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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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趣味に合う本と楽しい小雪



「クロ先輩……」


 本から視線をずらして窓から中庭を見下ろすアイリーンは小さく呟く。すると、ここへ案内を申し出た司書の女性は口を開く。


「英雄さまが気になるのですか?」


 その言葉にアイリーンは声に出ていた事に気が付き頬を染め文字を浮かべる。


≪いえ、小雪の面倒を任せてしまって……クロ先輩も読みたい本があったのかと思うと……≫


「なるほど……確かに小雪ちゃんは賢そうですが……一緒に大図書館へは入れたら良かったですね……」


≪小雪は文字が読めないですので仕方がないですよ……それに、ほら、あんなにも楽しそうに走り回っていますから……クロ先輩には何かしらで埋め合わせをします!≫


 中庭で走り回る小雪はクロが投げる柔らかいフリスビーにジャンプして齧り付く。これはアイリーンが毎朝行っている遊びで幼いながらもフェンリルという種族の身体能力は高く狩猟本能もあり、両手ほどのサイズでありながらも素早く動き高いジャンプ力でフリスビーを咥えてクロの元へと運び次を投げろと尻尾を揺らす。


「それにしてもアイリーンさまは見識深く尊敬に値しますわ。芸術というものを良くご存じなのですね」


≪芸術……確かに芸術です! 実はここだけの話ですが私が個人的に有している禁断の本があるのですが……≫


 アイテムバックに手を入れ取り出した一冊の本にはカバーが掛けられどんな本なのかはわからない。が、司書の女性は鼻の穴を膨らませる。


「そ、それはいったいどのような……」


≪乙女の嗜みです!≫


 手にした本を司書に手渡すアイリーン。生唾を飲みながら捲る司書。


 二人の仲が深まったのは言うまではないだろう……






 一方、エルフェリーンとビスチェは魔導書が保管されている立ち入り禁止エリアへと足を運んでいた。特別な結界が施された扉は重厚でそれが開いた瞬間に冷気が足元を通り過ぎ身を震わせるビスチェ。エルフェリーンは逆にテンションを上げ、これだけ強固な結界を張り流れ出る魔力に自然と口角を上げる。


「魔導書も多くあるけど禁書の類も多くありそうだぜ~」


「はい、エルフェリーンさまの仰る通りでございます。ここには数多くの魔導書に加え、所持しているだけでも処罰されるような禁書も多く獲り揃えてあります。まあ、一般的な者にはここへ入る事すらできませんが……」


「うんうん、僕は読んでもいいのかな?」


 遠足へ行くような足取りで中に入るエルフェリーン。ビスチェは一歩踏み入れ感じる魔力と所々に黒い靄が掛かり視界を塞ぐ闇に踏み入れた事を軽く後悔する。


「ビスチェは無理しなくても大丈夫だぜ~ここは本当に危険な書物が集められているからね~ほら、あの魔導書なんて人体を錬成した経緯と失敗について書かれた物だし、あっちは魂の武器に移植する実験記録。こっちは純魔族を召喚する魔導書、人魚の血を使った回復薬? 記憶を操作する魔導書……どれも胸糞悪い物ばっかりだね! それにさっきからこちらを見て来る魔導書は……へぇ~リアルに純魔族を封印した本だよ!!」


 話す内容と表情が合っていないエルフェリーンは笑顔で魔導書の説明をして一冊を手にする。


「あはははは、これは僕が寄付したホムンクルスの誕生と死だね……あの子が知識や常識を覚える度に僕は本当に嬉しかったな~。僕の為に狩ってきたイノシシを料理してくれてね~骨だけを軟らかく煮こみ続けてくれたよ~味は最低だったけど今思えばいい思い出かな……」


 良い話なのか嫌な話なのか本人にしか解らないだろうが、司書長は涙しながら話を聞き、ビスチェは数歩後退ると口を開く。


「わ、私はメリリやアイリーンと一緒に読書してくるわ! ここが怖い訳じゃないけど、一般的な恋愛というものも学ぶべきだと思うの!」


 そう言葉を残し逃げるように退出したビスチェは禁書庫から一般的な読書エリアへと足を運ぶ。すると読書するメリリが視界に入り声を掛けようとする。が、読書しながら「うふふ」と笑い声を上げている事に違和感を覚え口を噤む。


「気に入っていただけたようで良かったですわ」


「うふふ、はい、とても有意義な時間が過ごせそうです」


 読書中にも関わらず話し掛けてきた司書の女性。手にしているタイトルが目に入り目を細めるビスチェ。


 メイドと少年領主の禁断の愛……


 他にも少年をターゲットとした年上女性が活躍する物語の本が多く重ねられ、数歩後退するビスチェ。二人に気が付かれないように気配を消して離れ窓際へと移動する。すると中庭を走り回る小雪とクロが視界に入り思わず微笑み、追っていたクロが転ぶと吹き出して笑い声を上げる。


「ぷくく、クロったらフリスビーを踏んですっ転んだわ」


 ビスチェが言うようにフリスビーを踏み転んだクロ。そこへ小雪が走り起き上がろうとするクロの胸に乗り顔をペロペロと舐め始める姿に笑い声を上げる。


「うふふ、クロさまには申し訳ありませんがとても楽しそうですね。小雪ちゃんの面倒を一人で見ると言われた時は驚きましたが、楽しそうで良かったです」


 横から聞こえた声に一瞬驚くも、隣に並んだメリリが微笑みながらクロを見つめる姿にビスチェも微笑みを浮かべる。


「クロは文字よりも遊びの方が似合うわよ。それと料理ね!」


「うふふ、そうですね。クロさまの料理は国王陛下や皇帝陛下をも魅了する素晴らしいものですから」


 司書も隣に現れ中庭で戯れる青年と一匹を見ながら談笑へと移るのだった。







 そんなクロは小雪に舐められ抱き締めて起き上がる。


「こらこら、あんまに舐めると後が怖いからな~」


「くぅ~ん」


 反省しているのか尻尾をだらりと下げて情けない鳴き声を出す小雪。そしてクロは気が付く。こちらを見ている視線に……


「何だか多くの人が集まっているな……」


 大図書館はコの字型をしており入口には広い中庭があるのだがその先には多くの者が集まっており、門が開くと屋根付きのリアカーを引く者たちを聖騎士たちが指示をして場所を決めている。中には子供の姿もあり手伝いをしているのか停車したリアカーに椅子を並べている。


「屋台を設置しているのか?」


 クロが頭を傾げると小雪も一緒に頭を傾げ思わず笑い声を上げる。


「英雄さま!」


 中庭に声が響きクロの元へと掛けてくる聖女ジュリアス。その後ろには聖女の警備担当だろう聖騎士が二人付き鎧の音をさせながら後を追いクロの前に制止すると頭を下げる。


「あの、ここは普段から屋台を入れているのですか?」


「いえ、本日は特別に商業ギルドの方へお願いしてこちらに数台の屋台を入れて頂きました。皆さまが屋台の食べ歩きがしたいと申されていたので……ご迷惑だったでしょうか?」


「いえいえ、ありがとうございます! 自分は文字を読むよりもご当地料理の方が勉強になります! ほら、小雪も嬉しいのか尻尾が止まりませんよ」


 クロが言うように両手で持ち上げていた小雪は尻尾を元気に振り続ける。屋台から肉の香りが流れてきたのだろう。


「それは良かったです。司書さま方にも伝えて参りますのでゆっくりとお待ちください」


「はい、何から何までありがとうございます」


 クロがお礼を言うと聖女ジュリアスは走り大図書館へと向かい聖騎士たちもそれを追う。


「小雪が気に入る料理もあればいいな」


「わふぅ!」


 クロは立ち上がりリードを持つと屋台へと向かい準備中の屋台の主人に会釈してまわり、小雪を見つけた子供たちは目を輝かせて白いモフモフを凝視する。


「ワンちゃん! ワンちゃんがいるよ!」


「白くてカワイイ~」


「触ってもいいですか?」


 集まってきた子供たちにいつものように飴を配り、一緒に屋台が始まるまで楽しく過ごすクロなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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