修繕と怒られる女神
禁書庫の修繕には司書たちや聖女や聖騎士までもが駆り出されその日のうちにそれらしい形には落ち着いたが、窓ガラスや棚の発注と納品などが必要になり数千冊の禁書を一時的に結界で覆うエルフェリーン。他にも禁書庫内を封じていた結界を大々的に改造し更に強固なものとする為、エルフェリーンはビスチェと協力して作業を行った。
「ふぅ……これだけ強化すれば問題ないと思うぜ~」
「そうね。外からからも中からも高威力の魔術に対応できるはずよ」
二人は四時間ほどかけ禁書庫内に結界を張り用意されていたソファーに腰を下ろす。
「うふふ、お二人の結界が施したのなら安全ですね」
「壁の修繕も綺麗に終わりました。改めてありがとうございます」
メリリが微笑み聖女ジュリアスが頭を下げる。
「いやいや、あの爆発は僕が強引に封印を解いたからね~でも、あと数年もすれば封印ごと爆発していたぜ~瘴気の膨らみ方が異常だったからね~」
あっけらかんとしながらも怖い事を口にするエルフェリーン。それを聞いた聖女ジュリアスとこの場にいる司書長の顔が青ざめる。
「それは本当なのですか!?」
「ここ数年でこの部屋に入るたびに悪寒が走っていたのですが、やはりあの禁書が原因だったのですね……」
「ああ、あの禁書は特別な封印処理がしてあったからね~多分だけど僕の妹だと思うよ~魔術の中でも結界やシールドといった防御魔法が得意だからね~昔はよく結界魔術の問題を出し合い解き合ったものだよ~」
深くソファーに座り虚空を見上げながら話すエルフェリーンは姉妹であるハイエルフたちを思い出しながら楽しそうに口にする。
「あの禁書は五十年ほど前に建て替えられたのですが、その時にはもう現存しておりいつ入手したのかはわかりません。本の形を取っておりましたがいつの時代に作られた物かも解っていない禁書です。それをエルフェリーンさまの御姉妹が封じて下さったのですね……」
腕組みをしながら難しい顔で口にした司書長にエルフェリーンは両手を上げて魔術を込める。
「ほら、封印の魔術ってのは意外と簡単なんだ。だけど強度の問題があってね。今では主流じゃないけど、ハチの巣みたいな構造を作り出して封印したいものを閉じ込めるんだよ。力の掛かる場所に多く魔術を込めて包み込むと強固な封印魔術の基礎が出来上がるんだぜ~そこに魔力妨害や神聖魔法やダミーの魔力阻害を組み込んで開かないようにするんだけど……難しかったかな?」
宙に浮かび薄っすらと輝く六角形の集合体を見上げる一同はポカンと口を開け呆け隣に座るビスチェ以外には理解ができていない。
封印魔術は高度な術式を使う事もあり専門的な技術で培われてきた者だけが使うことができ、その多くは一子相伝で受け継がれている。少し魔術が使えるぐらいの者には理解するのは無理なことだろう。
≪夕食の準備ができましたよ~≫
禁書庫内にノックの音が響きアイリーンが糸で作られた文字を浮かべるとパッと表情を変えるエルフェリーン。ビスチェもソファーから立ち上がるとお腹の音を鳴らして顔を赤らめる。
「英雄さまが腕を振るって下さっておりましたな」
「はい、神々すらも魅了する料理を作られております。私も口にしましたが一生の思い出です」
司書長と聖女ジュリアスも封印魔術の話は難しかったようで夕食の話題へと変え、エルフェリーンもソファーから立ち上がると盛大にお腹の音を鳴らし、速足でクロの元へと向かうのであった。
「ったく! クロは本当に面倒事に巻き込まれるのが上手いわね……エルフェリーンもそうだけど、今更こんな禁書が出てくるなんて……し、か、も、ウィキールの聖域に遭ったという事に驚くわね……」
天界では女神ベステルが正座する叡智の女神ウィキールにジト目を向けながら腕を組み話、正座するウィキールは俯きながら謝罪の言葉を繰り返していた。
「申し訳ありません。私の聖域にあのような禁書があるなど……聖域に戻ったのももう十年ぶりであのような事になっているとは……」
「まったくよね。あれだけの瘴気が漏れているのに気が付かない司書長や聖女にも問題があるけど、一番の問題はその所有者よね……」
眉間に深い皺を作った女神ベステル。正座しながら同じように皺を作る叡智の女神ウィキール。
「あの書物が書かれたのは今から二千年ほど前だったかしら……堕ちた天使を討伐した際に何百という負の魔力が地上に降り注ぎ、厄災を引き起こしたわ。その厄災の中でも大きな破片が意思を持ち人々を穢したのよ。そして、その史実が書かれていたのがあの禁書ね。内容自体はありふれたものだけど、他と違うのは堕ちた天使の名が書かれていたのよ……
その名は口にすれば厄災が起こり、その名を書けば瘴気が溢れ……その名を祭れば約祭が復活する……
復活はしないまでも悪い事が起こる事は確実よ。殆どのかけらは回収し消滅させたけど少なからず地上のどこかにあるはずよ……」
「すべて回収したのではないのですかぁ?」
「できるわけないじゃない。地上への干渉は基本的にはしてはいけないというルールがあるし、私が顕現したらどれだけ騒ぎになるか……」
「去年しておられますよぅ。ターベスト王国の上空にぃ」
「あれはクロが悪い! それにアイリーンの事もあったから仕方なくよ! はぁ、何かあったらクロやエルフェリーンたちが何とかすると祈る事にするわ」
「神が祈るのですぅ? それ事本末転倒ではぁ?」
「……………………………………」
愛の女神フウリンの言葉に何も言い返せなくなった女神ベステルはキープしてある日本酒の瓶を取り出すと封を開けラッパ飲みで口にする。
「ぷはぁ~~~~~神だって万能じゃないのよ! それよりもクロの小部屋のスキルに入れてある禁書が苦しんでいるわよ。やっぱり私の神威は最強だわ!」
グビグビと日本酒を飲みながら女神の小部屋と名付けたクロの小部屋のスキルに閉じ込められ、苦しむ禁書を酒の肴にして楽しむ女神ベステル。
「私も国王の不倫がばれてぇ土下座している所を見る仕事が残っていますぅ」
その言葉を残して愛の女神フウリンが退出し、残った叡智の女神ウィキールは日本酒と女神の小部屋に入れられ苦しむ禁書に夢中なベステルに気が付かれない様、こっそりと音を立てず土下座のまま後退し部屋を抜け出すのであった。
「美味~い! クロが作ったから揚げはやっぱり最高だよ~」
大図書館の庭には大きなテントが張られ壁の修繕や専用の本棚を作る職人たちに混じり食事を取るエルフェリーン。ビスチェやアイリーンも揚げたてのから揚げを口に入れハフハフと白い息を漏らし、聖女ジュリアスや司書長も熱々のから揚げを食べyr目を輝かせる。他にも聖騎士や司書たちも集まり食事をして酒を飲み盛り上がる中庭。
「うふふ、皆さま美味しいと言って下さいますので作り甲斐がありますね」
「ああ、野外で寒いから熱々の料理の方が喜ばれるよな。シチューにして正解だったな」
冷え始めたオレンジの空の元で食事を振舞うクロとメリリは温かいクリームシチューを大量に作り、揚げたてのギガアリゲーターを使ったから揚げを振舞いながら白い息を漏らす。
「昼間の屋台料理も美味しかったのですが、やはりクロさま料理が美味しいです」
「うむ、それに関しては私も同意だ。ああ、それと後で話があるから聞いて欲しい」
聖女ジュリアスの横で一緒にから揚げを口に入れしれっと食事に混ざる叡智の女神ウィキールに、これは怒られるのかもという憶測を立てるクロはアイテムボックスのスキルを使い梅酒の瓶を取り出すとウィキールへそっと手渡すのであった。
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