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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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禁書の犯人と天使の暴走



 聖騎士が馬車を用意しクロとエルフェリーンにビスチェは城門を抜けクラブル聖国の郊外へまで進み馬車を降りる。辺りは春を待つ茶褐色な草原が広がり収穫後の小麦畑が視界に入る。


「危険があるかもしれませんのでもう少し離れた位置で観戦して下さいね」


「はっ! ですが、英雄様とエルフェリーン様にもしもの事があったらと思うと……」


 聖騎士たちから心配されたエルフェリーンとビスチェは笑顔を浮かべる。


「あははは、心配には及ばないぜ~禁書自体は強力な瘴気を放っているけど女神の小部屋に入れたから弱体化しているだろうし、もし僕たちに何かあっても女神の小部屋からは出さないよ~」


 安心していいのかどうかはわからないが聖騎士たちを黙らせたエルフェリーン。渋々ではあるが遠くに離れた聖騎士を確認したエルフェリーンはアイテムボックスから天魔の杖を出しクロの瞳を見つめ頷き、クロも黙って頷くと大きく深呼吸をしてから女神シールドを発生させ、ビスチェは数歩離れ何があってもいいように集中して身構える。


「では、いきますね」


 軍手をはめたクロが女神の小部屋の入り口である白い渦を発生させると女神シールドを全面にして中へ頭を突っ込むクロ。女神の小部屋内には女神シールドが複数枚壁として並び、内部には驚くことに見知った女神の姿があり、黒い靄がすっかりと無くなった禁書を持ち呼んでいるのかページを捲っている。


「ベステルさまがどうしてここに……」


 思わず声にするクロ。後ろでまだ入っていないエルフェリーンとビスチェがその声を耳に入れ驚きの声を上げる。


「えっ!? 女神の小部屋に女神がいるのかい?」


「本物の女神の小部屋になったのっ!?」


 後ろから聞こえる驚きにクロは中へと入り後ろの二人も中へと入ると女神ベステルは薄っすらと涙していたのか片手で目を拭う。


「あら、もう入って来たの……ふぅ、この禁書は私が浄化したわ」


「母さんが地上へ顕現するなんて、それほどまでに危険なものだったの?」


「危険かどうかでいえば危険よ。ただ、危険なのは知られたら困る名が書き込まれている事ね。この名を知れば呪われるし、名を書き込めば瘴気を生み出すわ……これも全部私のせいだけど……」


 そこから女神ベステルはゆっくりと昔話を始めた。


 新たな星の管理者となった女神ベステルは自然を生み出しハイエルフを創り魔素マナの循環に注意しながら星を見守った。それから時が流れハイエルフはエルフを創り人口を増やし、女神ベステルの手違いもあり動物から魔物に進化する個体が現れたり、星を渡り古龍が星へとやってきたりと色々な事が起きる中で事件が起きる。


 後に天使の暴走と呼ばれる事件である。


 天使は普通人族の脆弱さを不憫に思いある実験を極秘裏に行っていた。普通人族の交配実験である。まずは魔物と交配させ新たな種族である獣人を生み出すことに成功すると、気を良くした天使は竜の因子を使いドラゴニュートを創り、更には純魔族を使いサキュバスを創り出す。

これにより環境に強い新たな種族が誕生し天使は歓喜した。


「この星に更なる可能性が産まれた」と………………


 天使の働きにより今まで住む者がいなかった場所にも適応し星が繁栄するのだが、大元であるエルフたちが人族と戦争を起こし更には敗戦するという結果に天使は普通人族の存在に疑問を持つ事となる。


「主様が創りしハイエルフの子孫を普通人族が………………普通人族はすぐに増えるし間引かなくては世界のバランスが崩れるのでは?」


 そう危惧した天使は繁栄する普通人族の村々をまわり人口を調査すると驚きの結果が発覚する。


「能力が最も低い普通人族がこれほどまでに数を増やしているとは……やはり間引く必要があるのか……」


 世界でもっとも繁栄していた普通人族の数に驚き、更には奴隷として鎖に繋がれているエルフや亜人種の姿を目にした天使は普通人族の数を減らすべく動き出す。自らの手を汚さずに新たな生物を生み出した天使はどこにでもいる鳥に寄生させ人類への攻撃を開始する。


 ウイルスによる普通人族の間引きである。


 病気自体はあったが未知のウイルスによる侵略は多くの人類の命を刈り取る事に成功し、気を良くした天使だったが、普通人族も世界でもっとも繁栄する知識がありすぐにウイルスへの対抗手段を創り出す。


 錬金術による薬の生成と魔術による回復魔法である。


 それにより一時は死亡者数が増えていたが、すぐに持ち直した普通人族は更なる発展を遂げる事となった。錬金術と回復魔法により飛躍的に寿命が延びた事もあり増え続ける普通人族。それとは反比例し減り続けるエルフの出生率と亜人種たちの扱い。


 天使は激怒した。


 天使は自らが創造主である女神ベステルの代理人として槍を構え降臨すると街を襲いきっちりと半分の人族の命を奪い去り、多くの町で槍を振るい血を浴び続ける。


 世界が血塗られた天使に恐怖し信仰というものが失われ、返り血を浴びた天使は黒く深く変貌を遂げる。


 堕天使である。


 普通人族を間引いてまわっていた天使は自らの強さに酔い、鮮血を上げて倒れる人族の姿を笑い、自らの使命を忘れて槍を振るい続けた。


 その事に気が付いた女神ベステルは自ら手を下そうとするが、普通人族の聖女からの祈りを受ける。


「どうか我々人族を御救い下さい。英雄と呼ばれ偉大なる力を持つ者をこの地に、この国に、どうか、これ以上犠牲者を出さない為にも強き者を……」


 聖女の声に耳を傾けた女神ベステルは異世界召還とスキルによる強化を施し、聖王国へと初代勇者の召喚を実行するのだった……





 女神ベステルからの長話に付き合っていたクロとビスチェはこの世界の歴史について誰よりも詳しくなったのだが、エルフェリーンは途中からアイテムボックスに手を入れウイスキーを取り出して飲み始め、無言で出を出す女神ベステル。いつの間にか酒を飲みながらの昔話へと変わったが禁書に書いてあることを知ることができたのだった。


「その天使の名を知ると呪われ、何かしらに書き込むと瘴気を生み出すということですね」


「ええ、堕天使の名はこの世界から消えたと思っていたけど、こんな歴史書が残っていたなんてね……はぁ……あの子は真面目で確りとしていたけどこんなミスをするなんて……」


「あの子? それは叡智の女神ウィキールさまですか?」


 この禁書が叡智の女神ウィキールの聖域から発見された事もありそう問うクロ。しかし女神ベステルはウイスキーがこぼれないように体ごと横に振り否定する。


「これはエルザリーザが書いて封印しだんだろ?」


「ええ、そうよ。文字に残る魔力と筆跡からしてそうね。あの子はあの天使を気に入っていたし、色々と教わって……私がもっと早くに気が付いていたら暴走する前に止められたのにね……はぁ……」


 深くため息を吐いた女神ベステルのグラスが空になりクロはウイスキーを注ぎ入れる。


「それで邪神像についてですが、軍手で触っても問題ないのですよね?」


 気になっていた事を口にすると女神ベステルは口角を上げる。


「刺股の方がよかったかしら?」


 その言葉にどっちもどっちだと思うクロなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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