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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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薬草採取と飛来する者



翌朝、近隣の村々に配る薬やポーションを受け取った『若葉の使い』を送り出したクロたちは、この時期に採れる薬草を探しに動いていた。


「これは薬草なのだ!」


「キュウキュウ!」


 雑草を掲げて叫ぶキャロットと拾った棒を振り回しながら叫ぶ白亜に「違うぞ~」と声を掛けるクロ。代わりに活躍しているのはグングンと育ち始めた小雪である。去年からアイリーンが飼い始め両手乗りサイズだったが、今ではひと回り大きくなり犬並みに優れた嗅覚で薬草を見つけては尻尾をブンブンと振り嬉しそうに鳴き声を上げる。


≪うちの小雪は天才かもしれません!≫


 見つけた薬草を引き抜きご満悦のアイリーン。


「次こそ薬草を引き抜くのだ!」


「キュウキュウ!!」


 白亜が応援しキャロットはそこかしこにある草を引き抜き草むしり状態になりながらも頑張る姿に、今晩はキャロットの好きな肉料理にしようと思うクロ。


「こうして薬草取りをしていると僕も『草原の若葉』の一員な気がして嬉しいです……」


 そう口にするシャロンは確りと薬草の特徴を認識しているのか、解熱剤に使える薬草やポーションの素材にも使える薬草を引き抜くとカゴに分け入れる。


「シャロンは立派に一員だからな。薬草の見分けも付いているし、この前だってゼリールさま相手に色々とアドバイスしていたって聞いたぞ」


「アドバイスというほどじゃありませんが、サキュバニア帝国も同じ帝国として手を取り合えればと思い……」


「結果としては帝国ではなくなったわね。カリフェルが手伝っているし、シャロンは頑張ったわ!」


 フォローになっているのか解らない言い方で落して上げるビスチェの言葉に、複雑な表情をしながらも目に入った薬草を引き抜くシャロン。


「うふふ、邪神像の討伐では対して活躍できませんでしたが、薬草取りなら活躍できそうです! 冒険者ギルドで塩漬け依頼だった薬草がこんなにも取り放題とは、改めて素晴らしい所ですね! 妖精さんたちも薬学に詳しいのか珍しい薬草を教えてくれ、もうこんなにも集まりました~」


 カゴ二つを山盛りにしてクロの横に立つメリリ。その頭や肩には妖精が座り楽しくキャッキャしている。


「みんなで集めたにしても量が多いですね。流石は双月と呼ばれるベテラン冒険者です」


「双月の呼び名にポンチーロンも驚いていたものね~」


「サキュバニア帝国にもその呼び名は轟いておりました。『悪鬼と剛腕』に次ぐ悪辣な冒険者だと……」


 クロは素直に褒め、ビスチェはやや弄りながら口にし、メルフェルンは完全にジト目を向けている。


「メリリはいい子だよ~」


「メリリは柔らかいよ~」


「メリリは強くて優しい子だよ~」


 メリリに乗っている妖精たちからの声にメルフェルンは数歩後退り、メリリは尖らせていた唇を戻し微笑みを浮かべる。


「メリリはお菓子を分けてくれるよ~」


「内緒のお菓子なの~」


「内緒だからクロも内緒にしてね~」


 何やら自供し始めた妖精たちにクロは思い当たる事があるのか眉間に深い皺を作り、メリリは慌てて口を開き弁明を始める。


「いえ、これは、その、出来心というか、その、ビスケットが美味しいというか、チョコが甘いというか、グミの弾力が楽しいとか………………」


「たまにキッチンの棚からお菓子が消えることがありましたが、犯人は……」


 顔色を青く変えるメリリにクロがジト目を向けると妖精たちは飛び去り、キャロットが口を開く。


「盗みはダメなのだ! 盗むのならばれてはダメなのだ! 私のようにばれないように盗むのだ!」


「キュウっ!?」


 腰に手を当てドヤ顔で自供するキャロット。白亜がその足を掴み揺すり、何でそんな事を言うっ!? とでも言っているのか焦っている事が窺える。


「ほぅ~キャロットも犯人だったとは……」


「なっ!? 誘導尋問なのだ!!」


 自滅である……


≪盗まなくてもクロ先輩ならお願いすればくれると思いますよ~小雪用のお高い缶詰もお願いすれば出してくれますし、昨日のケーキもお願いすれば毎日出してくれますよね~≫


 目の前に浮かぶ文字にアイリーンへと視線を向けるクロ。


「出してもいいが毎日ケーキとか確実に太るし、糖尿病とかを気にして普段の料理が質素に変わるな。毎日ワカメサラダとか、豆腐を使ったダイエット料理になるな」


「そ、それは嫌なのだ! 肉がいいのだ! ケーキも美味しいけど肉がいいのだ!」


「キュウキュウ~~~」


「そ、それは嫌かも……」


 キャロットは叫び白亜はクロに抱き着きながら肉を懇願し、アイリーンも文字ではなく口に出して絶望する。


「種族によっても違うが、一日に必要なカロリー数はあると思うぞ。ケーキに使っている砂糖はもちろんだが生クリームだって摂取し過ぎれば体に悪いからな。たまに食べるぐらいなら大丈夫だろうけどさ、毎日だとそれこそ飽きるからな」


 クロの言葉に反省したのかメリリが頭を下げる。


「クロさま、大変申し訳ありませんでした。ですから、もうケーキを出さないとか、甘味を取り上げるのだけは……」


「わ、私も謝るのだ! 今度は自白しないのだ!」


「きゅうきゅう~」


 若干、反省していない人もいるが空を見上げ大きくため息を吐くクロ。キャロットについては祖母であるキャロライナさんに任せようと思いながらも視界に入る存在に目を凝らす。すると、白く輝く光に覆われた馬とそれに乗る人の姿が見え、思わず目を擦り魔力を込めて視力を強化する。


「おおお、あれってユニコーンか?」


 クロの言葉に一斉に空へと視線を向ける一同。


「馬の頭に角が生えているのだ!」


「うふふ、乗っているのはエルフのようですね。中々のイケメンです」


「げっ!? あれは……パパ……」


 漏らした言葉に空からビスチェへと視線を向ける一同。ビスチェは家出中でありその事を知るクロは素早く採取した薬草をアイテムボックスへと収納する。


「なあ、ビスチェの親父さんは普通の親父さんだよな? キュロットさんのように剛腕とか呼ばれてないよな?」


 舞い降りてくるユニコーンに乗るイケメンエルフを前にクロが口を開くと、ビスチェは無言でクロの後ろへと身を隠しメリリは一歩前に出て様子を窺う。


「ビスチェ~~~~~~~パパだよ~~~~~~~~」


 緊迫していた空気をぶち壊す甘えた声にずっこけそうになるクロとアイリーンだったが何とか堪え、ユニコーンから降りる姿に緊張感を保つ。


「な、何でパパがここに来るのよっ!」


 叫ぶビスチェだがクロの服の袖を掴んでいる事もありその震えが伝わり、何とかしなければと一歩前に出るクロ。


「もう家出も終わらせて家に帰って来なさい。ビスチェももういい年だろう。それに……」


 クロを見据えるイケメンエルフ。


「その男がクロか………………娘を誑かす奴は許さんっ!」


 数秒の為を作り叫ぶイケメンエルフに、心の中で「俺っ!?」と驚きながらも冷静さを取り戻すクロは素早くシールドを展開させる。が、それより早く動いたのはメリリ。素早くロングスカートに隠されているタルワールを抜きイケメンエルフ目がけ距離を詰める。


「うがっ!?」


 吹き飛ぶイケメンエルフ。


「あれ? 私はまだ何もしていませんが……」


 距離を詰めたメリリが口を開き、吹き飛んだイケメンエルフが地面に転がる姿を見つめる。


「ふぅ……間に合ったわね! ビスチェ、元気にしていたかしら?」


 ビスチェに向け微笑んだのは母であるキュロットであり、空から飛来して精霊魔法を使い自身の夫を吹き飛ばしたらしい……


「ママっ!? 何でパパが来たの? 何か変な事でも吹き込んだの?」


 ビスチェの叫びに笑って誤魔化すキュロット。


 これは何かあるなと思う一同なのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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