クラブル聖国への帰還と報告
兵士や帝都の住民たちとの宴会は朝まで続き亡くなった皇帝を偲ぶものはあまりおらず、逆に感謝の言葉を受けたクロたち『草原の若葉』。住民と商人などは重い税金の事を口にし、新しい国に変われば住みやすくなるだろう握手を求められるほどであった。
「それでは皇女さまを宜しくお願い致します」
兵士長や貴族から頭を下げられたエルフェリーンは、先ほどまでの二日酔いが嘘のような晴れやかな表情を浮かべる。
「うんうん、これからクラブル聖国へ行って連れてくるぜ~ついでにクラブル聖国から近隣諸国へ帝国が生まれ変わる事も伝えてもらうからね~」
「はっ! 宜しくお願い致します!」
多くの者たちから頭を下げられ見送られたエルフェリーンたちは転移魔法を使いクラブル聖国へと移動する。
城の中庭へと転移した一同を待ちわびていたのかシャロンとメルフェルンに皇女ゼリールと聖女ジュリアスが外にテーブルを用意してお茶を楽しんでいる。
「クロさん!」
「おう、終わったぞ~色々あったけど思っていたよりも楽に済んで良かったよ」
転移のゲートから現れたクロへシャロンが立ち上がり叫び、クロは手を振りながら再会を喜ぶ。
≪ここはシャロンくんをぎゅっと抱き締める場面では?≫
目の前に浮かぶ文字を握り潰したクロは足元へ駆け寄ってきた小雪と顔面に衝撃を与える白亜との再会を喜び、エルフェリーンたちは笑いながら聖女ジュリアスと皇女ゼリールの元へ向かい詳細を説明する。
「キャンキャン!」
クロの足元で走り回る小雪をアイリーンが抱き上げ、クロは顔にしがみ付く白亜を引きはがすと頭を優しく撫でながら久しぶりの鱗の感触を楽しむ。
「良い子にしてたか?」
「キュウキュウ!」
尻尾を振りながら良い子だったと鳴き声を上げる白亜を撫でるクロ。アイリーンも尻尾を振り続ける小雪を少しの間であったが離れ離れの寂しさがあり心行くまで撫でまわしていると、聖女ジュリアスと皇女ゼリールから喜びの声が上がる。
「本当にありがとうございます。私が帝国を新たな皇帝へとなった暁にはエルフェリーンさまへの絶対なる忠誠を誓おうと思います」
「ん? 僕は忠誠なんていらないぜ~帝国の人たちが幸せに暮らしてゆけるような政治をしてくれればそれだけでいいよ~何か報酬が貰えるのならラルフとロザリアにでもあげたらいいよ~」
「そ、そんな……それでは私の感謝が……」
「ゼリールさま、落ち着いて下さいませ。エルフェリーンさまへの感謝はわかりますが押し付けるような事はよくありません。それに英雄さまにも何かしらの報酬を用意すべきです」
聖女ジュリアスは白亜を撫で続けているクロへとキラキラした視線を向け、それに気が付いたクロは撫でていた片手を横に振る。
「確かにクロは頑張ったぜ~ほぼ一人で堕ちた天使を捕獲したからね~邪神像は壊れていて回収する必要がなかったけど、母さんからの依頼を完璧に終えたからね~そっちからご褒美でもあるんじゃないかな?」
「女神さまからのご褒美ですか!? それは凄い!! いったいどのような物を賜るのか気になります!」
「神さまから賜るとは……クロさまさえ宜しければ私と婚姻を結んで頂きたく……」
聖女ジュリアスの目の輝きが増し皇女ゼリールはこれからの帝国統治のための力として大胆な発言をするが、クロは冗談だろうと愛想笑いを浮かべたまま数歩後退り、近くにいるシャロンを壁にしようと回り込む。
「シャロンたちはどうだったんだ? 何か変わったこととかなかったのか?」
「僕は特に何もなかったよ」
そう笑顔を浮かべ話すシャロン。その横でメルフェルンが口角を上げて口を開く。
「そうですね。シャロンさまがお二人へクロさまの自慢を熱く語っておりました。クロさまの料理は世界一美味しくお酒も作れ、私とシャロンさまとの仲がぎくしゃくした時も助けていただいたと」
「あったな、そんな事も……」
「ちょっと、メル!!」
「ふふ、あの時の事は感謝しております」
頬を染めて慌てるシャロンを余所に丁寧に頭を下げるメルフェルン。その光景を鼻息荒く見つめるアイリーン。鼻息が小雪の頭を撫で目を細めながらも尻尾がぶんぶん揺れている。
「まあ、クロとの婚約は僕が許さないけど、君を兵士や民たちは待っているぜ~他にも貴族のおじさんたちも君の帰りを待っているから転移魔法で送るけど準備にはどれぐらい掛かるかな?」
「それでは今すぐに準備してまいります! オレアナ! オレアナはどこです!」
クラブル聖国の騎士たちに混じり訓練に参加していた専属メイドの名を叫び皇女ゼリールはこの場を後にし、聖女ジュリアスへと向き直るエルフェリーン。
「今頃は皇帝が倒れた事が帝都に伝えられているだろう。あの子が戻り命を狙われるような事があったら困るから、この国から信用できそうな者を数名付けてあげられないかな?」
「確かにそうですね……カイザールの血族がゼリールだけとなった今、命を狙われればまだ同じことの繰り返しになるかもしれません。国議会に報告し速やかに人選させましょう。身辺警護に聖騎士を数名付けることもお約束いたします」
「うん、話が早くて助かるよ。変わり果てた姿だとしても皇帝と宰相の二人を討ったからね~その責任ぐらいは取らないとだぜ~」
「なら、カイザール帝国からエルフェリーン帝国と改名するのも良いかもしれませんね」
両手を合わせ微笑む聖女ジュリアスに顔を引き攣らせるエルフェリーン。
「エルフェリーン帝国ですか……それは素晴らしいですな」
「ガハハハ、エルフェリーンさまの名が国名となれば多くの人が集まりそうだな」
ラルフとドランが楽しそうに話しジト目を向けると慌てて口を閉じる二人。その姿に笑い声に包まれる中庭。
「うふふ、それにしても温かな日差しが入る良い場所ですね」
「もうすぐ春が近いですからね。今年は暖冬で凍え死ぬ物もいなかったと耳にしております。これも我らが叡智の女神ウィキールさまのお慈悲なのでしょう」
メリリの言葉に聖女ジュリアスが答え立ち上がると深々と頭を下げ退出し、入れ替わりにやって来たのはこの国の国王であるクラトニー・クラブルであった。
「エルフェリーンさまに皆さま、無事なご帰還心からお喜び申し上げます」
「いいよいいよ、挨拶はこんにちはぐらいが丁度いいよ」
「それはそれは、ですが、感謝しているのは本心なので礼だけは言わせてほしいです。エルフェリーンさん方が来なければ我々の国は侵略されたでしょうし、多くの兵や民が犠牲になったはず……感謝しております」
深々と頭を下げる国王クラトニー。それを笑顔で受けるエルフェリーン。
「うんうん、命は大事にしないとダメだぜ~でも、あんまり感謝されるのは好きじゃないからさ、頭を上げてくれ。そうだ! クロのお菓子を一緒に食べないかい」
そう言いながらアイテムボックスに隠していたチョコやスナック菓子を取り出すと、クロも気を利かせアイテムボックスに入れてあるお菓子をテーブルに広げる。
「キュウキュウ」
「へっへへっへ」
白亜が開いている椅子に座り、小雪はアイリーンの腕から飛び降りるとクロの足元にちょこんとお座りの姿勢を取る。
「うふふ、白亜ちゃんと小雪ちゃんも御一緒したいようですねぇ」
「白亜は何でも食べられるけど、小雪にはこれだな」
アイテムボックスから取り出された犬用のおやつをアイリーンに投げ渡すと、小雪が走り足元をグルグルとまわりテンションをマックスまで引き上げる。
「やはり私も犬を飼おう。できるだけ面倒を見るが飼いやすいのは犬種はあるだろうか?」
ぽつりと漏らしたクラトニーの言葉にエルフェリーンたちから参考にあまりならないアドバイスを受けるのであった。
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