敵地潜入と硬い……
帝都の墓地近くには教会があり多くの者たちが祈りを捧げているのだが、クロたちはその協会の脇を抜け更に進み小さな小屋へと辿り着く。そこは墓守が作業場として使っている小屋でスコップやピッケルなどの穴を掘る道具などが散乱している。
「何だかかび臭くて嫌な所だね」
エルフェリーンが口にするように辺りからは梅雨時期の体にまとわりつくような嫌なじっとりとした空気を感じる。他の者たちも同じようでビスチェはハンカチを取り出すと口に当て、アイリーンはアイテムポーチからマスクを取り出し皆に配り始める。
「ここから地下に降りられるのじゃ」
マスクを受け取ったロザリアは奥の扉を開くと足を進め、クロたちもその後に続く。コツコツと響く足音が反響するのは足を進めている先が人口の洞窟になっており階段状になった地下道を進む。
「光よ!」
エルフェリーンが生活魔法として使われている光の玉を浮かせるとロザリアとメリリは思わず顔を顰める。
「むぅ、夜目が使えるので失念しておったが皆には暗すぎるのじゃな……」
「急に眩しくなりましたねぇ。目がチカチカしますぅ」
ロザリアが目を擦り、メリリは近くにいたクロの肩に掴まり同じように目を擦る。
「ごめんごめん、少し暗すぎてね。地下へ向かっているのだから暗いのは当たり前なのかもしれないけど事前に教えて欲しかったかな」
「うむ、暗いのはここだけなのじゃ。地下の大空洞の作業場や礼拝堂には魔道具や光球で明かりを取っておるのじゃ。種族的に夜目を持って生まれるからのすっかり失念しておったのじゃ……」
自身の失敗を詫びるロザリアは目を擦りながら光に目を慣らし、メリリもクロの肩に手を置きながら瞬きを繰り返す。
「ここには闇の精霊が多いわね。まだ小さく力のない精霊だけど……ん? 微量だけどここまで瘴気が上がってきているわね……早く何とかしないと帝国中に瘴気が広がるかもしれないわ!」
ビスチェが言うように階段を降り始めると悪寒に襲われていたクロは少しでも浄化作用のある女神シールドを展開し、アイリーンも聖魔法を皆に付与してまわり薄っすらと輝く一同。
「クロもアイリーンも魔術を上手く使えるのじゃな。見込みのある若い者たちが多く『草原の若葉』は良いものじゃな」
「うんうん、二人とも僕の弟子であり家族だからね~僕に似て良い奴になるんだぜ~」
ない胸を張るエルフェリーンの言葉にロザリアは笑い声を上げビスチェはドヤ顔をし、メリリはまだ目が慣れないのか両手で擦りながらも微笑みを浮かべる。
「ほらほら、目が慣れてきたのなら進むぜ~嫌な事は早く終わらせて僕はのんびりとお酒を飲みながらクロの美味しい料理を食べたいんだ」
「うむ、我もそれに賛成なのじゃ。飛び切りのカラアゲを用意して欲しいのじゃ」
≪私はチキン南蛮がいいですね~タルタルたっぷりでお願いしますね~≫
「うふふ、私も………………限りなくダイエットができるカラアゲを……ありますよね? ありますよね?」
無理難題を至近距離から浴びせてくるメリリに苦笑いを浮かべるクロは、豆腐のカラアゲか胸肉にパン粉を付けて焼くかと思案しながら足を進め、皆もそれぞれに進み始める。
下り階段のような坂道を進み続けると広い吹き抜けが視界に入り広い空間には天井から鍾乳洞の様物がぶら下がり、今いる場所からは見えづらく下の方が淡く光って見える。
「もう少しで底まで付くはずじゃ。そうすれば明かりもあ、」
言葉を急に止めたロザリアは両手を広げ停止を促し目に魔力を集中させる。すると鍾乳洞の間から魔道鎧数体が動き回る姿が視界に入り、訓練をしているのか火球を飛ばす筒を構えていた。
「魔道鎧が動いておるのじゃ。本来なら反対側から見下ろす形で監視がしたかったのじゃがな」
指差した場所は今いる所と正反対の場所で天井からは鍾乳洞の様なものはなく視界が開けているのだろう。
「あの場所の真下に邪神像と祭壇があるのじゃ。生産された魔道鎧はこのまま下に降りた場所に並んでおる。運び出すのには別の入り口があってカイザール帝国の城と繋がっておるのじゃ」
下調べで発見した事を小声で伝えるロザリアにアイリーンが糸を飛ばし暗い天井へと姿を消すと、数秒後にはロザリアが指差した場所に現れ手を振り糸で生成した文字を飛ばす。
≪一人ずつ私が運びましょうか?≫
「洞窟内で風の精霊にお願いすると突風が吹き抜けて、すぐに下の兵士たちに気が付かれちゃうわね……」
「それなら女神の小部屋に入って待つか? それならアイリーンも俺を運ぶだけで済むぞ」
そう言いながら女神の小部屋を発動させ白く渦巻く入口を開くクロ。
「うん、それがいいね~そうすれば一往復で終わるものね~」
クロの意見を採用したエルフェリーンの言葉にメリリとビスチェは渦の中へと消えロザリアはクロへと視線を送るが深く頷かれ渋々中へと入り、エルフェリーンも天魔の杖をクルクルと回しながら中へと消える。すると、アイリーンから糸が飛ばされクロへ付着すると、勢いよく上へと飛び上がりひとりジェットコースターを体験する事となる。
上へと飛ばされたクロは下の兵士たちに気が付かれない様に両手で口を押え悲鳴を堪え、十秒ほどでアイリーンの前にぶら下がる形で到着すると涙目で睨むクロ。
≪クロ先輩ひとりだとコントロールが楽で助かりましたよ~≫
「お、お前なぁ……」
≪人生には刺激が必要だと思います!≫
肩を揺らし文字を浮かせるアイリーンに軽く切れたクロは後で覚えておけよと心の中で思いながら体に付いた糸を取ろうとするが、逆に手に付着し粘着力の強い糸に体のバランスを崩す。
≪ちょっ!? じっとしてて下さいよ!!≫
クルクルと回り始めたクロをアイリーンが慌てて手で停止させるが、そこには粘着力の強い糸がありアイリーンまでもが糸に巻き取られ体が密着する事となる。
「おい、くぐぐじいぃぃ」
「ちょっ!? どこに顔を押し付けているのですか」
宙に浮くクロの手は自らの肩に糸で固定され、アイリーンはクロ太ももに手を置くが遠心力で回転し、クロの顔はアイリーンの腹部に押し付けられる形で停止する。
「ふがふがふがふがっ」訳・糸を解除すれば済む話だろ
「ちょっ!? お腹に息が……」
「ふがふが……」訳・硬い……
鍛えられた腹筋の硬さに驚くクロに対して、アイリーンは乙女を爆発させながら頬を染めパニックに陥る。
「あぁ、なんだ。ここは敵地だからな。あまり騒ぐのは困るのだがな……」
二人の後ろの影から顔を出し小さく呟いたラルフの声にアイリーンはピタリと静止し、ギギギと首を動かし声の主を確認する。
「その糸は魔力で生成しているのだろう?」
その言葉にハッとしたアイリーンは糸の魔力を解除すると地面に落下するクロ。
「いてて、解除するにしてもゆっくりと下ろしてからにしろよな」
打ち付けた腰を摩りながら顔を見上げるクロは、真っ赤な表情で涙目になっているアイリーンの顔が視界に飛び込み思わず口を閉じる。
≪せ、セクハラ先輩は白薔薇の庭園の錆にするべきだと思います≫
腰に差している白薔薇の庭園に手を掛けたアイリーンに、クロは素早く土下座の姿勢を取りながらも俺は悪くないだろと心の中で何度も叫ぶのであった。
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