ビスチェチームの活躍と光の終息
クロたちと別れたビスチェとメリリにラルフは魔道鎧が格納されている洞窟の入り口へと足を進めていた。
場所は先ほどの広場からすぐの場所なのだが地面は重い魔道鎧が歩いている事もあり踏み固められ、洞窟内というよりもコンクリートの上を歩いているような平らで、関節部の動きを滑らかにするために特殊なオイルが塗られその臭いが充満している。
「臭い……」
「少し鼻に付く臭いがしますね……」
「この先を抜ければ多くの魔道鎧が格納されている広場がありますな」
ハンカチで鼻を押さえながら進むラルフを先頭にビスチェと下半身を白い大蛇に魔化させたメリリが進む。薄暗いが洞窟内には明かりの魔道具が置かれ平らな事もあり躓くこともなく足を進め、光が漏れる入口が視界に入りビスチェが口を開く。
「ねえ、勝負しない?」
「うふふ、勝負ですか?」
「そう、勝った方が特別にクロへ料理のリクエストをしていいとか」
「うふ、それはいいですね。特別という響きが、うふふふふふふふ」
「それは私も含まれるのでしょうな?」
先頭を歩くラルフが振り返りハンカチで押さえていた鼻から手を放して笑みを浮かべる。
「ええ、構わないわ。一番多くの魔道鎧を壊した者が特別にクロへ料理のリクエストをするの。もちろん、お酒だって構わないわよ!」
自信満々に口にするビスチェにラルフは髭に手を当て「それは、それは、楽しみですな」と口にする。と、同時にメリリの体が大きく跳ね「うふふ、それならお先にっ!」とスタートダッシュを決め明かりの中に飛び込んでゆく。
「なっ! こらっ!! 卑怯よ!」
「では、私も先に行かせて頂きましょうか」
走るというよりも滑るように走るラルフにビスチェも焦ったのか、風の精霊に力を借りて風を纏い洞窟内を飛び光の中へと進む。
「うふふふふふふふふふふ、魔鉄程度の硬度で安全だと思わない事です!」
双剣と歌われたメリリが高笑いを上げながら洞窟内の広場に整列する魔道鎧の首へ鋭い一撃が襲い、ゴーレムの核のついた頭が転がる。メリリが得意とする双剣はタワールと呼ばれる湾曲した刀身を持ち同じ魔鉄で作られている。
一振りすれば赤い光が駆け抜けゴロリと落ちる魔道鎧の頭部。切断面が鏡のように美しく、タルワールで斬りかかる瞬間に魔力を込める事で刀身が一瞬だけ赤く輝き光の線を作り出し、メリリの容姿と下半身が白い大蛇な事もあり妖艶なダンスを踊っているかのような戦いぶりである。双剣というだけあって両手にひとつずつのタワールが握られ規則正しく並ぶ魔道鎧の間を駆け抜けながら、すれ違い様に二つのゴーレムの核のついた頭が切り落とされ十秒もしないうちに二十体以上の頭部が転がる。
「双剣と呼ばれるだけあって見事なものですな。では、私も」
次に広場へと到着したラルフは両手に魔力を込め浮き上がる黒い鎌。禍々しさを感じる大鎌は完全に魔力で作られたものであり、ラルフの得意な影魔術である。それを地面に刺し入れながら魔道鎧の間を駆け抜け、落ちて行くゴーレムの核のついた頭部。
「こうやって競い合うのは楽しいものですな」
ラルフが駆け抜けながら魔道鎧の影の頭部を魔力で作られた黒い鎌が通り抜けるとコロリと手前に落ちる。これは影魔術ならでは秘術であり、影ができる原因は実体に光があたり作られるもので、逆に言えば影もまた実態に影響を与えることができるという魔術である。その証拠に魔道鎧の影に黒い鎌が襲い掛かり切断された頭部が重力により落下して行くのだ。
「もうっ! どれだけクロの料理とお酒が目当てなのよ! 闇の精霊たちよ、私に力を貸して! 魔道鎧の首を落として!」
ビスチェの声にこの洞窟内で漂っていた闇の精霊たちが一斉に動き出す。黒い影が踊り一瞬にして三十体以上の魔道鎧から頭が落ち、中には手首や足首といったものまで胴体と離れ倒れるものもあるがそれは御愛嬌だろう。精霊といっても多くは微細なものであり理解力に欠ける存在が多いのである。普段なら契約している精霊と生活を共にし契約者から魔力を提供され学習して行くのだが、この場にいる闇の精霊たちとは初対面でありビスチェの意思を完璧に組む事は難しかったのだ。
それでも多くの魔道鎧の頭部が地面に転がり十分もしないうちに二百体近くの魔道鎧が討伐され三人は顔を合わせる。
「うふふふふ、動かないものを討伐するのはあまり面白くありませんねぇ」
「そうですな。張り合いがないというか、抵抗されないというのも……」
「ちょっと! 二人で先に走り出すとかずるいわ! 私は闇精霊たちとは初めての戦いだったのに、急に走り出してずるいわよ!」
隠密行動中だというのに大声を上げるビスチェは腕を組み、自身の負けを認められないのか口を尖らせる。
「うふふ、首という括りならビスチェさまが一番多く落としています」
「手首に足首……首ではありますな……」
メリリとラルフがいうように手首と足首を失った魔道鎧は自立することができずに倒れている一角へ視線を向けるビスチェは顔を赤くして声を上げる。
「だから、初めての戦いで意思疎通ができてないのよ! 少しぐらい訓練をしないと精霊たちに私の意思が正確に伝わらないのよ!」
声を張り上げるビスチェのまわりには小さく丸い闇がいくつも浮かび浮遊する。が、小刻みに震えだし、風や土の精霊たちも騒いでいるのかビスチェのまわりでキラキラと光を浮かべる。
「えっ!? 何この気配! 瘴気が溢れてる!!」
「これは邪神像が保管されていた部屋のような気配を感じますな……」
「うふふ、報酬の為にもクロさまを救わなくては!」
三名は来た道を急いで戻り、圧巻の聖魔法を視界に入れあまりの眩しさに視認することができず広間へと入るのを躊躇う。
「これほどの聖魔法を目にすることができる日が来るとは思わなかったが、膨大な魔力を感じるだけで見えませんな……」
「闇精霊たちが怯えるほどの光と聖の魔術……これ師匠とアイリーンよ……たぶん……」
「うふふ、あれだけの光を受けたら日焼けしてしまいそうですね」
目を瞑っても眩しく感じる洞窟内の広場では闇の精霊たちが洞窟の隙間や陰に逃げ、代わりに光の精霊たちが歓喜し、なかには歌い出すものや聖属性魔術に力を貸すものなどが現れその威力を増して行く。本来なら暗い洞窟ないに光の精霊が現れる事はないのだが、聖魔法の光に誘われ暗い闇に覆われていた洞窟内を照らし出し、瘴気に満ちていた洞窟内は教会や神殿のような空気感へと一変させた。
「今の聖職者たちにこの光景を見せてやりたいものですな……」
「うふふ、そんな事をしては自身がどれほどちっぽけな存在であるかを知るよりも、諦めて聖職者としての職務を放棄されてしまうかと……」
「師匠も凄いけど、アイリーンも凄かったのね……光の精霊たちがあの光に集まり歌声を捧げているわ……」
光に包まれる洞窟内が落ち着きを取り戻し目が慣れるにつれ状況が見えてくる。エルフェリーンとアイリーンは互いに目を閉じながらも意識を集中させ次に何か起こっても対応できるよう構え、ロザリアはクロの背中と背中合わせになりながらも警戒しレイピアを構え続け、クロは女神シールドを展開しサングラスの効果がなかったことを残念に思いながら手で持て遊んでいた。
やがて眼が慣れるにつれ身構えていた者たちが構えを解いて口を開く。
「ふぅ……浄化はできたみたいだけど、何も残らなかったね……」
残念そうに口にするエルフェリーン。純魔族の時のように何かしらの収穫があると思ったのだろう。
「それよりも、まだ中には邪神像があるのじゃ。それに、この道には二人で入って行ったのを確認しておるのじゃ……」
「げっ、それってまたさっきみたいのがいるのかよ……」
ガックリと肩を落とすクロの頭の上にヴァル着地し、自身の存在感の薄さをどうにかしなければと一人心の中で嘆くのであった。
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