ルビーの反省とアイリーンが産まれたダンジョン
「うむ、炬燵に足を入れると不思議と落ち着くものなのじゃな……」
「うふふ、わかっていただけたようで良かったです」
「炬燵に入るようになってからは冷え性がよくなった気がするわ」
「それはクロ先輩の湯たんぽも関係あると思いますよ。保温石をタオルで巻いて寝る前に渡してくれますから……」
「クロは色々と皆に気を使っておるのじゃな」
「うふふ、返って早々に掃除を始めるあたり、メイドよりもメイドらしいです」
炬燵にはロザリアとメリリにビスチェとシャロンが入り旅の疲れを癒し、クロはメルフェルンと一緒にリビングやキッチンまわりの掃除をしている。汚した張本人であるルビーは掃除するクロとメルフェルンに何度も頭を下げながらアイリーンが浄化魔法を使い綺麗になった食器を片付けている。
「ううう、私だってやろうと思っていたのですが、タイミングが合わなくて……」
言い訳を口にするルビーが食器を片付け終わり気まずい表情を浮かべていると、掃除がひと段落したクロはお茶を入れルビーに炬燵に入るものたちへの簡単なお使いをお願いする。
「これを皆にお願いしますね。それとミカンは一人二つまでですからね」
「はい……」
ルビーがトレーに乗せた緑茶とミカンを運び配り始めると数が合わない事に気が付き、ひとつ余った緑茶とミカン二つを空いている場所へと下ろす。
「うふふ、それはルビーさんの分ですねぇ」
「クロ先輩なりの気遣いですね」
メリリとシャロンからの言葉にキッチンへと振り返ったルビーは夕食の支度を始めたクロに頭を下げ炬燵へと足を入れる。
「それにしても爺さまが帝国に残り統治の手伝いをするとは意外なのじゃ……」
「それをいうなら母さんもですね……魔鉄を売った犯人がキャス姉さまだっとことにも驚きですが……」
「サキュバニア帝国も新しい皇帝が立って、早々にミスをするとはね。しかも、帝国には農具にした魔鉄のクワや鎌を売って、オークの国からは魔鉄を買い取っていたと……まあ、敗戦したばかりでお金がいるのでしょうけど、その責任を前任の皇帝が取るというのも凄い話よね」
「誰かしらが責任を取るべきなのじゃ」
「そんな事があったのですが……クロ先輩が生み出した魔鉄を使い魔道鎧が作られ、それを退治に向かったのもクロ先輩と……大変ですね……あちっ」
炬燵で話があったように巨大な慰安後退治の際に生み出した大量の魔鉄は農具となりカイザール帝国へ輸出され、それに許可を出したのは新皇帝のキャスリーン・フォン・サキュバニアである。他にもオークの国へ卸した物に目を付けたカイザール帝国は強引に買い取り、敗戦国の賠償金を払う義務のあるオークの国の上層部は売る事を決断し、魔道鎧の外装を覆うための魔鉄の入手に繋がったのだ。
エルフェリーンが転移で向い張本人であるキャスリーンから事情を聴き話し、表情を真っ青に変え、母であるカリフェルも同じように青く変えすぐさま膝を折ったのだ。その後はラルフと共にカイザール帝国の統治を手伝う話が進み、罰としてそれを受け入れたカリフェル。
これがたった一日で行われ、今もエルフェリーンはカイザール帝国に赴き帝国貴族や商人に教会の者たちへ睨みを利かせている。
「カイザール帝国はどんな名称に変わるのかしら?」
「うふふ、皇女ゼリールさまはエルフェリーン帝国としたかったようですが、エルフェリーンさまが断っていましたねぇ」
「どんな名前でもよいが戦争のない国に良き国になればいいのじゃ」
「そうですね。戦争で儲かるのは武器商人と勝戦国ぐらいです。負けた方は立て直しにどれほど時間と労力が掛かるか……」
「鍛冶職人もそんな事を気にするのね」
「そりゃ気にしますよ……私の場合は武器屋防具を作っていますが、使うのは仲間ですし、儲けよりも性能重視の一点ものです! 大事な仲間が無事に帰ってくるのが一番ですから戦争とかはない方がいいに決まってます!」
ルビーの言葉にうんうんと微笑みながら頷くロザリア。遠征中もクロはルビーの作った魔剣や白亜の鱗と革で作った胸当てを装備しており、帰ってくるなりクロと目を合わせると胸当ての調子とナイフ型の魔剣に問題はなかったかを聞いて来たのだ。
「うむ、ルビーがおるのならここでの鍛冶仕事は任せても良さそうじゃの」
「はい、あまり複雑なエンチャント以外は何とかなると思います」
「うむ、我の相棒はレイピアなのじゃが、エンチャントは施してはおらん。ミスリルと魔鉄の合金なのじゃ」
そう口にしながら炬燵の上にレイピアを置きルビーが手を出し鞘から抜きシンプルで美しい刀身が顔を出す。
「少しだけ刃が欠けていますね……これぐらいなら何とかなると思います」
「うむ、それならお願いしたいのじゃ。礼金は弾むからの」
「ロザリアさんからお金を受け取れないですよ。ダンジョンの時や今回も助けていただいなのですから無償でやらせて下さい!」
「そういえばダリル王国のダンジョンでも一緒じゃったのう。あの時に食べた酒と料理は今でも忘れられん思い出なのじゃ」
「私もダンジョン内で酒盛りをしたのはあれが初めてです!」
当時を思い出しながら二人で盛り上がり、いつしかダンジョンへ一緒に行こうという話へ変わる。
「お勧めのダンジョンとかあるのかしら?」
≪ありますよ! お勧めのダンジョンありますよ!≫
目の前に文字が急停止し文字がやってきた方へと視線を向けると、そこには散歩から帰ってきたアイリーンとキャロットに白亜と小雪の姿があった。
「アイリーンが勧めるダンジョン?」
≪私の故郷のダンジョンです! 私が転生した時は大きな蜘蛛たちが多くいてそこがお勧めです! まわりには宝石だか水晶だかがいっぱいありましたし、まだ人には発見されていないダンジョンだと思います! クロ先輩にお願いすればダンジョン神さまから何かしらの情報が貰えるかもですよ~≫
「アイリーンが産まれたダンジョン……いっぱい蜘蛛が出てきそう……」
眉を顰めるビスチェとシャロン。ロザリアとメリリは逆に目を輝かせる。
「未発見のダンジョンはお宝が詰まった宝石箱なのじゃ!」
「うふふ、私も未発見のダンジョンは興味がありますねぇ。最近では料理や調味料がダンジョンの宝箱から出てくる事もあると聞きますし楽しみですねぇ」
≪私は里帰りが楽しみです! あの頃は逃げるのでやっとでしたからね~強くなった私がどこまで戦えるのか試したいです!≫
若干戦闘狂な所のあるアイリーンの言葉にロザリアとメリリが頷き、話を振ったルビーはひとり顔を青くする。
「ルビーさん、顔色が悪いのですが大丈夫ですか?」
「え、ええ、少しだけ……私から言い出した話ですが、虫が苦手で、戦うのもあまり得意じゃないです……」
「そこは大丈夫よ! クロの後ろにいれば安全だわ!」
「クロさんの後ろなら安全ですね!」
「うむ、それは我も保証するのじゃ!」
シールド魔法を多用するクロへの信頼の現れだと思えば誇らしいが、本人は話を耳にしながらも手を動かしつつ「虫がいっぱいの所は嫌だなぁ」と呟く。
「イナゴ退治の時はご活躍されたと聞きましたが」
「それでも苦手なものはあるって、蜘蛛とかムカデとかカマキリとか……」
「オーガの村ではムカデから子供たちを救ったと聞きましたが」
「それも夢中でやった事だからな。もう一度やれと言われたら子供たちを女神の小部屋に避難させて逃げの一択だな」
そう口にするクロは手早く料理を完成させ、炬燵には大きな味噌味の鍋とリクエストされたカラアゲが山積みになるのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。