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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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妖精の頼みとメリリの願望



「クロ~蜂蜜分けて~」


「クロ~蜂蜜でお酒作りた~い」


「クロ~春がくるよ~」


 アイリーンが浄化魔法を掛けた洗濯物を干していると妖精たちから声を掛けられその場で魔力創造し蜂蜜の瓶を手渡すクロ。


「これだけあれば足りるかな?」


「大丈夫~」


「できたらクロにもあげるね~」


「お礼のキノコ~」


 クロが魔力創造で作ったハチミツの瓶を五名の妖精たちが仲良く支え飛び立ち、お礼に貰った両手に収まるバスケットには見た事のないキノコが山盛りに盛られている。


「初めて見るキノコだけどお礼に貰ったし食べられるよな?」


 見た目はエノキに似ているのだが真昼の空の様な色合いに目を細めるクロ。洗濯物を干し終えベランダからリビングへ降りるとソファーで寛いでいたロザリアと目が合い急ぎ立ち上がりクロへと駆け寄る。


「ん? おおおおおおおっ!? クロ! これをどこで手に入れたのじゃ!!」


「これですか。これはさっき妖精たちからお礼に頂いたものですけど」


「おおお、妖精たちから貰ったのじゃな……うむうむ、クロよ、これはいつ料理するのじゃ? 我も御相伴にあずかれるのじゃろうな?」


「このキノコを知っているのですか?」


 手にしていたキノコ入りのカゴをロザリアへと渡すと震える手で受け取り口を開く。


「うむ、これは空色茸と呼ばれる幻の茸なのじゃ。煮ても焼いても美味いとされ、食べると次の日には肌がプルプルになると言われておるのじゃ。我も文献で見ただけじゃが爺さまの自慢話によく登場する茸なのじゃ。地中の洞窟なので育つため滅多に市場に出ることはなく、出ても貴族が買い取り王さまに献上されるのじゃ。これが食べられるのなら……」


「うふふ、肌がプルプルと聞きましたが、この茸がそうなのですか?」


 炬燵から態々出てきたメリリが興味深そうにハイエナのような瞳を向ける。


「うむ、皺を気にしておったどこぞの王妃がそれを食べピチピチに変わり、夫婦仲が戻ったという伝承があるぐらいじゃからな」


「うふふふふふふふ、それなら冬の乾燥した肌にとてもいいかもしれませんねぇ」


 ハイエナのような瞳がキラキラと輝きを見せ私は絶対に食べますというオーラまだ解き放ちだすメリリに、クロは数歩後退りながらも口を開く。


「肌に良い料理ならこの茸以外にも鳥やスッポンにウナギのようなコラーゲンが豊富な食材を使って料理すれば」


「それは楽しみですね! 空色茸や鳥にスッポン? ウナギは前に食べた事がありますがあまり美味しくなかったです……あの雷を纏ったヌルヌルウナギは倒すのに苦労しましたねぇ……」


≪それって電気ウナギでは……≫


 上から降ってきた文字にこの世界にも電気ウナギがいるのかと驚きながらも、ウナギならかば焼きだよなとひとり脳内で解決するクロ。


「クロのウナギは美味しいわよ。米の上に乗せたウナギはプルプルで香ばしく甘辛くて山椒という香りのいい薬草をかけて食べるのよ。一緒に出してくれた肝吸いというスープも奥深い味で美味しかったわね。また食べたくなってきたわ!」


≪うな重ですね~クロ先輩! スッポンは魔力創造で出せるのですか?≫


 振ってきた文字のすぐ上にはアイリーンも降ってきており、糸でぶら下がりながら手を合わせている。


「ああ、大丈夫だぞ。スッポンの鍋と唐揚げは食べたことがあるが美味かったな」


「なら昼食はスッポンの鍋とカラアゲにウナギね!」


「うふふ、私が気にしていた小皺もこれで消えるはず! うふっ、うふふふふふふふふふ」


 地獄の底から聞こえてくるような笑い声を上げるメリリに引きながらもクロは昼食のメニューを決め空色茸をアイテムボックスに入れる。すると、頭の上が輝き召喚していないヴァルが姿を現し、クロは手を前に出すとそこに着地し膝を付く。


「主様! 創造神ベステルさまからの伝言です。女神の小部屋はもう使用しても構わないとのことです。それと、小部屋には聖者の灰と呼ばれる錬金に使える素材があるとのことなので、回収してエルフェリーンへ渡すようにとのことです」


「せ、聖者の灰ですって!」


「ほう、伝説に登場する聖属性……」


「クロ! 一粒残さず回収しなさい! 聖者の灰は錬金の素材では最上級のもので、少しの鉄と混ぜるだけでも聖属性を付与することができる優れものよ! 水に混ぜれば超聖水になるし、頭に振りかければ疑似的な聖属性を付与する事だってできるんだからね!」


 ビスチェに襟首を締め上げられたクロは何度も頷き、手を離したビスチェは聖者の灰が気になるのかその場で足踏みをして落ち着かないのだろう。


「主様、まだありまして、創造神ベステルさまはうな重とスッポンの鍋を所望しておられます。どうか、祭壇に供えていただければと……」


「ん、ああ、それぐらいなら構わないよ。ヴァルも一緒に食べて行くだろ?」


「宜しいのですか?」


 顔を上げクロを見つめるヴァルも食べたかったのか尊敬の眼差しを向ける。


「もちろんだよ。呼べばすぐに来てくれるし、色々と助かっているからな。ウィキールさまやフウリンさまの分も必要なんだろ?」


「それは言われたておりませんが用意できるのなら供えていただければと思います。それと、報酬の事なのですが少し待ってほしいとのことです」


「報酬? ああ、邪神像の捕獲か……」


「あまりクロさまにだけ優遇すると他の神々や異界の神々からも目を付けかねないとのことで、丁度良いものが思い浮かんだ時にお渡しになると……」


「俺は別に何もいらないが……まあ、それよりも今は昼食の用意だな」


 ヴァルとの会話を終えるとキッチンへと入り昼食の用意を始めるクロ。


≪ウナギにスッポンとかエンゲル係数が凄い事になりそうですね~≫


「魔力創造なら魔力だけで生活費には響かないけどな~」


 魔力創造を使いスッポン鍋を想像したクロは湯気を上げる土鍋を開け中身を確認し、冷めないようにアイテムボックスへと入れると、次はうな重を人数分作り出す。


「うふふ、蓋がしてあるのに良い香りがしますねぇ。これで小皺も……」


≪メリリさんは気にし過ぎですよ~お色気たっぷりのメリリさんの目じりの小皺とか気にする人はいませんよ~≫


 その言葉にジト目を上に向けるメリリ。その視線を受けたアイリーンは瞬時に上へと退避し、残されたクロは皆に助けを求める視線を送るがビスチェにロザリアの姿はなく既に炬燵近くまで避難していた。


「うふふ、若い人には日に日にくっきりと残る皺を気にすることがないのでしょうねぇ。ふふふ、ですが、スッポン鍋とウナギを食べればこの小皺ともおさらばですね!」


 ギロリと視線が揺らぎクロへと向けられ「ヒィッ!?」と悲鳴を上げるクロ。


 この時クロは思った……過剰な期待はしないで欲しいと……


「あ、あの、メリリさん……」


「はい、何か手伝うことがありますか?」


 微笑みを浮かべるメリリが手伝うようなことなどはないのだが、あまりの恐ろしさに口を閉じたクロ。すると、玄関が開き大きな声がリビングに響き渡る。


「帰ったぜ~クロ~疲れた~お腹空いた~お酒飲みたい~」


 子供の様な声を上げるエルフェリーンと、その横でぐったりと肩を落としたカリフェルに、更に老けたような表情を浮かべるラルフの姿があり、ゆっくりと足を進めキッチンカウンターの席へと腰を下ろす。


「慣れない事はするものじゃないね……凄く疲れたよ……」


「私もサキュバニア帝国での統治が終わったのに、他国の統治を手伝う羽目になるとは……」


「ふぅ、クロ殿、どうか胃に優しいものを食べさせては頂けないだろうか……」


 やつれた三名に素早くスッポン鍋を振舞い、ウイスキーやブランデーなどの三名の好むお酒を用意するクロ。その後ろで給仕しながらもスッポン鍋を凝視するメリリ。


 こうして元気を取り戻す三名と皺を気にするメリリの相手をして過ごすクロなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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