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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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ケーキのおかわりジャンケン



 山菜を使った天ぷらうどんを食べ終えた一行の元へイチゴをふんだんに使ったホールケーキを三つほど届けると歓声が上がり、ひとりキョトンとしたリアクションを取るリンシャン。


「母さん、凄いよ! この赤い果実は本当にびっくりするぐらい美味しいのよ!」


「それがケーキの上に乗っているとか最高ね!」


「ポンニルさんの婚約記念に、どうぞ召し上がって下さい」


 クロの言葉に頬を染め「ありがとう」と口にするポンニル。傍にいたメルフェルンが素早く皿を取りに戻り、メリリもナイフを取りに動く。


「クロのケーキは最高に美味しいから食べ過ぎに注意すること! お腹がいっぱいでも美味しいから胃もたれにならない様セーブするのよ!」


 ビスチェの言葉にリンシャン以外が頷き戻ってきたメリリが八等分に切り分けメルフェルンが皿へと移しポンニルの前に置かれるとクロへと視線を送り、クロは無言で頷くとフォークを刺し入れ一口食べると目を瞑り数秒ほど身震いし口を開く。


「うっまい! やっぱりクロのケーキは最高に美味い! 私はクロのケーキが食べられなくなる事だけが心残りだ!」


 そう口にすると大きな口を開けケーキに向き合うポンニル。他の者たちにもケーキが配られ口に入れだらしない顔を浮かべる。


「喜んでもらえたなら良かったよ。今日はお酒も出そうと思ったけどどうする?」


「我は飲むのじゃ! ブランデーならケーキにも合うと思うのじゃが?」


「私も飲みます! ポンニルさんの婚約が決まった目出度い日ですからウイスキーを頂きたいです!」


 ロザリアとルビーが元気に手を上げ強いアルコールを求め、他の者たちへと視線を走らせるクロ。すると、リンシャンがまだケーキに手を付けていない事に気が付き口を開く。


「あの、お口に合いませんでしたか?」


「いえ、そうではなく、あまりに美しい料理なので……赤い果実がキラキラと輝き、雪が積もった草原のように見えて……料理なのですから頂きますわ」


 初めて見るイチゴのケーキを見つめていたリンシャンはフォークを刺し入れ口に運ぶと左手を頬に当てて呆け、数秒後には勢いよく食べ始め皿にこびり付いていたクリームまで綺麗にすくい取り完食すると残っているケーキへと視線を向ける。


「一人二つは食べられるはずだからおかわりして下さいね。残ったらじゃんけんでもして下さい」


 そう言って炬燵エリアから去ったクロはエルフェリーンたちの夕食を重箱に入れアイテムボックスに収納し、エルフェリーンのアイテムボックスへと送る。これはクロが天使長から教えられたスキルでアイテムボックスに入れたものを同意した相手に送れるという便利なスキルである。

 エルフェリーンはまだエルカイ国の立ち上げを手伝っており「夕食だけはクロの料理がいい」というエルフェリーンのわがままを受け笑顔で了承し毎晩送っているのだ。それを喜んだのは一緒にエルカイ国へ行っているラルフとカリフェル。二人も毎晩送られてくるクロの料理をツマミに酒を飲むことを楽しみにしているのである。


「ふぅ、僕はひとつで十分ですので皆さんでどうぞ」


 シャロンがおかわりを辞退すると目を輝かせる女性たち。


「キュキュウ~」


「白亜さまもおかわりはいらないと言っているのだ! 私に食べるといいと思っているのだ!」


 キャロットから欲望にまみれた嘘の翻訳を耳にした女性たちからジト目を向けられ尻尾がピンと立ち「じょ、冗談なのだ……」と白状し、メルフェルンがおかわりのケーキを配り始める。


「うう、僕もケーキは辞退します。うどんをいっぱい食べて、もう、無理……」


 ロンダルがお腹を抱えながらその場に横になりギブアップを宣言すると、残った四つのケーキへと視線を向ける女性たち。


「私も限界かも……今日は少し食べ過ぎたわ……」


 ビスチェが離脱すると、真っ先に食べ終わったキャロットが手を上げる。


「おかわりなのだ! ケーキならいくらでも食べられるのだ!」


 その言葉に焦ったチーランダが一気にケーキを口に入れモゴモゴしながらも手を上げ、ロザリアも味わうように食べていたが三分の一ほどを一気に口に入れブランデーで流し込む。


「私もお腹がいっぱいです。後はウイスキーを楽しみたいのでケーキのおかわりは辞退します」


 ルビーもギブアップした事で目を輝かせたのはメリリとメルフェルン。メイドという自覚があるのか残った者たちがおかわりするだろうと初めから二つ食べられればと頭の隅にあり辞退する予定だったのだ。が、キャロットとポンニルとリンシャンが残り残りひとつはメイドのどちらかが食べられるという事実に、メリリからは陽炎の様な闘気が溢れ、メルフェルンも同じように闘気が溢れ出す。


「クロさまはじゃんけんで決めろと言われました……」


「うふふ、じゃんけんとは己の拳を相手にぶつけ立っていた方が勝ちですよね?」


 何やら物騒な言葉を口にするメイドの二人にシャロンは白亜を抱き上げるとキッチンカウンターへと逃げ出し、それを追うようにロンダルも移動する。ビスチェは気にした様子がなかったがお風呂へと向かい、ルビーは炬燵から出ると見物する気なのか部屋の隅へと移動しウイスキー片手に「二人とも頑張れ~」と応援する始末である。


「メイドとしてどちらが上かを決めるのも一興ですね……」


「うふふ、私はグーを出しますので避ける事をお勧めします……」


 炬燵から立ち上がる二人は視線を合わせたまま構えを取る。


「足りない様ならまだあるぞ~師匠たちの所にも送るからさ。後いくつぐらいあればいいかな?」


 キッチンからの叫びに無言で座るメリリ。メルフェルンは両手で固まった表情を解すように摩りキッチンへと向かう。


「一触即発だったのに一言で場を収めるとは……あれが現代の英雄……」


「英雄とか関係なくね?」


「クロは凄いね~あむあむ、やっぱりこのケーキって最強~」


 リンシャンが驚愕しながらおかわりのケーキを口に運び、ポンニルは呆れながらケーキを楽しみ、チーランダはクロとケーキを褒める。


「クロさま、ありがとうございます」


 ケーキを取りに戻ったメルフェルンからお礼を言われたクロは、新たなケーキを魔力創造するとおかわりの紅茶を一緒にトレーに乗せ運ぶメルフェルンの後ろ姿を見つめながら口を開く。


「シャロンが早めに伝えてくれてよかったよ……」


「はい……あの二人が室内で本気で戦ったらどれほどの被害が出るか……」


「キュウキュウ!」


「炬燵が壊れるぐらいならいいが、婚約したばかりのポンニルさんの顔に傷でもついた日にはどうなる事か……はぁ……」


「ポン姉ちゃんは気にしないだろうけど……何だかどっと疲れたな……」


 三人の男と白亜が安堵していると、へっへしている小雪がアイリーンに抱かれキッチンカウンターに腰を下ろす。


≪もう何も入りません。うぷっ、食べ過ぎました~≫


「食休みしたらお風呂に入れよ。浄化魔法でもいいけど、まだまだ夜は冷えるからな」


「クロさんは本当に母親のようですね」


「それは僕も思います。実の母はあそこで幸せそうな顔してケーキを食べていますが、クロ兄ちゃんは母親気質です」


 二人は褒めているのだろうが褒められている気がしないクロは、エルフェリーンたちに送るケーキをカットし箱に詰めるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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