女神の呼び出し
「ここでは人目がありますのでエルフェリーンを連れ教会へ向かいなさい。黒野と愛理ではなかったですね。クロとアイリーンは必ず教会に来るのですよ。アイリーンには謝罪したい事もありますし……必ず来るように、聖剣の聖女はクロに付き従うようになさい」
巨大な顔が頬笑み夜空がゆっくりと閉じると、クロは後頭部を掻きながら「困った事になった」と呟く。
「もうっ! 急に居なくなったら暗いじゃないか!」
天に向かい文句をいうエルフェリーンに聖騎士や聖女は信じられないものを見る目で見つめ、クロとビスチェもそれはあんまりだろうという視線を向ける。
「よし、帰って読もう! みんな帰るよ」
そう口にすると自然にゲートを開くエルフェリーン。クロは慌てて門とエルフェリーンの間にシールドを飛ばし駆け寄り、お姫様だっこで持ち上げる。
「おお、これは楽ちんだね。えへへ、少し恥ずかしいよ~」
頬笑みながらクロの顔を見上げ、その横ではビスチェが口を尖らせアイリーンは宙に文字を出現させる。
≪何か羨ましい……≫
「キューキュー」
リュックからも羨む声が聞こえるが、それよりも王城へ事の顛末を報告と、教会へ向かわなければと頭を回転させるクロ。
「あ、あの、このまま教会へ向かわれますか? 聖騎士たちが乗ってきた馬車があると思いますが……」
「城へは私の部下を向かわせる。安心して教会へ行くといい」
聖女と聖騎士長の言葉に感謝するクロ。腕の中のエルフェリーンは「何で教会?」と頭を傾け、女神の言葉を無視して読書をしていたのかと呆れるクロ。
「おい! 何で水差す様な真似したコラっ!」
魔剣を肩で担ぎそう怒りを向けてくるレーベスに、まわりの聖騎士たちが止めに入り羽交い絞めにされながらも暴言を叫び続ける。
「デュラハンは私の獲物だったのに勝手に倒しやがって! 呪いだって受けてるんだからな! どうしてくれんだよ!」
「落ち付けレーベル! もう済んだ事だし、お前の獲物とか勝手に決めただけだろ」
「デュラハンだって私を意識して斬り合ったんだ!」
「レーベル、いい加減にしなさい! あなたが倒すのが遅かっただけです! それにあなたの呪いも綺麗さっぱり解呪されていますよ。感謝こそすれ、言い掛かりをつけるとはどういう事ですか! 帰ったらお説教です!」
聖女が目を吊り上げレーベルを叱責すると、悔しそうに下唇を噛みしめるレーベル。現役剣聖の父を持つ完全武闘派なレーベルは戦いに水を差された事が悔しく一度剣を交わした事もあり、アンデットであったとしても一人の剣士として繋がりの様なものを感じていたのだ。それが一瞬の光で浄化された事に教会の聖騎士という身分であったとしても納得がいかなかったのだろう。
「あぁ~何か、すみません。次からは気をつけますので、今日は日も落ちていますし、失礼しますね」
頭を下げながら処刑場を後にしようとするクロに熱くなっていたものが一瞬で冷め、見据えた瞳でクロを見つめながらも「何でだよ……」と呟き、疲れていた事もあり押さえつける同僚の聖騎士たちに体重を預ける。
「馬車はこちらのものをお使い下さい。私が案内致します」
聖女が自ら馬車へと向かい扉を開けると、申し訳なさそうな表情を浮かべながら馬車へと乗り込むクロ。ビスチェは「ありがとう」と微笑みながら乗り込み、アイリーンは気配を薄くしながら馬に配慮し乗り込む。
「では、教会本部までお願いしますね」
「はっ!」
馬車が動き出すと膝の上のエルフェリーンはウトウトとし始め、ビスチェは被害のある商店街や人々を見ながら窓の外の景色を楽しみ、アイリーンはリュックから顔を出す白亜と何やらお喋りをし、クロはというと真正面から見つめてくる聖女の興味がありますという瞳を受け流していた。
「クロさまとアイリーンさまは女神さまにお会いした事があるのですか?」
聖女からキラキラした瞳を向けられるクロはアイリーンへと視線を飛ばすが、聞いてない事にしたようで体を背け白亜とのじゃれつきを続ける。
「どうなのですか? それともこの事は内緒にすべき事なのでしょうか?」
「えっと……五年前の異世界召喚で、」
「ゆ、勇者さまだったのですね!?」
キラキラした瞳が輝きを増し、前のめりになる聖女。
「いえ、それに巻き込まれたのが自分です。勇者はこっちの蜘蛛の魔物で、魔王を倒した後に帰還して向こうで亡くなり、こっちへ転生して、更にこっちで赤ん坊の時に殺されたのがアイリーンです」
「まぁ……それは……」
≪同情するなら金貨プリーズ!≫
馬車内の狭い空間に糸で文字を出現させるアイリーンの頭を軽く叩きツッコミを入れるクロ。
「昔のドラマネタを何で知ってるかな……はぁ、そんな訳で女神さまとは帰還する際に会いました。アイリーンもそうだろ?」
コクコクと頷くアイリーン。
「お二人とも大変だったのですね……」
瞳に涙をためる聖女にクロは口を開く。
「大変でしたけど今では楽しいですよ。アイリーンもそうだろ?」
≪クロと一緒は美味しい≫
「おいこら、美味しいって何だよ……せめて楽しいにしてくれよ……はぁ……」
「キューキュー」
「白亜は楽しいよな」
「白亜こそ美味しいでしょ。私は色々とやって貰ってるし感謝しているわ! だから今は何か飲み物が欲しいわね」
ビスチェが褒め言葉を口にして飲み物を欲する図々しさに思う所があるが、魔力創造でペットボトルのオレンジジュースを想像し手渡すクロ。
「キューキュー」
「ギギギ」
それを見た二匹も飲み物を欲しがる困った顔をするクロ。この二匹は溢す可能性が高く、今乗っている馬車は最高級であり飲み物を溢したら迷惑になると考え、笑顔で二人を撫でて誤魔化すクロ。膝の上で寝息を立てるエルフェリーンを落とさない様に気を付けながら、背中の白亜と横に座るアイリーンの頭を交互に撫でるのであった。
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