にお緑茶を入れながら昨日キュロットに頼まれた事を思い出して口を開く。
「そういやフランとクランは料理したことあるのか?」
「私は何でもするよ~料理に洗濯に狩りに、薬草を育ててる」
「私も料理は得意……フランはサボるのも得意……」
「なっ!? サボってなんかないだろ! それを言うならクランは昼寝ばっかりじゃん!」
「ん……昼寝は大事……」
「昼寝は大事か……少しわかるな。白亜とキャロットに小雪はよく昼寝するし、その方が色々と午後は集中できるだろうからな」
「ん……クロは理解が早くて助かる……」
「へぇ~そうなんだ……」
「それはそうとキュロットさんにお願いされた事だけど、アレって……」
その言葉にスプーンの手を止めるクラン。フランはマイペースに口を動かしているが耳はクロへと向いている。
「成樹祭で料理を振舞うからクロの料理を頑張って覚える!」
「ん……お願い……」
フランは拳を握り締めやる気を漲らせ、クランもスプーンを持つ手が止まり頭を下げる。
「ひと月ほどここに残って料理の修行するんだろ。そうなるとお祭り出す料理を決めないとだな。どんな料理がいいとかあるのか?」
「美味しいのがいい!」
「ん……他の村のエルフが腰を抜かす料理……」
「そりゃ、美味しい方がいいに決まっているが、成樹祭だっけ? それはどんなお祭りなんだよ」
「成樹祭は世界樹さまを祭ったお祭りよ。森に感謝し、世界樹さまに日々の感謝と魔力と酒と料理を捧げるのよ」
「魔力と酒と料理?」
会話を聞いていたのかミネストローネを食べ終えたビスチェが会話に加わり、空いた皿をカウンターに置くと腰を下ろす。
「そう魔力と酒に料理ね。成樹祭は十年に一度エルフたちの村で持ち回りなのよ。それで今回は私たちペプチの村で開催するから、ママがクロの料理を出したいと言っているんでしょ」
「ん……クロの料理は世界一……」
「他の村のエルフたちをビックリさせたい! 特に白ワインとかビックリ確定だね!」
「ビックリ確定はいいが……ん? 世界樹って料理や酒を食べるのか?」
ふと頭に過ったのはオーガの村近くに根を張るトレントと蔓芋が進化しアルラウネと呼ばれる魔物のアルー。どちらも魔物と呼ばれる存在だが知性が高く、人を襲うというよりは信仰され大事にされることが多い。
「世界樹さまは分体を持っているから、料理を口にしたりお酒を飲んだりもできるのよ。普段は分体を使い自身の身に付く害虫を駆除したり多い枝を剪定したりするらしいわ」
「へぇ~分体とか便利そうだな」
「世界樹さまがいるお陰で森が栄えエルフが生活できる」
「ん……世界樹さまは凄い人……前に頭を撫でて貰った事がある……」
どうやらその事が自慢らしく鼻の穴を広げ大きく鼻息を吐くクラン。
「その時は私も見ていたけど、少しだけ羨ましかったわ……」
「ふんっ、近くにクランの頭があっただけだろ?」
「それでも嬉しかった……今度はフランも……」
世界樹の分体に撫でて貰ったクランはフランを見つめ微笑み、クランは小さく頷き分体であっても世界樹がエルフたちに信仰されているのが理解できたクロは「それならメニューを考えないとだな」と口にする。
「ん……美味しいのがいい……」
「エルフも多く集まるからみんなを満足させる料理がいい!」
「前に王都の祭りで作った魚のから揚げ! あれは簡単にできて骨まで食べられるからインパクトがあるわ!」
王都で屋台を手伝った事を思い出し提案するビスチェ。対してフランとクランは眉を顰める。
「骨……美味しいとは思えない……」
「骨なんか出したら世界樹さまに失礼じゃない!」
信仰心の現れから普段食べることはない骨を使った料理に不満を露にする二人。
「余す所なく食材を無駄にしないという意味ではいいアイデアなんだけどな。それにサクサクして結構いけるし、おつまみにピッタリだから後で作ろうか」
≪それなら鳥皮のから揚げが食べたいです!≫
天井から降ってきた文字にそれもおつまみにはピッタリだなと思うクロ。
「アイリーン!? 何で天井から登場!?」
「アイリーンは神出鬼没……」
驚く二人に朝の挨拶をしたアイリーンを含め成樹祭の料理のアイディアを考えるのであった。
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