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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十一章 春のダンジョン戦争
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婚約のポンニルと新しい国



「私が嫁に行く事になったからな。それでリーダーをチーランダがロンダルのどっちかで迷ってたらさ、母さんが……」


「そりゃ目出度いな。けど、どうしてリンシャンさんが?」


「ふふ、子育て前は冒険者をしておりまして、自由奔放なチーランダと自信のないロンダル二人ではリーダーは厳しいかと思い重い腰を上げました。これでもBランクの冒険者でしたから『先駆B定食』のリーダーもしておりました」


 微笑みながら話すリンシャンたちを家と上げお茶の用意はメリリが行い、ロザリアはクロがアイテムボックスから取り出したお菓子へと視線を向け真っ先に手を出しロンダルやチーランダもそれに続く。


「これが噂の異世界のお菓子……」


「まわりのビニールは剥いて食べて下さいね。えっと、用意してある薬類は……」


 『若葉の使い』の本来の目的は錬金工房『草原の若葉』で作られた薬などを近くの村々に届ける事である。普段はポンチーロンの三名で魔の森と呼ばれる危険地たちを越え配り歩いているのだ。


「うむ、やはりチョコが一番なのじゃ」


「チョコも美味しいけど、このサクサクも美味しいよ」


「不思議な食べ物ですね。小麦と砂糖を使っているのでしょうけど作り方が想像もできません」


 ロザリアはチョコを口に入れゆっくりと溶かしながら食べ、チーランダはお気に入りのクッキーを母であるリンシャンに進め、それを食べたリンシャンは目を丸める。


「はぁ……これでクロの料理やお菓子ともおさらばだと思うと……」


 小さく呟いたポンニルにクロが反応するが結婚を機に冒険者を引退するとあってはどうする事も出来ず聞き流す。が、聞き流せなかった者もおりプルプルと震えながらも熱々のお茶をテーブルに置き口を開くメリリ。


「うふふふふ、結婚生活はクロさまのお菓子よりも甘いと耳にした事があります。どうぞお幸せに~あむあむあむあむ」


 テーブルに置かれたクッキーを口に詰め込み始めたメリリに目が点になるポンニル。他の者たちも察したのかそれに触れず話を続け、クロはアイテムボックスから冷えたお茶のペットボトルを出し、これで喉が詰まった時にも対応できるだろうとひとり満足気に頷きメリリの前に置く。すると口いっぱいにクッキーを詰め込みながらも笑顔と会釈でお礼をする我が家のメイドの姿に、メイドとはなんだろうと思うのであった。






 一方、エルフェリーンとカリフェルは旧カイザール帝国で活躍している。カイザール帝国は最後の皇帝であるザナール・フォン・カイザールの死を機に生まれ変わりエルカイ国と国名を変え、この世界発である共和制を採用した国へと生まれ変わる事となった。

 旧カイザール帝国の皇女であるゼリール・フォン・カイザールは名前からフォンが取られ共和制の一角を担う事となり、他には商業ギルドの者が一人と、民間の村長上がりの老人が三大長となりエルカイ国を運営して行く事となったのである。

 開かれた政治を行う事を第一に考えたゼリールの提案でこの三名をはじめとした三大長の会合はオープンな形での話し合いの場を作り、国民であれば傍聴することができるようになったのである。


「ふぅ……これだけ大きなコロシアムに音響設備を設けるのは大変だね~」


「どれだけの国民が集まるか楽しみですな……」


「楽しみ? 私はそれよりも暗殺の方が怖いわね。旧皇帝を崇める者たちもいたでしょうし、闇ギルドだって……」


「それなら問題ありませんな。闇ギルド関係はほぼほぼ潰れました。懸念すべきは旧貴族たちですな。貴族から州知事と呼ばれる地位へと変わり他国から舐められると漏らしている者も多いとか……暗殺の対応マニュアルは必須でしょうな……」


 三人が愚痴を漏らしながら見つめる先はエルフェリーンが巨大な火球を落とし結界を張った元帝国の城のあった場所であり、今ではその姿はなくなり代わりに巨大なコロシアムへと姿を変えた議事堂である。クレーター状なコロシアムの中央には四本の柱がありエルフェリーンが強固な結界を張り暗殺対策を施してはいるがそこへ行くまでには開けた会場な事もあり危険が伴う。それの対応を三名で考えていたのである。


「普通に近衛騎士に守らせるのが普通だと思うけど……」


「ナイフや弓で狙撃されてはな……」


「いっそ、魔道鎧を着させて入場させてはどうかしら? インパクトはあるんじゃない?」


「あれなら丈夫に作られているからナイフや弓程度なら防げるね~そうすると豪華な装飾を施した魔道鎧を作らないとだぜ~」


「魔道鎧によって滅びた旧カイザール帝国が魔道鎧を着て議会を行う事になるとは……とんだ皮肉ですな……」


「あら、民たちからしたら分かりやすく強い存在は人気になるわ。魔道鎧はその象徴として十分なインパクトがあるし、魔道鎧を改造して作った農作業用ゴーレムは他の国からも重宝されるでしょう。この国の産業にしてもいいぐらいだわ」


 コロシアムを見つめながら話す三名の元へ、皇女から元皇女へと変わったゼリールと専属騎士のオレアナにメイドが数名現れ頭を下げる。


「エルフェリーンさま、お茶の準備が整いました。宜しければ如何でしょう?」


「うん、ありがとう。色々考えながらやっているとすぐに疲れちゃうね~お茶をしながらゆっくりしたいぜ~」


「そうですな……この国の未来はこの国の者が考えるのが筋というもの。我々は基礎だけ作ればそれで充分でしょう」


「はぁ……私はゆっくりとした老後を過ごそうかと思っていたのに……はぁ……他国の基礎作りとか……はぁ……」


「子供の責任は親が取るものだぜ~不注意だとしてもこの国に大量の魔鉄が輸入され魔道鎧になったんだからね~」


「はぁ……これじゃ皇帝をしていた時の方が楽だったわ……」


 話しながら席に付くと温かい紅茶が入れられクロから教わったプリンが鎮座している。


「英雄さまからレシピを教わり作らせていただきました。どうかご賞味ください」


 席を共にするゼリールからの説明を受け、目を輝かせスプーンを刺し入れエルフェリーンが真っ先に口にし表情を溶かす。


「うん、美味しいよ! 甘くてトロリとしていて黒いソースが香ばしく甘さを引き立てているよ!」


「あら、本当に美味しいわね。クロの魔力創造で作られたものと似ているわ。こちらの方がサッパリとしていて私は好きだわ」


「ふふふ、これは甘さの中にも苦みがありいいですな」


 三名に好評なようでホッと胸を撫で下ろすゼリール。プロのメイドたちもその光景に跳ねる心を落ち着かせながら支給を続ける。


「気に入っていただけたようで良かったです。英雄さまから頂いたレシピはこの国で新たな産業となりましょう」


「うんうん、それならクロも喜ぶと思うぜ~プリンが国中に行き渡るように畜産業も頑張らないとだぜ~」


「この国には多くの荒れ地がありますからな。それを農地や畜産業に使えれば可能でしょうな」


「その為には人も必要になるわね。移民の募集するのもいいかもしれないわね。オークの国ではシングルマザーが多いから声を掛けてもいいわよ」


 こうして休憩中にも話し合いは続き、新たにこの世界に生まれたエルカイ国は平和な商業国へと変わって行くのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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