クラブル聖国とクラトニー
ドランたちと合流したクロたちはクラブル聖国の王宮へと足を運び、夜通し竜の背に乗り移動してきたシャロン達の疲れを取るためにゲストルームで仮眠を取っていた。それとは別に緊急会議を開きエルフェリーンからもたらされた情報を分析し話し合う者たちがいた。
「冒険者『豊穣のスプーン』の方々からもカイザール帝国で戦争の準備をしているという情報を受けました。これはもう否定する事ができません」
「帝国はまた懲りずに戦争を起こすという事か……」
「帝国と隣接する砦に兵力を集めるべきだな……」
「戦争となれば金が掛かる……食料も集めないと……」
「はぁ……いっそのことエルフェリーンさま方がカイザール帝国を完膚なきまでに滅ぼして下されば……」
「皇帝はそうでしょうが民たちはどうするのです? 難民問題はそれこそ経済を圧迫します」
クラブル聖国の運営している国議会では寝ずに話し合いが行われており隣国へと情報を飛ばし、自身たちからも帝国に潜らせているスパイとコンタクトを取らせその情報を待っていた。
「早くても一週間後でしょう。どれほどの情報が集まるかはわかりませんが、月に一度の報告では戦争を行うような動向はなかったはずですが……」
スパイを統括する者が口を開き国議会に参加する者たちから厳しい視線を浴びて口を閉ざす。
「魔道鎧はそれなりに恐ろしい兵になりそうだが機動力の低さを考えれば聖騎士や中堅の冒険者でも対応が可能だろう。問題があるとしたら数を揃え進軍された場合だな」
「魔鉄を使った鎧は魔術が効き辛い……それに火球を飛ばし、盾としても使えるバスターソードか……」
「それを数日で農作業用のゴーレムに改造するエルフェリーンさまの発想力は素晴らしいですな! 帝国の南と我らの北方は小麦の産地として隣国に打って出られます!」
「……………………それは戦争に勝利してからの話だがな」
「はい! 帝国にある魔道鎧全てを押収し農作業用ゴーレムへと改造する日が待ち遠しいです! 新たに農作業用ゴーレムを作る部署と役職を作るべきです! 我が国の錬金術も飛躍的に向上するでしょう!」
「それに付いては賛成だがエルフェリーンさまが捕虜としている者たちからも技術提供があれば……」
「我が国だけで独占という訳にはいかないだろうからな……」
国議会議員たちの会議を耳にしながら大きくため息を吐いたクラトニー・クラブルは農作業用ゴーレムの資料を見ながら、この国の未来はこの場の会議ではなくエルフェリーンがトップを務める『草原の若葉』たちに掛かっているのだろうと思案しながら通常業務であるサインを書き続けている。
「ふぅ……これで全部終わったな……私は少し休むが構わないだろう?」
「教皇様、これもトップとして参加して頂かなくては……」
「もう十四時間以上も会議をなされておりますからな。一度皆の頭を整理する時間も必要でしょう」
聖騎士を束ねる軍務の男が目を細め苦言を呈すが、教皇の隣で宰相として勤める初老の男がフォローを入れ小さく息を漏らしたクラトニーは立ち上がり目礼を済ませると会議室を去り近衛兵を付け長い廊下を進む。
「話の長い老人共の会議は長くなっていかんな……ん? あれは英雄殿か?」
廊下の窓から視界に入る中庭には温かな日差しが入りそこで駆けまわり遊ぶ小雪と白亜の姿と英雄として聖女ジュリアスから紹介されたクロの姿があり、フリスビーを投げては競い合って取りに行く様子が何とも自由で物珍しく見えた。
「あのような遊びは初めて見るが一般的なものなのか?」
「いえ、私も初めて見る遊びです。もしかしたら何かの訓練なのかもしれません」
後ろを歩く近衛兵の聖騎士に話を振るとフルフェイスの鎧から籠った声が返り、白亜が嚙みそこなったフリスビーを小雪が口でキャッチをする姿に肩を揺らす。
「あれを近くで見ても構わないだろう?」
「問題はないと思われますが『草原の若葉』さま方と問題を起こすのだけは……」
「そのような事はしないさ。ただ、楽しそうに見えたのだ……仮眠を取ろうとも思ったがまだ日も高いだろう? 少しぐらい小動物を見て癒されたいのだよ……」
足を進め階段を降り中庭へと通じる渡り廊下へとやって来たクラトニーはまだ続けている事に微笑みを浮かべ話し掛けることなく様子を見る。
「何かお飲み物でもお持ち致しましょうか?」
「いや、このままでいい。あはは、見ろ! 今度は白い小竜が見事に口でキャッチしたぞ! 子犬の方は悔しがって鳴いている!」
「あちらの小竜は白亜さまと呼ばれており七大竜王の白夜さまのお子様だそうです。白い子犬に見えるのはフェンリルと呼ばれる南方の魔狼だとか」
「白夜さまのお子様だと……それに魔狼……流石『草原の若葉』といったところか……」
笑顔が一変して顔を引き攣らせるクラトニー。
「その遊び相手は単独で死者のダンジョンを突破した冒険者のクロです。エルフェリーンさまに恩があり錬金術士になるべく努力しているそうです」
「七大竜王の白夜さまのお子様と魔狼の飼い主が英雄とはよくできた話だな……お飾りの私よりも国のトップに相応しいではないか……」
「………………」
クラトニー自身もお飾りの教皇兼国王だという自覚がありサインをする日々に嫌気がさしていた。が、それでもクラブル聖国の為になると信じて業務を全うしている。王政を行っているが血筋はそれほど重視されておらず前国王の弟の息子であり、教皇という地位も国を治めるのには必要だろうという聖王国からの許可を得て教皇という地位を与えられたにすぎない。それを自覚し国政には口を出さず国議会に任せているのだ。
「冗談だ。せめて愛想笑いぐらいしてくれ……おっ、今度は魔狼が取ったぞ!」
小雪が低く飛ばされたフリスビーに齧り付きキャッチした様を嬉しそうに見つめ、日頃のストレスが軽減されているのだろう。
「私も何か動物を飼ってみるのもいいかもな……もちろん、普通の犬や鳥だぞ」
「はい、安全な動物にして下さい。魔物の類では聖王国に顔向けできません」
「あははは、それはわかっている。それにしても楽しそうで良いものだな。あの円盤を使った遊びは私にもできるだろうか……」
≪ならやってみますか?≫
急に目の前に現れた白い文字にギョッとするクラトニー。近衛の聖騎士は腰に差している剣に手をかけ前に出る。
≪白亜ちゃんと小雪ちゃんは良い子ですから貴方が投げても取って来てくれますよ~それにクロ先輩と美男子さんとの交流は見ていて得しかありませんからね~≫
「得? まあいい、私があの円盤を投げてもいいのなら参加したいが……」
上から着地し現れたアイリーンが微笑むと手招きし中庭へと誘い、それに一早く気が付いた小雪が走り出し飛び上がるとアイリーンの胸に収まりへっへと尻尾を振り続ける。
「あれ? 確か国王さま?」
「うむ、飾りだがな。それよりも私も参加して構わないだろうか?」
クロの元へと歩き口を開くクラトニーに人見知りの白亜はクロの足元へと隠れるがフリスビーは続けたいらしく手にしていたフリスビーでクロの足をバシバシと叩く。
「おうおう、わかったから足を叩くな」
そう言いながらフリスビーを受け取りクラトニーへと手渡し簡単な投げからを教え、構えた所で白亜の目が輝き小雪もアイリーンの腕から飛び上がり尻尾を揺らしながらも身構える。
「うむ、では行くぞ!」
力を込めて投げたフリスビーは舞い上がり駆け出す二匹。
この日のクラトニーの日記には国議会で話し合われているこの国の未来の話よりも、フリスビーを使い二匹と遊んだ事が楽しげに書かれたのだった。
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