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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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光る拳と戦いを終えて



 女神の小部屋はクロが死者のダンジョンの隠し部屋で手に入れた宝珠スキルである。使用すれば亜空間にある部屋へと通じるゲートが開きそこへアイテムを保管したり中へ入ったりできる便利スキルなのだが、勇者召喚に巻き込まれた際に手に入れたアイテムボックスの下位スキルであり手に入れた時それほど喜びはなかったが、自身も入ることができるという点ではアイテムボックスよりも優れている事に気が付き、自分だけの部屋ができたと喜んだのだ。

 そして、女神の小部屋というスキルは本来、小部屋というだけのスキルでありそれほど広くはなく精々六畳間ほどで、使用者の魔力に応じて広さが増すという性質があり、今では体育館ほどの広さにまで成長している。

 その小部屋に女神シールドを壁に敷き詰め使用している。これは女神シールドを開発したクロの努力の結晶であり、自身が女神ベステルを思い出しシールドに描き続けたものでひとつひとつが微妙な違いがあり画力の向上という点でもクロの成長が窺えるだろう。


 そんな部屋にひとり残された堕ちた天使は壁に飾られた女神ベステルの肖像画に赤い瞳を走らせ言葉を漏らす。


「ここはいったい……私はあの者の肉体を乗っ取り受肉し……更なる星の発展を……発展を……」


 視線を走らせ続けていると目の前が光に覆われ、瘴気を発生させ身を守ろうとするが瘴気が発生する事はなく左手で影を作り視界を確保する。


「ふぅ、邪神像を確保するように言ったのに、どうして受肉した本人が来るのかしらね……」


「主様………………………………」


 光が治まり現れた女神ベステルを視界に入れた堕ちた天使は目を見開き数秒ほど驚愕するが、頬に強い衝撃を受け体が吹き飛ばされる。


「ったく……これで何度目でしょうね。貴女の散り散りになった欠片と対面するのは……まだ、多少なり瘴気を保っているようだけどすぐに暴走を始めるのよね……すぐに楽にしてあげるから……」


 構えを取る事なく瞬間的な移動と共に繰り出される拳は白く輝き神聖属性が付与され、受肉したとしても元は瘴気で作られている体では圧倒的に不利であり、殴られた箇所は白い灰となり崩れ落ちる。


「…………………………」


「ふんっ! こうして貴女を屠る度に……私は……自分の罪を……」


 輝いた拳に抵抗することなく殴られ続ける堕ちた天使。女神ベステルはいつしか涙を流しながらも拳を止めることはなく殴り続ける。


「無抵抗な貴女を浄化するには、これが一番早いから……拳に神聖属性を込めて体内の魂にまで浸透させる……受肉した肉体と汚染された魂には申し訳ないけど、輪廻から外れ消滅してもらう……はっ!!」


 強力な一撃が腹部を捉えくの字に曲がった堕ちた天使は膝を付くことはなく白く染まってゆき、その身が灰のように崩れ黒い魔石が残る。


「何度やっても……心が……痛いわね……はぁ……」


 涙で霞む視界には白い灰と小指の爪ほどの黒い魔石が映り、それを両手で大事そうに拾う。


「あと、どれだけ、無抵抗な貴女を殴らなければならないのかしらね……」


 涙を拭う事もなく光に包まれる女神ベステル。次の瞬間にはその姿が消え女神の小部屋には堕天使のだったものの灰だけが残るのであった。









「ドラン!」


 元気よく叫んだエルフェリーンの声に酒樽を片手で持ち上げ手を振るドランの姿があり、帝都の外では多くの兵士たちに加え近隣の住民や教会の者たちが酒を片手に騒いでいた。中には露店を出す商人や孤児院の子供たちもおり、逞しく生きている姿がクロには印象的であった。


「エルフェリーンさま、終わりましたか……」


「ああ、終わったぜ~クロが大活躍だったよ~邪神を完璧に封じたからね~」


「あれは見事でしたな……」


≪正直、見事でしたけどぉ~私の活躍の場が取られたようでぇ~釈然としません!≫


「そう言うなよ……これでやっと家に帰って本格的な錬金術が学べるんだからさ」


≪それはクロ先輩だけです~私は錬金術よりも抜刀術を極めたいと思います! 切った事も気が付かれない様な一撃を目標に頑張りますので、クロ先輩には試し切りの切られ役をお願いしますね~≫


 良い笑顔を浮かべなら文字を浮かべるアイリーンにクロは数歩後退り、柔らかな衝撃が背中にあたり慌ててその場を離れる。


「うふふ、私はいつまでこの紙袋を被らなければならないのでしょうか?」


 紙袋を被っている事もありメリリから色々と籠った声が響きクロは顔を引き攣らせる。


「仕方がないじゃない。メリリを見るとみんなが怯えるし、兵士の人とか腰から崩れ落ちたわ」


「もう少しだけメリリには顔を隠して欲しいかな~ほら、帰ったらクロが色々と美味しいものを用意してくれるからさ~僕はウイスキーとフレンチトーストが食べたいぜ~蜂蜜たっぷり追加で掛けて甘いのが食べたいぜ~」


「あら、私はチョコを掛けたホットケーキがいいわ! もちろん一枚目はシンプルにバターと蜂蜜にするわ!」


≪私はから揚げが食べたいです! 追加で甘酢とタルタルもお願いしますね~≫


「うふふ、ダイエットは明日から再開しますのでハニートーストをお願いします! たっぷりと蜂蜜にチョコとアイスを乗せ、フルーツで着飾っていただければ幸いです!」


「私も食べたいのだ! 肉がいいのだ! 齧り付けるぐらい大きな肉がいいのだ!」


「うむ、クロの料理は何でも美味いが肉料理が我も欲しいの~」


「前にご馳走して頂いた魚料理やパンに具を挟んだ物も中々美味しかったな」


「うむ、タマゴサンドじゃな! あれも美味いがクロにはカラアゲを作って欲しいのじゃ!」


「ふふ、クロの料理は相変わらず美味しいのでしょうけど、私が再現したチキンカレーも食べて頂きたいですね。それに、ほら」


 キャロライナが視線を向けた先には多くの住民や兵士たちが騒ぎを嗅ぎつけ集まり、帝都の外は人で溢れ始める。リアカーの様な手押し車を引き酒樽を運んで来るものや、屋台を引き商売を始める者や、それなりに地位の高く非難していただろう貴族の者たちまでもが外に集まり酒を片手に騒ぎ始める。


「何だか収拾がつかなくなりそうだな……」


「それも仕方ないだろうさ。エルフェリーンさまや英雄さまを見られるチャンスなんて一般人どもにはないだろうからな」


 そう声を掛けてきたのは冒険者『千夜の夜明け』のゼギンであり、Sランク冒険者である。


「『草原の若葉』へ家出したと聞いた時は驚いたけど楽しそうにやってるよね!」


「げっ!? お姉ちゃん……」


 ビスチェも姉であるシュミーズから声を掛けられ眉間に深い皺を作りながらも驚きの声を上げる。


「げっ!? って、何よ! 可愛い妹の心配をするのは姉の務めじゃない! それに~あの英雄さまが持っている白ワインが最高に美味しいと散々聞かされたからね~」


「うっ……また、ママが余計な事を教えているのね! ダメよ! クロの白ワインは私の物なんだからね!」


 そう言いながらクロに抱き着くビスチェ。クロはその態度に驚き慌てて離れようとするが風の精霊も力を貸しているのか風が二人を包み込む。


「ずるいのだ! クロとは私が結婚するのだ!」


 先ほど強い奴と戦うには結婚してからという考えをまだ覚えていたキャロットからの爆弾発言に呆気に取られる周囲の者たち。クロとビスチェは風に包まれその声が伝わる事はなかったのだが、エルフェリーンとアイリーンにロザリアは目を見開き固まる。


「ず、ずるいぞ~僕だってクロと一緒にいるんだ~」


「なななんっ!? キャロットさんまで参入したらもう人間関係が更に面倒臭い事になる!!」


「うむ、我もクロとだったら添い遂げたいと思うのじゃが……」


 カオスになり始めた『草原の若葉』たち。ただ一人、メリリだけは被っている紙袋が吹き荒れる風の影響を受けガサガサボウボウとだけ耳に入り、何が起こっているかを視界だけで確認し意味も解らず立ち尽くすのであった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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