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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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酒盛りとキャロライナの料理とキャロットの勘違い



「これほどまでに美味い酒は初めて飲みます。無色でありながらもすっきりとした味わいが実に良い!」


「そうであろう! 我がゴブリンたちと作った酒だからな!」


 帝都の高い塀に囲まれた外ではドランと冒険者のゼギンに兵士長や軍部長を加えた四名が日本酒を口にする。その横では多くの兵士たちが食料を運びそれらを料理するシュミーズとキャロライナ。キャロットは兵士たちと模擬戦を行っており、時折高く吹き飛ばされる兵士を救護班が助けに動き回復魔法を掛けて回っている。


「戦争による侵攻でかつての領土を取り戻すという噂話は耳にしておりましたが、皇帝陛下と宰相殿が魔道鎧を極秘裏に量産していたなど……」


「お主たちは知らなかったのだな?」


「はい、私は軍部を任されておりますが戦争をするにしても兵士の数や資金に物資が足りないと進言したばかりです。魔鉄の輸入に多くの資金を使い今や国庫は底をつきかけております。戦争を仕掛ける以前の問題です!」


「そ、そうか、それは大変であったな……」


 迫力のある軍部のトップの叫びにドランは引き気味に日本酒のおかわりを注ぎ入れ、軽く頭を下げると一気に口に入れる軍部のトップ。厳つい顔をしている事もあり兵士たちから恐れられているのだが、兵士思いの軍部のトップは戦争を回避しようと動いており、本格的な軍事侵攻が始まるとは聞かされておらず悔しそうな顔を浮かべている。


「まあ、エルフェリーンさまが動いてくれたんなら戦争が始まる前にこの国が亡ぶんだろ? それも平和的にさ、良かったじゃねーか」


「犠牲なく国が落ちるか……エルフェリーンさまには感謝だな……だが、この帝国が滅んだ後はどうなるか……貴族が幅を利かせたら、また戦争を仕掛ける話が上がるのも時間の問題……はぁ……前皇帝陛下とゼリールさまが生きておられたら……」


「ん? ゼリールは生きておるぞ。なかなかに美しい少女だったのう。エルフェリーンさま方が来るまでは酷い怪我をしておったらしいが、それも回復したと聞いたのう」


「ほ、本当ですか!!!」


「エルフェリーンさまはゼリールにこの国を任せると言っておったのう。魔道鎧も農作業用ゴーレムに改造して農地を広げるとも言っておったが」


「おお、そりゃいいな! ゴーレムを使った農作業とか楽そうでいいぞ」


 ゼギンの言葉に兵士たちの実家が農家な者も多く歓声が上がる。


「エルフェリーンさまがそこまでこの国の事を考えて下さっていたとは……」


「うむ、魔道鎧の開発者たちはエルフェリーンさまの暗殺を企み錬金工房『草原の若葉』まで行ったらしいからな。まあ、エルフェリーンさまを暗殺しようと思ったら魔道鎧を数千体ほど用意しても無理だろうがな。ガハハハハハ」


「アレは固いだけで動きが遅いのだ! それにクロが大事にしていた美味しい木を折った悪い奴なのだ!」


 兵士たちと訓練という名の無双タイムを終えたキャロットがドランたちの会話に入り、自身が原因だった果樹をへし折った話を思い出し口にする。


「それは失礼をしたな。暗殺自体が失礼なのだが、代わりに謝罪させてくれ」


「別にいいのだ! クロは怒っていなかったのだ!」


 笑顔で話すキャロットの後ろから料理を持ったキャロライナが現れ木皿に入れられたカレーと硬いパンが配られる。シュミーズはカレーの鍋を撹拌し続け兵士たちは自身たちの詰所から持ち出してきた硬いパンをナイフで切り炙り続けている。


「温かいうちにどうぞ。この料理もクロから教わったカレーいう料理を私が再現したものです」


「赤茶色のスープ? どれ、あぐっ………………うまっ!? 少し辛いが美味いな! 辛さで体が温まるぞ!」


 干し肉を水で戻したものに独自のスパイスで味付けをしたキャロライナオリジナルのカレーを真っ先に口にしたゼギンが感想をいうと、他の者たちも口に入れ表情を溶かす。


「クロの料理って言ってたけど、ビスチェはこんな美味しい料理を毎日食べているのかしら……妹なのにズルイわ!」


 ゆっくりと鍋を撹拌するシュミーズは時折手を止め自分用の器に入れたカレーを口にしながら表情を溶かしながらも、妹であるビスチェの食生活を思い浮かべる。


「クロの料理はどれも美味いのだ! カレーも色々な種類があるのだ! 肉に魚にカツにグラタンといっぱいなのだ!」


「そんなに色んな種類があるのか。すげーな、食事の度にどれにしようか悩んじまうな」


「ん? それはないのだ! クロは毎日違う料理を作ってくれるのだ! 毎日が美味しいのだ!」


 ゼギンへ笑みを浮かべながら立ち上がったキャロットはカレーのおかわりへと一番乗りし、話を耳にしていたシュミーズの前へと立つ。


「ねえ、クロの料理はビスチェも認めているのかしら?」


「ん? 認めている? う~ん、認めているというよりも満足しているのだ! ビスチェはクロが作る白ワインが大好きなのだ!」


「白ワイン? ああっ!!! 思い出した! 前に手紙で自慢されたわ! 母さんも黄金色の白ワインは最高だって! ぐぐぐぐっ、クロはここにきているのよね?」


「もちろんなのだ! 今頃は皇帝をボコボコなのだ!」


「なら、私も白ワインが飲みたいわ! さっきのお酒も美味しかったけど白ワインは群を抜いて美味しいって聞いたわ! ゼギン! 絶対クロに会って白ワインを手に入れるわよ!」


「そりゃかまわないが、譲って貰えるものなのか?」


「ガハハハハ、クロはそんなに器が小さくはないからなビスチェの姉だとわかれば喜んで寄こすだろう。それよりも、白ワインは確かに美味いが、我の作った日本酒も負けてはおらんと思うがのう」


「あなた、好みは人それぞれよ。私はクロの入れた緑茶が気に入りましたし、おにぎりという無限の可能性を秘めた料理には本当に驚かされました。心を動かすことのできる料理を作るクロがエルフェリーンさまの弟子であって良かったと思いますわ。シュミーズは鍋をかき混ぜなさい」


 微笑みを浮かべ話すキャロライナにドランも頷き、シュミーズはいわれた通りに大きなヘラでカレーの鍋を撹拌する。


「そうなのだ! 私はクロと結婚するのだ!」


 カレーのおかわりを受け取ったキャロットの発言にドランは目を見開き固まり、キャロライナは両手を合わせ「まぁ」と口にする。


「ななななな、ならんぞ! キャロットはドラゴニュートと結婚し次の竜王国を継ぐ存在なのだ! クロは確かに良い男だが……………むむむむむ」


「あら、私は賛成ですよ。キャロットが誰かと結婚したいというなんて初めてのことです。それだけクロが気に入ったのでしょう?」


 青筋を立てるドランと乙女の様な表情を浮かべるキャロライナにキャロットは口を開く。


「違うのだ! 結婚すれば強い奴と戦えるのだ! 私は強い奴を倒してもっと強くなるのだ!」


「………………………………は?」


 キャロライナの反応は沈黙の後に浮かぶ疑問であり、ドランもキャロットの言葉の意味を察することができず固まる。


「ああ、それって俺たちがこの場に立った時に言われていた事か?」


 ゼギンが少し前の事を思い出し、バスターソードを構えながら話しを聞くために対峙し、キャロライナから下がるように言われ、ドランからは「嫁入り前だからな」というやり取りを思い出したのだ。


「そうなのだ! クロと結婚すれば強い奴と戦えるのだ!」


 正解だったようでキャロットが高らかに宣言し、固まっていたドランはガハハハハと笑い出し、キャロライナは両手で頭を抱える。


「我が子がこれほどまでに戦闘狂だったとは………………」


「ガハハハハ、それならこの男と戦うがいい。聞けばSランクの冒険者だそうだぞ。後でエルフェリーンさまたちと合流すればどんな傷も生きてさえいれば癒してくれるだろう」


「ちょっ!? おいおい、いくら俺でも仲良くなったドラゴニュートの嬢ちゃんに剣を向けるのは抵抗があるぞ!」


「あら、負けるとは言わないのね~」


 カレーを撹拌するシュミーズの言葉にゼギンはバスターソードを差してある場所まで歩き手の掛ける。


「これでもSランクだからな!」


 冒険者でも最高ランクであるSを背負って立つ男は、この日ボコボコにされながらもキャロットと引き分けるのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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