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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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立ち向かうベテラン冒険者



 ドランを中心に三頭のドラゴンが帝都の上を三周ほど旋回し終えると人のいない帝都の外へと着地する。高い壁に囲まれている帝都の入り口は東西南とあり、南西の荒野に着地した三名は予定通りの行動で帝都内にパニックを起こさせ、これから出てくるだろう兵士たちを迎い討つべく咆哮を上げるドラン。


 地面を揺るがすほどの咆哮は高い城壁が震えるほどの迫力で、二回目を叫ぼうとしたドランは大きく息を吸い込みわき腹に鈍い衝撃を受ける。


「貴方、煩いわ」


 横にいるキャロライナにとっても煩いようで尻尾の一撃をわき腹に受け大きく身をよじらせるドラン。


「私も吠えて見たかったのだ……」


「作戦では一度だけ吠えるはずだったわね。無暗に威嚇しては凄味が減るのよ。それよりも威勢のいい冒険者が来たわね」


 キャロライナが帝都を囲む高い壁の上から飛び降りる二名に気が付き殺気を放つが、着地後も臆することなく一直線に向かってくる姿勢に口角を上げる。


「近接タイプかしら? バスターソードは脅威だからキャロットは下がりなさい。貴方、いつまで痛がっているのかしら?」


 接近してくるひとりの手には自身の身長ほどもあるバスターソードを片手で持ち、もうひとりは杖を構えながら地面すれすれを飛ぶように移動している。


「う、ああ、任せるがいい! キャロットは後ろへ下がりなさい。嫁入り前だからなガハハハハハ」


 魔化しているのでわかりにくいがその言葉に渋々といった表情を浮かべながら下がるキャロット。頭の中では戦いたいと思いながらも名案が閃く。


 クロと結婚すれば強い奴と戦えるのだ!


 迷案を浮かべていると速度を落とし距離を残しながら身構える冒険者の二人。


「おーい、言葉がわかるか? 話ができるドラゴンならいいのだがな」


「そう都合がいい事なんてないわよ。ドラゴニュートじゃあるまいし」


 後頭部をボリボリと掻きながら大声を上げる男の名はゼギン。冒険者ギルドに所属する最高ランクのSランク冒険者であり、その横で錫杖と呼ばれる杖を構える女性のエルフはシュミーズ二人は『千夜の夜明け』と呼ばれる冒険者で本来ならカイザール帝国ではなくサキュバニア帝国で冒険者として活動しているのだが、魔鉄の輸入の護衛とその魔鉄を使った武器の購入しに帝国を訪れていた。


「ん? 貴女はエルフ……の割にはまわりに精霊がいないようだけど」


 キャロライナが声を発した事に二人はキョトンとしながらも口を開く。


「話が通じるのか?」


「ではドラゴニュート? 私はエルフだけど精霊は妹ばっかりに構うから……って、そんな事はいいのよ! どうかこの国から去って欲しい! もし何かしら理由があるのなら教えて欲しい! 私から冒険者ギルドや皇帝に話を持って行くから!」


 『千夜の夜明け』の二人には勝ち目が薄い事に気がついてはいるが、冒険者としての矜持を通すためにドランたちの前に立ったのだ。正直に言えば「帝都民が逃げる時間稼ぎさえできれば逃げ出しても良い」と冒険者ギルド長から叫ぶように言われ、渋々飛び去るドラゴンを追って来たのである。


「うむ、それは………………どうなのじゃの?」


 判断に困ったドランが口を開きキャロライナへ指示を仰ぐ。


「貴方たちに負ける気がしないけど、そうですね……無駄に命を奪う心算はないから、こっちの姿で手加減して勝負しましょう」


 魔化を解き現れるドラゴニュート姿のキャロライナに目を見開くシュミーズ。ゼギンは無駄に命を奪わないという言葉に安堵しながらも、舐められていると自覚し眉間に深い皺を作りバスターソードを構える。が、上着の裾をシュミーズに握られ、震える手に力を込め踏み出そうとした一歩を止める。


「きゃ、キャロライナさまではないですか? 竜王国の前王妃さまではありませんか?」


 絞り出すように口にした言葉に今度はキャロライナが目を見開き、ドランはうんうんと両腕を組みながら頷く。


「婆ちゃんは有名人なのだ!」


 後ろから魔化中のキャロライナが尻尾を振りながら嬉しそうに口にすると、シュミーズはこのチャンスを逃すものかと早口で捲し立てる。


「私はペルチの森のエルフシュミーズ。ドラゴニュートさま方とは少しですが親交があります。私の母のキュロットや妹のビスチェはエルフェリーンさまと親しくしておりドラゴニュートさま方の話は耳にしております。どうか侵攻の訳をお教え願えませんか?」


 その言葉に大きくため息を吐くキャロライナ。キャロットは魔化を解くと嬉しそうに笑顔を見せ「ビスチェとは友達なのだ!」と声を上げて尻尾を振るい、ドランも魔化を解くと「我はエルフェリーンさまの旅の友だな」と胸を張る。


「これでは我々の作戦が台無しではないですか……はぁ……まあいいでしょう。ビスチェの姉をボコボコにしてはクロが怒りそうですし……それよりも少しだけ話を聞いてもらってもいいかしら?」


 キャロライナの言葉に何度も頭を上下させるシュミーズ。ゼギンも構えていたバスターソードを地面に刺すと腕を組み耳を傾ける。


「これから起こるのはカイザール帝国への―――――」


 作戦の一部を話すキャロライナ。驚くシュミーズ。いつの間にかドランから異世界で作られた日本酒を受け取り口にするゼギン。キャロットは地面を見つめアリの行進を観察する。


「そ、それではエルフェリーンさまの逆鱗に触れこの帝国は滅ぼされるのですね……」


 ひとり驚愕しているシュミーズが震えながら口にする。


「カイザール帝国自体は名を変え現皇帝の妹に継がせる予定ではありますが、滅ぼされるであっているのでしょう。地上からカイザール帝国という国がなくなるのですから」


「この酒は凄いな! こんなに透明な酒初めてだ! 味もすっきりとしていていながらも口の中に風味が残るぞ!」


「だろう! 我がゴブリンたちと共に作った酒だからな! この酒は女神ベステルさまにも奉納された自慢の一品だ! クロが居ればこの酒に合うツマミを用意してくれるのだがな。ガハハハハハ」


「ツマミは肉がいいのだ!」


 男二人で酒を酌み交わす姿にキャロライナとシュミーズは底冷えのする視線を向ける。


「まあまあ、俺たちの任務は帝国の民が逃げるまでの時間稼ぎだろ? それに城壁だって無事なんだから立派に任務を遂行中だよ。なあ、ドランさん」


「うむ、我は足止めされておるからな。ただ、我らは帝国民を殺しに来たわけではないぞ。我々は兵士と冒険者が現れたらここに引き付けるのが任務だからな。そう考えれば実力者二人をこの場に止めておるからな、我々の任務も成功といえよ。ガハハハハ」


 意気投合して日本酒を口にする二人の言い分は間違っていない。間違っていないのだが、恐怖しながら話を聞いていたシュミーズと作戦通りに行かなかったキャロライナのやり場のない怒りを覚えるのは仕方のない事だろう。


「また来たのだ! 今度は兵士たちなのだ!」


「うむ、あれとは戦っても良いのだろう?」


「私が戦うのだ!」


「それなら俺も戦うぞ!」


 ドランが立ち上がり、キャロライナがアリから向かって来る兵士たちへ視線を向け、ゼギンまでもが立ち上がりバスターソードを構える姿に頭痛を覚えるシュミーズ。キャロライナは三十分ほど時間が稼げたので後は少し暴れて憂さ晴らしできればと指を慣らす。


「ままま、待って下さい! 私が話を付けてきますから! 戦わないで! 構えないで! 指を鳴らさない! いいですか! 私が話を付けてきますから、ここで静かに酒盛りでもして下さい!」


 そう叫びアイテムポーチからドライフルーツと干し肉を取り出しゼギンに渡したシュミーズは兵士たちの元へと走るのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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